西表三泊四日の旅行も今日の船待ち時間迄。明美のみならず、この私にも生まれて初めての事が多々訪れた。二人が何を見詰めていたのかなどと云う疑問は、それこそ愚問にも似たものだ。
朝食後、二人は互いにカメラを持って、民宿から一番近いのに未だ足を踏み入れていない宇那利崎の浜に降りてみた。この西表での最後の想い出となる日、これ迄の一週間のうちで最も明るい笑顔を見せていた。
瞬く間に時は過ぎてしまった様だ。民宿に戻ると、『第3住吉丸』の出航時間が気になりだした。やっと船の確かな時間が判った時にはまだ幾分なりとも時間が有ったのにも拘わらず、慌てて荷造りをした。それ程の量ではないのに。昨夜の雨のおかげで、せっかく干しておいた星砂が殆ど洗い流されて、新聞紙の上には僅かに残っている程度であった。ガッカリして溜め息をしている二人を見て、オバチャンが自分で別にしまっておいた乾いた星砂を出してきて、
「これを持って行きなさい」
と言って二人に持たせてくれた。「ありがとう、オバチャン」
「本当にありがとう」
「良かったね」
「ホントね」
午後二時を少々過ぎた頃、そろそろ出発しようという時になって送迎用のバンがパンク。右フロントのタイヤだった。慌ててジャッキを取り出してきてフロントを浮かせタイヤの交換。ナットを締め付け、再度のお別れの挨拶をすると、オバチャンが二人を歓ばせる一言を言ってくれた。
「来年も二人でいらっしゃい」
「ええ」
「はい、きっとね」
そんな別れを交わすと、急いで車は船浦に向った。
船浦に着くとどうした事か、知らない筈の乗船券売り場を、私は知っているかの様に言い当てた。車を待たせておいて切符を買うついでに、私はみんなにアイスクリームを買った。
「どうぞ~、溶けないうちに
食べちゃって」
今にも出航しそうでなかなか出ない住吉丸に乗り込むと、お世話になった民宿の息子さんが見守ってくれていた。乗船してからどれくらい経ってからの事であろうか、定刻通りの午後三時、船は何もかもが生まれて初めての思い出と共に、西表は船浦の港を静かに離れて行った。
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