東京でカラヴァッジョ 日記

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ミケランジェロと理想の身体(国立西洋美術館)

2018年07月07日 | 展覧会(西洋美術)
ミケランジェロと理想の身体
2018年6月19日〜9月24日
国立西洋美術館


   ミケランジェロの初期作品《若き洗礼者ヨハネ》。
   スペイン内乱で粉々に破壊され、2013年に復元修復。白くないほうの部分がオリジナル。図版初見時、ヴェールをかぶっているのかと思った。オリジナル部分に目が含まれていたのは奇跡。
 


本展の構成
 
1章   人間の時代-美の規範、古代からルネサンスへ
   1)子どもと青年の美
   2)顔の完成
   3)アスリートと戦士
   4)神々と英雄
2章   ミケランジェロと男性美の理想
3章   伝説上のミケランジェロ
 
 
   第1章は、ルネサンスにおける古代ギリシャ・ローマ芸術の受容を語る。
 
   限られた点数・限られた作品で語ることとなるので、それほどたくさんを語るのは難しいだろうけれども、興味深い章。個人的には、こんなにも古代とルネサンスとを突き合わせ鑑賞するのは初めての体験である。
 
   「ぷくぷく手足に、ぽっこりお腹、大きな頭に、幼児らしい体つき」の古代の子どもの表現は実に可愛らしい。ルネサンスの子どもの表現は、可愛らしさにとどまりきれず、古代にはない青年的な筋肉隆々の表現が加わったりしている。
 
   古代の顔の表現は、個別的な肖像ではなく、理想的・普遍的な相貌を求める。ルネサンスでそれを引き継ぐ例が提示される。
 
   アスリート・戦士の逞しさや神々の表現は、ルネサンスは古代の複写のようである。キーワードは「コントラポスト」。「体重の大部分を片脚にかけて立っている人を描いた視覚芸術を指す用語」。重心のかけ方の相違が作品分析のポイントにもなるらしい。
 
《プットーとガチョウ》
1世紀半ば
ヴァチカン美術館
   噴水の飾りとしてよく取り上げられた題材。ガチョウは、当時は現在のイヌ・ネコに相当するようなペットであったらしい。
 
 
 
第2章はミケランジェロ。
 
   第1章が紹介するルネサンスにおける古代美術表現の受容、その到達点がミケランジェロ。
 
   と言いたいが、ミケランジェロ真作の2点の彫刻は、第1章や第2章の他出品作の流れから、大きく離れたところにあるように感じる。ミケランジェロ真作の2点の彫刻と続く第3章は、別の展覧会と思うほうが良さそう。
 
ミケランジェロ
《ダヴィデ=アポロ》
1530年頃
バルジェッロ国立博物館、フィレンツェ
 
ミケランジェロ
《若き洗礼者ヨハネ》
1495-96年
エル・サルバドル聖堂、ウベダ(スペイン)
 
 
   前者はミケランジェロ50歳半ばの作品。未完で終わる。
   《ダヴィデ=アポロ》という作品名は、その主題がダヴィデなのかアポロなのか不明であることからの暫定的な名であるらしい。ヴァザーリはアポロとし、本作元所有者の当時の財産目録では未完のダヴィデと記されているとのこと。
 
   後者はミケランジェロ20歳過ぎの作品。
   1930年にミケランジェロ作と判明。その直後の1936年にスペイン内乱により粉々に破壊される。残った石片14個、全体の40%ほど。2010〜13年にイタリアで復元修復される。
 
   展示室内の解説パネルに記載されるこの2点の逸話も非常に興味深い。
 
 
   この2点が置かれる地下3階の展示室には、出口近くの隅っこにもう1点、かつてミケランジェロ作と考えられたこともある作品が展示される。痩身の洗礼者ヨハネ。ミケランジェロ作と考えられただけあって、かつ、完成作であり原型を留めているだけあって、魅力的な作品である。
 
ベネデット・ダ・ロヴェッツアーノ(ベネデット・グラッツィーニ)
《若き洗礼者ヨハネ》
1492-93年頃
サン・ジョヴァンニ・デイ・フィオレンティーニ美術館、ローマ
 
 
 
  さて、本展唯一の撮影可能作品。
 
ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ
《ラオコーン》
1584年頃
個人蔵、ローマ
 
  1506年にローマで発掘され、イタリア芸術に大衝撃を与えた古代ギリシャ彫刻、現在ヴァチカン美術館が所蔵する《ラオコーン》のコピー作品。
 
   ただ、原作とは細部の違いが大きくて、彫刻家自らの解釈に基づき再構築したものと言った方がよい作品のようである。
 
上:出品作、下:原作
 
 
 
   第3章は、ミケランジェロ展定番の後世の伝説コーナー。特記なし。
 
 
 


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