渡辺省亭 - 欧米を魅了した花鳥画
2021年3月27日〜5月23日
東京藝術大学大学美術館
「知られざる日本美術の名匠」として近年強くプロモートされている感のある、渡辺省亭(1852〜1918)の回顧展に行く。省亭の楽しみ方は分からないながらも、一種の学習機会である。
初めて洋行留学した日本画家だそうである。
起立工商会社に図案家として勤めていた省亭は、1878年のパリ万博へ作品を出品することなったことを機に、同社の一員として、1878年2月に日本を発ち、3月末にパリに到着する。
パリでは、ゴンクールやドガとの交流があり、それぞれ席画を描いたとのこと。本展にも「為ドガース君 省亭画」とある席画が出品されている。パリ滞在期間は正確には不明だが、翌年6月の時点では既に日本で活動しているとのこと。
洋風表現を取り入れたという花鳥画が展示のメイン。米国の美術館(メトロポリタン美、クラーク美)や海外の個人コレクションからの出品もある。
省亭の花鳥画は、鳥など小動物がかわいい。瞳の白いハイライト。
また、省亭は人物画も残している。私的に注目したのは裸体画。
渡辺省亭
《山田美妙「胡蝶」挿絵『國民之友』第37号 民友社刊》明治22年
山田美妙の歴史小説「蝴蝶」の省亭による挿絵。
宮下規久朗著 『刺青とヌードの美術史』(NHKブックス 2008年刊 )の第3章1「明治期の裸体画規制」にて、この挿絵を機に起こった「裸蝴蝶論争」が取り上げられている。
平家に仕える美少女の蝴蝶が、壇ノ浦の戦いで海に落ちて這い上がったときに若武者に出会うという場面である。裸体の少女は衣を手に持ち、局部は隠されていて、とくに目立つところもない図である。しかし、山田美妙が本文で、「美術の神髄とも言うべき曲線でうまく組立てられた裸躰の美人」と書いたため、これが挑発的であると受け止められ、『読売新聞』の投書に「美術の乱用」だという批判が載り、いわゆる「裸蝴蝶論争」をひきおこした。これに対して作者美妙や森鴎外が擁護し、巌谷小波や尾崎紅葉がこの裸婦を「不体裁」だと否定した。
この論争は「意図的に作り出された疑いがある」という。
今回、挿絵実物を初めて見たが、その表現は特に刺激的なものでもないが、細身で頭部が小さくて西洋表現が取り入れられている。
もう1点の裸体画。
渡辺省亭
《塩治判官の妻》
培広庵コレクション
何点も描いているらしく、先の宮下氏の著書でも、省亭の師である菊池容斎の《塩谷高貞妻出浴之図》とともに、省亭の別バージョンの2作品(福富太郎コレクション資料室蔵)が取り上げられている。
衣の濃い朱色の裏地と対比されて、肌の白さが印象的。先に白い肌があって、後で裏地の朱色を描いたようだ。
向かって右は、白い肌の上に朱色の裏地が来るので、問題とならない。
一方、向かって左は、朱色の裏地の上に白い肌が来るので、裏地と肌との境界線上のギリギリの攻防が面白い。
と、記したところで、2017年の加島美術「SEITEI 蘇る!孤高の神絵師 渡辺省亭」展鑑賞時の拙ブログ記事を振り返る。
上述と同じように、花鳥画における鳥や動物の目のことと裸体画のことを書いている。この4年間、どうやら成長がなかったということのようだ。