スケッジャ(1406-86)
(本名:ジョヴァンニ・ディ・セル・ジョヴァンニ・グイーディ)
《スザンナ伝 》
42.5×152cm、2015年度購入
以下、「国立西洋美術館報」No50所収の渡辺晋輔氏の記事による。
15世紀フィレンツェの画家スケッジャ。
スケッジャは「木端」を意味するあだ名。
カッソーネや誕生盆のような家具類の装飾を主な活動な分野とした。
初期ルネッサンスの巨匠マサッチョ(1401-28)の弟。
本作品は、カッソーネの前面を飾っていた絵画パネルと考えられている。
カッソーネとは、14-16世紀のイタリアで用いられた長持ちのこと。
結婚に際して注文され、新居に運び入れられることが通常であり、そのため、絵画で装飾される場合その主題は、結婚や女性の美徳に関係するものが多い。
描かれているのは、旧約聖書外伝の「スザンナ伝」の後半部分。
女性の貞淑と慎み深さを賞賛する「スザンナ伝」は、カッソーネの主題としてふさわしいと考えられていた。
当初は前半部分(スザンナが水浴するところを2人の長老に覗き込まれ、言い寄られる)を描いた絵と対になって、ふたつのカッソーネを飾っていたのであろうと推測される。
さて、本作の物語展開を見る。
物語は画面左、法廷におけるスザンナの裁判の場面から始まる。
法廷では高い位置に座る裁判官をふたりの長老が挟み込み、奥の長老は裁判官の顔を見ながらスザンナの罪を申し立て、裁判官の前に座るもうひとりの長老はスザンナに向き合い、帳面を見ながら尋問している。
後ろ手に縛られたスザンナは目を伏せて寡黙に立つ。
彼女は真珠飾りのついた鞍型の赤い頭飾りとヴェールを被り、服には木に刻み目をつけた上に金箔が貼られている。
彼女は武器を持つ一群の兵士たちに囲まれ、なかでも指揮棒を持ち赤い帽子を被る左端の隊長と、スザンナに何やら語りかける傍らの兵士、背後にいる粗末な服を着た男は目立っている。
前景では小姓たちが画面を賑やかす。
法廷の奥、開口部の向こうには階段とそれを上るふたりの男が垣間見える。
一方、建物の外には待機する兵士たちがおり、その後ろには建物のロッジャがある。
兵士たちの盾や馬飾りに見える黒人の横顔の紋章は、具体的な家族のものではない。
騎士が手に持つ赤い旗の鳥の紋も同様だ。
兵士たちの暇そうな様子は、手前の体を掻く犬にも伝染している。
待機する兵士たちは次の場面へと視線を導く機能を果たす。
そこではスザンナ以外にも法廷の場面に登場した隊長、兵士、粗末な服の男が繰り返し登場する。
片手で隊長の馬の轡を取り、もう片方の手でスザンナの服を引っ張るのがダニエルであり、手に持つ紙片に名が記されている。
彼はここで彼女の無実を主張しているところなのであろう。
画面のほぼ中央に位置するこの3人を境にして、スザンナと長老の立場は逆転する。
本来はこの後もう一度裁判とダニエルによる尋問が行なわれるのだが、その場面は省かれ、物語の結末へと話が飛ぶ。
スザンナを連行する隊列の後ろ、灰色の山と木立の向こうには、首と手に縄をかけられて若者たちに殴られながら連行される長老たちが見える。
そして画面右端。
衣服をはぎ取られ、処刑台上で石打ちの刑に処されるふたりが描かれる。
左のスザンナの連行の場面と一続きのように、石を投げつける計8人の若者たちがおり、ふたりの長老は身体から血を流して息絶えようとしている。
物語の前半部分を描いた作品も欲しいなあ。
と贅沢なことを思うが、このような15世紀フィレンツェの文化を伺える作品が、国立西洋美術館のコレクションにあることはありがたいこと。
なお、本作は、実用の家具であるカッソーネとしては、状態は良好とのこと。
ただ、補彩は多く、特に法廷の奥に見える階段の辺りには目立つ補彩があるという。
修復家が最近加筆した箇所もあり、それはスザンナの服に施された赤い線の模様や右端の石を投げる若者のシャツの模様、兵士の持つ槍に顕著である。板を横方向に走る亀裂も見られ、亀裂に沿って補彩がなされているとのこと。
また、画面左端は若干切り取られているらしい。
コメントありがとうございます。
中世邸宅博物館(ダヴァンツァーティ宮)は、大昔にフィレンツェに行ったとき、長期休館中でした。
将来フィレンツェを再訪することがあれば、必ず行くと決めている場所です。
サン・ジョヴァンニ・ヴァルダルノは、マサッチオの生地ですね。
貴ブログのサン・ジョヴァンニ・ヴァルダルノ編(2021年5月掲載)を拝読しました。
フィレンツェ・アレッツォ間にあるとのことで、鉄道によるアクセスが容易そうですし、ベアート・アンジェリコ《受胎告知》があるし、マサッチオの生家があるし、良さそうな町ですね。
ただ、私的には、アレッツォ再訪とサンセポルクロ訪問が優先事項ですね。
今のところ海外旅行が実現する見通しはありませんが、貴ブログで勉強させてもらいます。
今後ともよろしくお願いいたします。
ロ・スケッジャの作品が国立西洋美術館にあることを初めて知りました。イタリアではカッソーネ本体をそのまま展示されている場合が多く、絵画部分を剥離させたものは少ないように思います。
ロ・スケッジャの描くユニークとも言える聖母の顔が印象に残ります。
彼の生まれ故郷である、アレッツォとフィレンツェのほぼ中間にあるサン・ジョヴァンニ・ヴァルダルノのドゥオーモ付属美術館(ベアート・アンジェリコの受胎告知があることで有名)にロ・スケッジャの作品が揃ってます。と言っても常設展示は数点ですが。フィレンツェの中世邸宅博物館にもロ・スケッジャの作品があったと思いますが、展示されている理由が私にはよく分かりません。