東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

夜の画家たち-蝋燭の光とテネブリスム-(山梨県立美術館)

2015年06月13日 | 展覧会(日本美術)

夜の画家たち-蝋燭の光とテネブリスム-
2015年4月18日~6月14日
山梨県立美術館


 会期終了間際の駆け込み訪問。


 テネブリスム(暗闇主義)は、夜や闇の場面に自然光や蝋燭などの人工光によってモティーフをほのかに浮かび上がらせる表現方法。
 17世紀のバロック期に流行するが、やがて時代遅れとなり、終息する。
 その200年後の日本。西洋絵画を受容していくなかで、遅ればせながらテネブリスム、その明暗表現にも大きな影響を受ける。


序章  テネブリスムの歴史
第1章 江戸絵画と明暗表現の出会い
第2章 近代:闇と炎に魅せられた画家たち
第3章 近代の街を描き出す版画家たち
第4章 明治後期~昭和 夜の闇と光 表現への昇華
第5章 近代画家たちとバロックの闇


 第2章を最も興味深く観る。
 日本における洋画の創生期、西洋絵画のテネブリスムを習得したくて頑張って描きました、という感じの絵が並ぶ。

 西洋絵画の実物に触れる機会の乏しい時代。
 軍艦技術を学ぶため、幕府からオランダに派遣された内田正雄は、5年間(1862-67)の滞在の後、約8枚の油彩画を持ち帰る。
 これらは、1871-78の間、繰り返し公開され、画家たちの唯一の手本となる。
 そのなかの1枚に「好人夜景図」があった。
 蝋燭を灯した闇の中で3人の女性が化粧をする絵。
 レンブラントの孫弟子であるホットフリート・スハルケン≪蝋燭に照らされる鏡の前の若い娘≫(マウリッツハイス美術館蔵)のような作品であったらしい。
 その影響により、画家たちは夜景室内画を競うように描く。

No.42 山本芳翠≪灯を持つ乙女≫(岐阜県美術館寄託)
 夜景室内画を追求した結果、スハルケン≪ロウソクを持つ少女≫(ピッティ美術館蔵)と同じような作品になってしまった、との説明。

No.40 堀和平≪ランプを持つ女性像≫(倉敷市立美術館蔵)
 No.42と同種の作品。

ロウソクや行燈の灯る夜景室内画たち。
No.43 前田吉彦≪勧学夜景図≫
No.44 日高文子≪燈下婦人図≫
No.45 松原三五郎≪老媼夜業の図(夜のひと時)≫(女性二人が作業中)
No.46 小林清親≪燈火に新聞を読む女≫
No.47 小林清親≪婦人像≫(鏡を見る女性)

夜景図も。
No.31 高橋由一≪中州月夜の図≫
No.37 亀井竹二郎≪石版画「懐古東海道五十三驛眞景」油彩原画「原驛」≫
 真黒の画面。小さく灯を持つ人物、かすかに建物が見える。雨の光景との説明。確かに言われれば、画面に縦の線がうっすらと走っているように見える。
No.39 印藤真楯≪夜桜≫
 再見。夜の円山公園にて、多くの人に鑑賞される満開の巨木の桜。


他の章の印象的な作品

No.09 亜欧堂田善≪二州橋夏夜図≫
 両国橋。花火。橋の上には人の頭が密集。川には舟が多数浮かぶ。
 四方に走る花火の稲妻のような描写、煙の描写なども印象深い。

高島野十郎
No.112≪満月≫
No.113≪蝋燭≫(三鷹市美術ギャラリー蔵)
No.114≪蝋燭≫(個人蔵)
 三鷹市美術ギャラリーの回顧展以来、久々の高島野十郎作品鑑賞。
 ≪蝋燭≫は、個展では発表されず、もっぱら親しい人に配られていたという。


そして、

No.117 満谷国四郎≪戦の話≫(倉敷市立美術館蔵)
 室内。戦争帰り(?)の男から、日露戦争の話を聞く老若男女5人(家族?)。

・右上方から部屋に斜めに差し込む強い光。
・逆光となった語り手の男の顔。
・戦の話にのけぞる聴衆の様子。

 確かに、カラヴァッジョ≪聖マタイの召命≫を想起させる。確かにその影響を受けたと思える。
 画家は、この絵(1906年作)を描く前にヨーロッパ(イタリアを含む)に行っている。
 ただ、時代的にはカラヴァッジョが再評価される前。カラヴァッジョが完全に埋もれていたわけではないにしても、見どころ満載のローマで、わざわざサン・ルイジ・ディ・フランチェージ聖堂まで行くかどうか。カラヴァッジョ自身の作品でないにしても、カラヴァッジェスキの作品に影響を受けたというところだろうか。


非常に楽しめる企画であった。



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