東京でカラヴァッジョ 日記

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2021-22年「メトロポリタン美術館展」のラファエロ

2021年01月11日 | メトロポリタン美術館展2021-22
   2021年11月から22年1月まで、大阪市立美術館で、「メトロポリタン美術館展(仮称)」が開催されるとのこと。
(マタイ様に教えていただきました。ありがとうございます。)
 
 
   本展は、西洋絵画が対象。
   「ラファエロ、ルーベンス、フェルメール、ラトゥール、エル・グレコから印象派のモネ、ルノワール、シスレー、ドガ、セザンヌまで、巨匠ばかりの65作品」「このうち46点は日本初公開」とある。
   出品作として、現時点では、ラトゥール《女占い師》のみが公表されている。
 
   ラトゥール《女占い師》!!
   嬉しい、絶対に行く!!
 
   出品画家として、ラファエロも挙がっているので、どんな作品が来日する可能性があるのか、METサイトで確認してみる。
 
 
 
   意外!
   私が見つけることのできたMETが所蔵するラファエロは、2点。
   いずれも1504年頃と、ラファエロが「ペルージャを中心とするウンブリア地方からフィレンツェへと活動の中心を移す過渡期」の制作。
 
   アメリカのメガ美術館は、ラファエロ作品をたくさん持っているものだと思い込んでいたが、METはそうでもないのだな。たくさん持っているのは、ワシントン・ナショナル・ギャラリーか。
 
 
 
「コロンナの祭壇画」
中央パネル《玉座の聖母子と五聖人》
  169.5×168.9cm
ルネッタ《父なる神と二天使》
   64.8×171.5cm
1504年頃
メトロポリタン美術館
 
   ペルージャにある聖アントニオ・ディ・パドヴァ女子修道院のために製作した祭壇画。
   サイトには「THIS WORK MAY NOT BE LENT」との表示がある。
   1916年にJ.P.モルガンから遺贈を受けて以降、METから貸し出されたことは一度もない模様。
   ということは、本作品の来日はない。
 
 
   「コロンナの祭壇画」の来日はないとすれば、もう1点のこちらが来日作品となるのだろうか。
 
《ゲッセマネの祈り》
1504年頃、24.1×28.9cm
メトロポリタン美術館
 
   1932年にMETの所蔵となってから、3度の貸出実績があるようなので(1983年ワシントン、2005年ロンドン、2018年ベルガモ)、来日の可能性がある。
 
   この作品は、「コロンナの祭壇画」の一部であったらしい。
   5パネルあったプレデッラの、左から2番目のパネル。
 
   聖アントニオ・ディ・パドヴァ女子修道院は、経済的困窮により、1663年にプレデッラを、1678年に中央パネルとルネッタを売却したようである。
 
   修道院を出て以降、別れ離れとなった「コロンナの祭壇画」とプレデッラ《ゲッセマネの祈り》は、20世紀前半にMETで再会したこととなる。
   作品の質として、期待できる作品なのかな。
   
   ちなみに、残る4点のプレデッラ。
   中央が、ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵。
   中央の右隣が、ボストンのイザベラ・スチュアート・ガードナー美術館蔵。
   両端の2点がロンドンのダリッジ美術館蔵。この2点は、2013年の国立西洋美術館「ラファエロ展」で来日している。そういえばあったな。ほぼスルーしたけど。
 
 
    LNG所蔵のプレデッラ。
 
《ゴルドダの道行き》
1504-05年頃、24.4×85.5cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
 
   LNGのサイトによると、本作品は「1913年に購入」とある。
   一方、METのサイトによると、「コロンナの祭壇画」は、前所蔵者のJ.P.モルガンの時代、LNGに貸与されていたが、1913年の死去により貸与終了した模様である。
   両作品は、LNGではすれ違いだったのか?それとも、プレデッラもJ.P.モルガン所蔵で、ともにLNGに貸与されていた(貸与終了の際に、このプレデッラのみがLNGに売却された)のか?
 
【追記:1/12】
   むろさん様からコメントをいただき、METはもう1点ラファエロ(関連)作品を所蔵していることを認識した。
(むろさん様、情報提供ありがとうございます。)
 
ラファエロ工房作?
《ジュリアーノ・デ・メディチの肖像》
83.2×66cm
メトロポリタン美術館
 
   1949年にMET所蔵となった後は、2012-13年のルーヴル&プラド美術館「ラファエロ展」に貸し出されたことがある。
   小サイズの宗教画より、ドラマ性もあるこちらの肖像画のほうが来日する可能性が高いかも。
 
 
   以上、誤った記載もあるかと思いますが、ラファエロ来日作品の予想でした。
 
   ところで、「メトロポリタン美術館展(仮称)」の会期は、約2ヶ月(65日間)。短い! 単独開催だとすれば、短すぎる!
   本展は国際巡回展で、すぐに次の国に移動する、ということなのだろうか。
   今後、国内の巡回先が追加で発表されることを期待している。
 
   その頃はCOVID-19の日本における2回目の秋冬シーズン、「流行」となっていないことを祈りたい。
 
 
拙ブログのカテゴリ:メトロポリタン美術館展2021-22
https://blog.goo.ne.jp/k-caravaggio/c/ad97c0f8d7fcd2abe12d843150071fdf


6 コメント

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メトロポリタン美術館のラファエロ (むろさん)
2021-01-12 00:07:19
こういうことを調べるのには、先日のラファエロの本に関するコメントで書いたRIZZOLI集英社版世界美術全集のラファエロが最適です。同書によれば(50年以上前の情報ですが)メトロポリタンにあるラファエロ作品はコロンナの祭壇画とそのルネッタ、プレデㇽラのうちの1枚(ゲッセマネの祈り)、そして「ジュリアーノ・デ・メディチの肖像」の4点です。このジュリアーノは1478年のパッツィ家の陰謀で暗殺されたロレンツォ豪華王の弟ではなく、豪華王の三男(ヌムール公ジュリアーノ、レオ十世の弟)の方です。同書の掲載によると、油彩・カンヴァス、88×66cm、1513-14年、(四角形の9分割による真筆度の判定マークとして)「ラファエロの真筆として議論のある作品」と判定しています。本文の記載内容は以下の通りです「ヴァザーリは、ラファエロによって描かれた“ジュリアーノ公の肖像”について言及している。1513~14年に制作されたらしい。グロナウ、L.ヴェントゥーリ(「アメリカのイタリア絵画」、1913年)、スイーダはこのバーチ・コレクションに由来するメトロポリタンの作品をラファエロの真筆、A. ヴェントゥーリ、フィシェルは共作と考える。カヴァㇽカゼㇽレ、ガンバ、オルトラーニ、カメザスカは、ラファエロはどの部分の制作にも携わっていないと考える。おそらくラファエロの原作は失われたと思われる。この作品のほかに自由な模作が存在するが、デ・マッフェイス(“A”1959年)が原作と発表したスイスの個人所蔵になる作品もその一つで、フィレンツェ、トリノ、アニック城(イギリス)などの模作も報告されている。」

ヴァザーリが言及しているとのことなので、芸術家列伝を確認したところ、白水社版では該当箇所に注釈はなし。中央公論美術出版の全訳版第3巻(2015年)のラファエロ伝P181本文には「同じくラファエッロは〔メディチ家の〕ロレンツォ公とジュリアーノ公の肖像も描き、それらは彩色の優雅さの点で彼以外には描きえない完璧さで仕上げられている。今日これらの作品はフィレンツェのオッタヴィアーノ・デ・メディチの遺族たちのもとに所蔵されている。」とあり、そのジュリアーノ公の肖像についての注釈には「現在ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵。ジュリアーノがラファエッロに肖像画を描かせたことは、同時代史料に裏づけされており、ヴァザーリもパラッツオ・ヴェッキオ内「レオ十世の間」に、この肖像に基づくロレンツォの姿を描いている。しかし、現在の作品は、十九世紀中葉以降に実施された修復(表面への加筆や支持体の交換)の結果、作者を同定するに足るオリジナルのニュアンスが失われた状態にある。作品の来歴から、本来はラファエロと工房によって完成されたとヘンリーは推測している。」とあります。

このジュリアーノ・デ・メディチの肖像の写真は下記アドレス参照
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/437373
この解説でも工房作、コピーとしていますね。

さて、来日するのはコロンナの祭壇画のプレデㇽラ「ゲッセマネの祈り」でしょうか、「ジュリアーノ・デ・メディチの肖像」でしょうか?

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Unknown ()
2021-01-12 10:33:54
むろさん様
コメントありがとうございます。

METは、もう1点、ラファエロ工房作(またはコピー作品)である《ジュリアーノ・デ・メディチの肖像》を所蔵しているということですね。

ラファエロ工房作?
《ジュリアーノ・デ・メディチの肖像》
83.2×66cm
メトロポリタン美術館

1949年にMET所蔵となった後は、2012-13年のルーヴル&プラド美術館「ラファエロ展」に貸し出されたことがあるので、本作が来日作品となる可能性もありますね。

私的には、小サイズの宗教画よりも、ドラマ性も期待できるこちらの肖像画のほうが可能性が高いかなと思いました。

情報提供ありがとうございました。
本記事に追記したいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。
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ヌムール公ジュリアーノの肖像 (むろさん)
2021-01-12 16:03:22
ラファエロ工房作?ヌムール公ジュリアーノ・デ・メディチの肖像のカラー画像は今回のことで私も初めて見ました。次兄レオ十世により教皇軍総司令官に任じられたとのことなので、背景に見えるサンタンジェロ城が意味深ですね。

ヌムール公ジュリアーノというと私はどうしてもミケランジェロ作のメディチ家礼拝堂の大理石彫刻を思い出してしまいます。この彫刻の表情はかなり美化されているようで、もう一体のウルビーノ公の彫刻とともに当時も「全く似ていない」という評価に対し、ミケランジェロが言ったという言葉「1000年もたてば誰も似ているかどうかなど問題にしない」という話が有名ですね。この逸話からも、ラファエロ工房作?の肖像画の方が本人により似ているだろうと思います。

「ゲッセマネの祈り」の方はRIZZOLI集英社版ラファエロでも「今日では大部分をラファエロの真筆とみる意見が有力である」とのことなので、現地でも普段から展示されていると思いますから、むしろ来日してくれるなら「工房作?・異論のある作品」とされるヌムール公ジュリアーノの方がいいと私も思います(こういうレベルの作品はいつも展示されているわけではない)。

話は変わりますが、ヴァチカン絵画館のカラヴァッジョ作キリスト埋葬展、とうとう中止が決定してしまいましたね。残念です。
https://www.nact.jp/exhibition_special/2020/caravaggio2020/
http://caravaggio2020.com/

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Unknown ()
2021-01-12 19:00:12
えっ!

むろさん様
ショックです。
情報提供ありがとうございます。
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祝 カラヴァッジョ「合奏」来日! (むろさん)
2021-03-25 14:07:12
本日(3/25)発売の芸術新潮4月号、早速近くの図書館で見てきました。ラファエロ作品は「ジュリアーノ・デ・メディチの肖像」ではなく「ゲッセマネの祈り」ですね。そして、それよりもビッグなニュースがカラヴァッジョ「合奏」の出品。昨日の原寸美術館購入記事に対してのコメントを読んで期待していたのですが、その通りになって良かったと思います。コロナ問題が解決しても、当面はヨーロッパ旅行優先なので、NYにもいつ行けるか分かりません。今回は貴重な機会であり、「キリストの埋葬」展が中止になっても、こちらはバチカン絵画館でいつでも展示しているので、私にとってはMetの合奏が来てくれる方が嬉しく思います。そして今年の秋から冬にかけて、関西方面で何か美術展やお寺の特別公開などがないか、きちんと考えないといけなくなりました。一昨年秋の名古屋でのカラヴァッジョ展に合わせて奈良興福寺南円堂の特別公開や三重県総合博物館特別展「三重の仏像」を見たのと同じように、名古屋から姫路・和歌山ぐらいまでを広くチェックするつもりです。

なお、芸術新潮4月号の記事ですが、私にはもう一つ、東博で10~11月に開催される特別展「最澄と天台宗のすべて」に京都・日野法界寺の薬師如来立像が出品されるということが大きなニュースです。この像は普段は秘仏で非公開、数年前にご開帳があったのですが、厨子の構造上、正面の扉を開くことができないため、側面から見る形だけということで、行くべきかどうか迷ったのですが、結局やめました。東博に出るということで、無理して行かないで良かったと思っています。等身大よりも小さな平安時代中期の作、表面の截金がよく残っているので、博物館の照明の下で拡大鏡でしっかり見るつもりです。(詳細論文は美術史56号1965年「法界寺薬師如来像考」西川杏太郎)
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Unknown ()
2021-03-25 19:16:54
むろさん 様

コメントありがとうございます。
カラヴァッジョ《合奏》の来日予定、大変嬉しく思います。2回連続でカラヴァッジョに振られているだけに尚更です。
他にも、古い時代の画家・作品(ラファエロはプレデッラとなりましたね)が多く来日するとのことで、ますます楽しみ。
同じく日本とオーストラリアを巡回したロンドン・ナショナル・ギャラリー展をかなり意識しているのでしょうか。
メトロポリタン美術館も、最近、運営費用に充てるために作品売却方針を決めたところ、それも背景にあるのでしょうか。

芸術新潮は過去3年間12月号で翌年の美術展特集をやっていましたが、今年はこのご時世もあってか4月号。この時期のほうが春夏に加えて、秋の情報も多くなって良い気がします。
私は最低2回は大阪に行くつもりでおります。
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