東京でカラヴァッジョ 日記

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ゴッホ《ひまわり》の新展示環境(SOMPO美術館)

2022年07月28日 | 展覧会(西洋美術)
 新宿のSOMPO美術館。
 2020年7月の移転オープン後、2度目の訪問。
 
 1987年の収蔵から35年のゴッホ《ひまわり》を初撮影する。
 
 昨年(2021年)8月から、来館者による《ひまわり》の写真撮影が解禁され、SNSでの発信もOKになったとのこと。
 
 
ゴッホ
《ひまわり》 
1888年11-12月、100.5×76.5cm
SOMPO美術館
 
 
 1888年8月、アルルにひまわりが咲き誇る季節、ゴッホは4点のひまわりを制作する。
 
 第3作(ミュンヘン)と第4作(ロンドン)は会心の作で、その後アルルにやってきたゴーギャンの部屋の壁に飾られる。ゴーギャンは、ゴッホのひまわりをたいへん気に入ったようである。
 
 1888年11月末から12月初旬頃、ゴーギャンとの共同生活中、初冬の時期、ゴーギャンの高い評価を受けてのことだろう、ゴッホは、第5作を制作する。第4作(ロンドン)の再制作である。 
 この第5作が、SOMPO美術館の所蔵作品である。
 
 1889年1月、耳切り事件と2人の共同生活の破綻後、ゴーギャンはゴッホに対し第4作(ロンドン)を所望する。
 ゴッホは、オリジナルは譲れないとして、その代わりとして複製2点を制作する。
 第3作の複製である第6作(フィラデルフィア)と第4作の複製である第7作(ゴッホ美術館)。
 しかし何故かゴーギャンに送られることはなかった。
 
 
 
 
 SOMPO美術館の《ひまわり》の来歴。
(朽木ゆり子著『ゴッホのひまわり全点謎解きの旅』集英社新書による。)
 
 1894年頃、ゴッホの弟テオの妻ヨハンナが、ゴーギャンの友人で画家のエミール・シュフネッケルに売却。
 1903年頃、シュフネッケルは、弟のアメディー・シュフネッケルに売却。
 1907年、シュフネッケル弟は、画商ウジェーヌ・ドゥリュエに売却。
 1910年、画商ドゥリュエは、ベルリン在住のパウル・フォン・メンデルスゾーン・バルトルディに売却。
 1934年、パウル・メンデルスゾーンは、画商ポール・ローザンベールを経て、英国のイーディス・ビーティに売却。
 イーディス・ビーティの息子アルフレッド・チェスター・ビーティ・ジュニアが、その後、息子の妻ヘレン・チェスター・ビーティが相続。
 このチェスター・ビーティ家が所蔵していた時代、2度にわたって、ロンドン・ナショナル・ギャラリーに貸与され、第4作であるロンドンのひまわりと並んで展示されていたという(1955〜59、1983〜87)。
 1987年、ヘレンは、ロンドンのクリスティーズの競売に出品、当時の絵画の競売史上最高価格となる2475万ポンド(当時約58億円)で、安田火災海上保険が落札する。
 
 
 
 
 移転前、美術館が損害保険ジャパン本社ビルの42階にあった時代、ゴッホ《ひまわり》は、ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》とセザンヌ《りんごとナプキン》とともに、特別室において、保管庫を兼ねたガラスケースのなかに展示されていた。
 
 なるほど、あのガラスケースは保管庫を兼ねていたのか。
 
 作品の展示の高さ、作品までの距離、3点の間隔、ガラスの存在など、確かに鑑賞しやすい環境とは言えなかったが、特別感があって、結構気に入っていた。
 
 
 美術館移転にあたり、この展示環境の再検討が行われたという。
 
1 新しい設備における照明
 作品にあてる光の照度(lux[ルクス])は、作品保存の観点から、上限200luxから120luxに変更。
 明るさは暗くなるものの、新設備では色温度(K[ケルビン])の調整が可能となるため、色温度は作品の再現性が高い3500Kに設定。
 
2 作品を展示する壁面の色
 壁の色は、照度が低くても作品が明るく映える、薄く紫がかった、白に近い灰色を採用。
 
3 作品を展示する高さ
 高身長・低身長の人でも、あるいは車椅子からでも見やすく、ガラス面の映りこみや展示ケース(奥行き約1m弱)とのバランスなどを考慮し、作品の中心は床から157.5cmの高さにする。
 「旧美術館」では、奥行130cmのガラスケースに、下から仰ぎ見るような高さ(作品の中心が床から約165cmの高さ)で展示。
 
 以上、「SOMPO美術館 REPORT N o.48」より。
 
 
 こうして、6階建の美術館の、5階〜3階まである展示室フロアの3階展示室に、身構える間もなく突然という感じで、ゴッホ《ひまわり》が登場する。
 
 展示空間の特別感や、かつてのゴーギャンとセザンヌと3点一体となった豪華感は消えたものの、ガラスケースのなかにありながら、作品との距離が非常に近くなり、見やすく、親しみやすくなったのは確かである。
 
 なるほど、展示環境にそんな工夫がなされていたのか、次回訪問時にはそんな観点からも鑑賞してみよう。
 
 SOMPO美術館には、これからもずっと《ひまわり》を所蔵し続けて欲しいもの。


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