東京でカラヴァッジョ 日記

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ベラスケス《マルタとマリアの家のキリスト》

2020年04月16日 | ロンドンナショナルギャラリー展
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展
2020年3月3日〜6月14日
→開幕日未定
国立西洋美術館
 
 
ベラスケス
《マルタとマリアの家のキリスト》
1618年頃、60×103.5cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
  ニンニクをすりつぶしている若い女性。
  それに卵とオリーブオイルを混ぜてアリオリソースを作る。魚につけて食べる。
  背後の年配の女性が、指差す先は、後景の聖書の場面。左からキリスト、観想の妹マリア、活動の姉マルタ。
 
 
 
 
  ベラスケスのボデゴン画。
 
  「ボデゴン」とは、「酒蔵を意味するボデガから派生した言葉で、居酒屋や市場の店先で庶民が飲食や食べ物の売買をする情景を描いた、一種の風俗画」、「厨房画」を意味する。
   ベラスケスは、マドリードに出て宮廷画家になって以降は、風俗画・厨房画を制作していない。
   風俗画・厨房画を制作していたのは、マドリードに出る前、故郷セビーリャで活動した初期の時代に限られる。
   そして、19世紀のナポレオン戦争以降のベラスケス再評価時、世間にあった風俗画・厨房画は、国外に流出する。
   そのため、スペイン美術の殿堂・プラド美術館は、ベラスケスの風俗画・厨房画を所蔵していない。プラド美術館が所蔵するベラスケスの初期作品は、宗教画や肖像画4点程度である。
 
 
   流出先は主に英国。スペイン独立戦争においてスペインと連合し、イベリア半島でフランスと戦ったことが大きいようである。
 
   数少ないベラスケスの「風俗画」「厨房画」の代表作の多くは、現在、英国あるいはアイルランドにある。
    
   本作《マルタとマリアの家のキリスト》は、もともとスペイン貴族が所蔵していたが、おそらくスペイン独立戦争時にイギリスに渡る。1892年に遺贈を受けナショナルギャラリー所蔵となっている。
 
 
   それ以外の作品としては。
   
ベラスケス
 《卵を料理する老婆と少年》 
1618年、99×128cm
スコットランド国立美術館
   ベラスケス「厨房画」の代表作の一つ。土焼きの鍋の中の2つの卵。陶器の壺、皿、真鍮の鉢、少年の持つメロン、後ろの壁の籠。
   1813年からロンドンにあり、1955年にスコットランド国立美術館が購入。    
 
 
ベラスケス
《セビーリャの水売り》 
1620年頃、103×81cm 
アプスリー・ハウス、ロンドン     
   大きな素焼きの壺。ガラスのコップ。 
   もとは王室コレクションであったが、1813年のスペイン独立戦争時に他の絵とともにフランスに持ち去られ、ウェリントン公爵が取り返す。
   スペイン王室に返却するつもりであったとされるが、その後、スペイン王が戦勝の褒美としてそのまま下賜した扱いとしている。       
 
 
《食事をする二人の若者》
1618-20年頃、64×105cm 
アプスリー・ハウス、ロンドン 
   画面左側の、皿、乳鉢、水差し、オレンジ。 
   《セビーリャの水売り》と同じ経緯でロンドンに来たのだろう。
 
 
ベラスケス
《エマオの晩餐と台所の女中》   
1617-18年頃、55×118cm
アイルランド・ナショナル・ギャラリー
   1987年に、南アフリカでのダイヤモンド・金鉱事業で財を成したバイト卿夫妻から、フェルメール《手紙を書く女と召使い》やメツー《手紙を読む女》《手紙を書く男》などとともに、寄贈される。フェルメールやメツー作品は1974年と1986年と2回盗難にあったことでも知られるが、本作も1974年時の盗難被害に遭っている。
 
 
   英国・アイルランド以外にある作品といえば、ベルリンの《三人の音楽家》、ブダペストの《宿屋のふたりの男と少女》、シカゴの《台所の女中》、サンクトペテルブルクの《昼食》程度と限られてしまう。
 
   19世紀、英国は他国に先駆けて、ベラスケスほかスペイン美術の魅力を「発見」し、精力的に集めたようだ。
 
   同じことが初期イタリアルネサンス美術についても言えるのだろう。


6 コメント

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LNG展の行方 (むろさん)
2020-04-18 00:12:02
先日放送されたBS日テレのブラ美「LNG展後編」、これを見てイギリスでのベラスケスなどスペイン美術「発見」やゴッホのひまわりをめぐる事情がよく理解できました。

ところで、本日LNG展のHPで5月中のすべての講演会中止が発表されました。東京展自体は6/14までなので、これはいよいよ開催できないで中止という発表まで秒読みの段階になったという気がします。連休明けに発表か?
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むろさん様 ()
2020-04-18 18:11:03
コメントありがとうございます。
LNG展・東京会場は厳しいと私も思います。本来ならば入場者60万人台は固い展覧会であるだけに、仮に開幕できる状況になったとしても、残り会期1カ月未満では、人を捌けないでしょう。また、今後の大型企画展の運営が変わりそうですね。
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Unknown (マタイ)
2020-09-17 17:40:28
9月上旬にようやくLNG展に行くことができました。クリヴェッリの作品の鮮やかな金色は、図版からでは決して感じることができない美しさでした。

また、ベラスケスのボデゴンを鑑賞することができたのも、素晴らしい体験でした。
特にすり鉢の描写は、その質感まではっきり感じることができました。
こちらの記事に挙げられているベラスケスのボデゴンもどれも一度は生で鑑賞してみたいものばかりです。
《卵を料理する老婆と少年》の鍋、卵、陶器の壺、《セビーリャの水売り》の素焼きの壺、壺についた水滴、ガラスのコップの描写には特に感嘆してしまいます。
個人的にはベラスケスは初期の作品が好みなので、もし宮廷画家になっていなければ、その後にどのような作品を遺していたのかと想像してしまいます。

さて、明日の14:55よりBSプレミアムにて、『ダビンチ もう1枚の油絵』が放送されるようです。また22日には同じくBSプレミアムで10:30より、『ルーブル美術館 美の殿堂 500年の旅』も放送されます。
いずれも過去に放送した番組の再放送で、既にK様もご覧になられているかもしれませんが、もし未見でしたら是非。

今後ともブログを楽しみにしております。
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マタイ様 ()
2020-09-19 07:21:10
コメントありがとうございます。
LNG展のご鑑賞お疲れ様でした。楽しい鑑賞となられたようでなによりです。
クリヴェッリとひまわり、2大目玉作品はもちろん素晴らしいですが、それ以外にも見応えのある作品が多く、その中では私もベラスケスの厨房画を推したいです。マタイ様が挙げられた《卵を料理する老婆と少年》と、あと《セビーリャの水売り》、いつの日かこれらに描かれた静物を実見したいものです。
番組情報提供ありがとうございます。コメントに気づくのが遅く、録画予約はできませんでした。せっかくの情報を活かすことができず申し訳ありません。今後ともよろしくお願いいたします。
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Unknown (マタイ)
2021-09-21 13:10:02
こんにちは。

既にご存知かもしれませんが、2022年4月22日(金)~7月3日(日)まで東京都美術館にて、《スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち》が開催されるようです。

https://pid.nhk.or.jp/event/PPG0345863/index.html

https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_scotland.html

https://greats2022.jp/

何とベラスケスの《卵を料理する老婆と少年》も出展予定とのことです。
また、ラファエロ作品も出展される予定とのことで、こちらも楽しみです。

会期としては《メトロポリタン美術館展》とも一部重なりますね。
今から来春が待ち遠しいです。

今後ともK様のブログを楽しみにしております。
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マタイ様 ()
2021-09-21 19:32:58
マタイ様
コメントありがとうございます。
また、展覧会情報をお教えくださり、ありがとうございます。
スコットランド国立美術館展、びっくりです。楽しみです。
特にベラスケスの厨房画《卵を料理する老婆》。まさか日本にいながらにして実見できるなんて。
マタイ様がおっしゃるとおり、メトロポリタン美術館展にスコットランド国立美術館展が続くとは、2022年は西洋美術を満喫できる年となることを期待できそうです。
引き続きよろしくお願いいたします。
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