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「吉村昭と関東大震災 - 明日へつなぐ記録と記憶」(吉村昭記念文学館)

2023年09月24日 | 展覧会(その他)
吉村昭と関東大震災 - 明日へつなぐ記録と記憶
2023年6月16日〜10月18日
吉村昭記念文学館(荒川区立中央図書館併設)
 
 
 吉村昭記念文学館の存在を初めて知る。
 
 吉村昭(1927-2006)は、現・荒川区東日暮里の生まれで、空襲で家が焼失するまでの18年間、荒川区で過ごした。
 区は、氏の生前から文学館の設置について申し入れ、氏から、区の財政負担を考慮し、単独設置ではなく、図書館等の施設との併設を条件に承諾されたという。
 2017年、区立中央図書館がある「ゆいの森あらかわ」という施設内に併設して開館。氏の逝去の11年後のこと。
 
 東京メトロ千代田線の町屋駅から都電荒川線(東京さくらトラム)で2駅目の荒川二丁目駅よりすぐ(実は初めての都電荒川線)。
 中央図書館との併設は正解。営業日・時間は中央図書館と同じで、平日も20:30までと、勤務後でも訪問できる。
 個人の文学館に行くのは初めてで、他と比較することはできないが、2階と3階の常設展示室と3階の企画展示室、なかなかのスペース。
 お目当ての展示は、2階の書斎再現展示室の前の、著作閲覧コーナー兼映像コーナーにある。
 スペースの割に結構な数の展示品があって、観覧はせいぜい2人まで、それ以上だと狭苦しく感じるだろう。運良く私は独占状態であったが、私がいるのを見て遠慮した人がいるかも。
 
 
【本展の構成】
 
1:「関東大震災」を書く-証言収集と文献調査
2:吉村昭の伝えた防災-両親の教えと調査を通して得た教訓
3:記憶を新たにすること-両親から受け継いだ教訓
 
 
 吉村昭氏の著書『関東大震災』は、文春文庫の新装版発行時に読んだ。
 二人の地震学者の話から始まって全19章、被災とそれに伴う社会混乱が記されているが、私的に最も強烈だったのは、被服廠跡からの生存者の壮絶な体験談であった。
 
 本作は、月刊誌において1972年5月から翌年6月まで全14回連載され、関東大震災50年となる1973年に単行本が出版された。
 
 著書『関東大震災』の出版から見ると、50年前が関東大震災、50年後が現代、その同じ50年という時間が、私的には不思議な感覚がする。
 
 
【特に見た展示品】
 
1 自筆取材ノート
 
 吉村氏の自筆資料が数点展示されるなかで、自筆取材ノート「関東大震災メモ」に注目する。
 被服廠跡の生存者6名、吉原公園の生存者1名、その他2名の証言が書き留められているという。
 公開されているページは、小櫃政男氏の証言の部分。
 著書『関東大震災』の第5〜6章において、浅草で友人と映画を鑑賞している(小学校卒業後精工舎に勤務していたがその日は休日)ときに地震にあった、当時14歳の小櫃氏の壮絶な被災体験が詳しく記されている。
 
 
2 山岡清眞氏の手記
 
 関東大震災100年の節目に、ご子息が発見し、館に寄贈した山岡清眞氏の手記4冊が展示される。
 
 山岡氏(1903-81)は、1971年に被服廠跡の生存者で結成された「一二九会」の初代会長を務めた。
 著書『関東大震災』第6章において、本所区亀沢町の養父母家で昼食に手をつけようとしたときに地震にあった、当時20歳の山岡氏の壮絶な被災体験が詳しく記されている。
 
 手記4冊については、次のとおり。
・最初の手記は、1972年の筆とのこと。吉村氏が参照したのはこの手記なのだろうか。
・2番目の手記を記し、それを整えて書き直したものが3番目の手記と考えられている。それを第三者が清書したのが4番目の手記。これらは1974年の筆とのこと。
 
 
3 絵葉書「日暮里駅から郊外へ避難する被災者」
 
 被災した上野駅に代わって、日暮里駅および田端駅が始発駅となる。このため、日暮里駅および田端駅に被災者が殺到する。
 
・「大正12.9.1東京大震災 日暮里停車場へ殺到したる避難民」
・「避難民日暮里駅ニ殺到シ我レ先ニ乗車ス」
・「東京日暮里駅の避難民」
・「大正12.9.1東京大震災実況 群集せる日暮里の避難民」
 
 まさしく題名が示しているとおり、凄まじい状況下にある日暮里駅を撮影した絵葉書(複製)が4点展示される。荒川区らしく、日暮里駅である。
 
 
4 石版画「帝都大震災画報」
 
 石版画「帝都大震災画報」については、UNPEL GARELLYにて、あいおいニッセイ同和損保が所蔵する浦島堂発行の8点を見たところ。
 本展では、東京消防庁が所蔵する浦島堂発行の3点および天正堂・集画堂発行の1点を見ることができる(〜9/29)。
 
・「浅草公園花屋敷及十二階之真景」
 大正12年10月20日、浦島堂
・「新吉原遊廓仲之町猛火大旋風之真景」
 大正13年5月5日、浦島堂
・「激震に襲われし神田万世駅惨状之真景」
 大正12年10月20日、浦島堂
・「上野公園桜雲台に於て殿下災害地御視察之図」
 大正12年9月30日、天正堂・集画堂
 
 天正堂・集画堂発行の石版画「帝都大震災画報」は、北原糸子他著『関東大震災絵図』東京書籍、2023年刊で紹介されている、都市防災研究家・吉川仁氏の整理によると、7点出版されているが、うち6点の出版日が、震災と同月の月末。浦島堂やもう1つの版元である尚美堂より早い。
 
 
 関東大震災の映像2件も小型モニターで上映。
 
 
 スペースの割には見応えのある展示企画。
 図書館内にあるだけに、気になることがあったらすぐに書籍実物で確認できそう。
 入場無料。


2 コメント

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こんばんは (続々強子の部屋)
2023-09-24 19:35:16
吉村記念文学館に、いらっしゃったのですね。
私は先日吉村昭さんの関東大震災を読んでいました。もう何回目でしょうか。
精工舎に勤めていた、小櫃さんのことも読みました。お給料を頂いたばかりのうれしいお出かけの時に震災に遭われたこと、
一緒に出掛けたお友達との辛い別れ、
吉村昭さんの書いた物は淡々としていながら、あの時の悲惨な事柄が伝わってきます。
三陸の大津波の事も何回も読みました。
東日本大震災をご覧になったら、どのような事を仰ったかしらと思います。
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Unknown (k-caravaggio)
2023-09-26 13:40:28
強子さま
コメントありがとうございます。
吉村氏の『関東大震災』に描かれる「人心の混乱」、大正時代の社会はよく分からないですが、現代だったらどうなるだろうか考えさせられました。
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