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メトロポリタン美術館が所蔵する旧松方コレクション作品

2022年01月10日 | 西洋美術・各国美術
 メトロポリタン美術館が所蔵する旧松方コレクション作品を確認する。
 
 
 
セザンヌ
《廃屋》
1892-94年、80×64.1cm
メトロポリタン美術館
 
 1921年8月、松方幸次郎はベルリンのカッシーラー画廊から本作を含む計20点を購入する。
 この1921年の松方の渡欧は、海軍からの依頼により最新鋭のドイツの潜水艦の設計図を密かに入手するという任務を担っており、そのカモフラージュとして派手な作品購入を行ったと言われている。
 本作は購入後すぐに日本に持ち込まれるが、川崎造船所の経営破綻により銀行に差し押さえられ、1930年の売り立てを経て、神戸の個人Wの所蔵となる。
 その後、1951年に大阪の画廊FからNYの画廊Wに渡り、米国の個人H、続いて個人A、1993年に個人AとMETの共同所有、2002年にMETの所蔵となる。
 
 
 
ゴーギャン
《母と娘(二人の女性)》
1901または1902年、73.7×92.1cm
メトロポリタン美術館
 
 ウィルヘルム・ハンセン(1868〜1936)は、保険業で成功したデンマークの実業家で、フランス印象派のプライベート・コレクターとして著名な存在であったが、1922年、金融危機によりそのコレクションの一部、フランス絵画コレクションの半数以上にあたる約80点を手放さざるを得なくなる。    
 1923年、松方は、他の著名コレクター(スイスのオスカー・ラインハルトや米国のバーンズなど)と競合するなか、うち34点を購入することに成功する。本作はそのうちの1点。
 日本に持ち込まれ、川崎造船所の経営破綻後、神戸の個人Wに売却される。
 その後、1955年に大阪の画廊FからNYの画廊Wに渡り、米国の個人A、1997年に個人AとMETの共同所有、2002年にMETの所蔵となる。
 
 
 
ゴーギャン
《シエスタ》
1892-94年頃、88.9×116.2cm
メトロポリタン美術館
 
 前記《母と娘》と同様に、松方がハンセン・コレクションから購入した34点のうちの1点。
 日本に持ち込まれ、川崎造船所の経営破綻後も松方家に留まったようである。
 その後、1954年に大阪の画廊FからNYの画廊Wに渡り、米国の個人H、続いて個人A、1993年に個人AとMETの共同所有、2002年にMETの所蔵となる。
 
 なお、ハンセンは、その後危機を乗り越えて財政基盤を立て直す。1936年に死去するまで、手放した作品を新たな作品で取り戻すべく、再びコレクションを充実させる。1951年の妻の死後、そのコレクションはコペンハーゲン郊外の土地・屋敷とともに国に遺贈される。1953年、オードロップゴー美術館として開館、フランス印象派絵画や自国デンマークの作家の作品の充実度で知られる美術館となっている。
 
 
 
 以上3点である。
 
 松方が取得してからMETの所蔵となるまでの来歴に登場する人物は、神戸の個人Wまたは米国の個人Hが登場しない作品があるが、ほぼ共通。移動時期も多少のズレはあるが概ね同じである。
 
 3点とも、今回2021-22年のメトロポリタン美術館展は出品されていない。
 そもそもMETが寄贈(遺贈)を受ける条件として、貸出制限が課されたようである。
 
 
 
【参照】
『松方コレクション 西洋美術全作品 第1巻 絵画』国立西洋美術館、2018年刊
 
松方コレクションにあったセザンヌ油彩画は7点。
2018年時点の所在
 メトロポリタン美術館 1点
 サン・パウロ美術館 1点
 個人蔵 4点
 所在不明 1点
 
松方コレクションにあったゴーギャン油彩画は20点。
2018年時点の所在
 国立西洋美術館 4点
 アーティゾン美術館 2点
 島根県立美術館 1点
 個人 日本 1点
 オルセー美術館 4点
 メトロポリタン美術館 2点
 個人 海外 1点
 所在不明 4点
 焼失 1点


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