ロンドン・ナショナル・ギャラリー展
2020年3月3日〜6月14日
→開幕日未定
国立西洋美術館
ゴヤ
《ウェリントン公爵》
1812-14年、64.3×52.4cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
ウェリントン公爵は、本作を含むスペインのさまざまな美術品をイギリスに持ち帰る。
それらの多くは、公爵のロンドンにおける邸宅であったアプスリー・ハウスに今も所蔵されている。
しかし、本作については、義妹であるウェルズリー侯爵夫人に贈られる。
1961年、本作を受け継いだ第11代リール公爵は、本作をサザビーズの売り立てに出す。
ニューヨークの収集家チャールズ・ライツマンが、140,000ポンドで落札する。
石油事業で財を築いたライツマンは、メトロポリタン美術館のパトロンとしても知られ、フェルメール《少女》やゲラルド・ダヴィッド、ラ・トゥール、グエルチーノ、エル・グレコなどのコレクションを同美術館に寄贈することとなる人物である。
これに対し、イギリスは、巨匠の手になる国家の英雄の肖像を流出させてはならない、と奮起する。
ウォルフソン財団が提供した100,000ポンドに加え、政府から臨時の国庫補助金40,000ポンドを引き出し、落札価格と同額を準備、ライツマンから本作を購入することに成功する。
1961年8月2日、ナショナル・ギャラリーは本作の一般公開を開始する。
その19日後の1961年8月21日、なんと盗まれてしまう。
その華々しい取得劇&盗難事件は、当時、相当の話題となったようである。
1962年に公開された007シリーズ映画化第1作『007 ドクター・ノオ』は、本作をドクター・ノオのコレクションの1枚として登場させている。
堀田善衛は、この本作不在時期に、ナショナルギャラリーを訪問したこととなる。
その後、犯人らしき者から通信社に手紙が届く。返却条件として、2点が要求される。
貧しい人々がテレビ受信料を支払えるよう慈善団体へ140,000ポンドを寄付すること。
犯人の罪を問わないこと。
その要求は拒否される。
1965年6月、犯人は、新聞社に連絡し、駅の荷物一時預り所を通じて絵を返却する。
その6週間後、犯人は自首する。
犯人は、元バス運転手で年金生活の男。
動機は、テレビ受信料の値上げへの怒り。当時話題となっていたゴヤ作品の取得劇に、男は怒る。作品の購入にはポンと大金を出す余裕があるのに、貧乏人からは毟り取ろうとするのか。
男は、ナショナルギャラリーの警備員と知り合いで、同館のセキュリティシステムは、清掃作業を行う早朝に一時解除されることを知っていた。
8月21日の早朝、トイレの窓から館に侵入する。本作を額縁ごと取り外す。そしてトイレの窓から逃げる。
裁判において、弁護側は「持主の占有を永続的に奪う意図がなかった」と主張する。
結果、戻ってこなかった額縁の窃盗だけが処罰の対象となり、懲役3ヶ月という比較的軽い判決の言渡しを受ける。
この判決を踏まえ、1968年、公衆が建物や収集品を鑑賞する目的で立ち入ることができる建物内に展示又は保管されている物品を許可なく持ち去る行為は、「持主の占有を永続的に奪う意図」の証明がなくても処罰される、との財産罪法11条の処罰規定が整備されている。
年金生活の男は、刑期を終えたあと、1976年に亡くなる。享年72歳。
それから20年以上が過ぎて、真犯人は、年金生活者の男ではなく、男の息子たちであったという報道もなされているようである。