春の江戸絵画まつり
ほとけの国の美術
2024年3月9日〜5月6日
(前期:〜4月7日、後期:4月9日〜)
府中市美術館
後期入りした、2024年の「春の江戸絵画まつり」、「ほとけの国の美術」を訪問する。
寺請制度によって、寺の檀家になることが義務づけられた江戸時代、人々の暮らしは仏教とともにあり、画家たちの創作の根底には「仏教」があった。
【本展の構成】
1章 浄土と地獄
2章 禅が教えてくれること
3章 古典美としての仏画
4章 ほとけの国の人気キャラ
5章 円空の仏像
6章 涅槃図と動物絵画の時代
【出品数】
総数:117点
うち 通期 :13点
前期限り:54点
後期限り:50点
最初の展示室、順路にしたがい、通期展示である京都市・二尊院の土佐光広筆《二十五菩薩来迎図》への通路に進もうとすると。
左手に、どぎつい色彩の掛軸多数が所狭しと並んでいるのが目に入る。
これが後期の目玉作品か。
ほとけの国の美術、明日4/9(火)から、いよいよ後期展startです! 私も心待ちにしていた地獄極楽図の展示、ほんとうに圧巻の大迫力です。金沢市の照円寺を出るのは初めてという18幅、ぜひこの機会にご覧ください。 pic.twitter.com/ZogQaRU7uY
— ほとけの国の美術展@府中市美術館【図録制作チーム公式】 (@edo_fam) April 8, 2024
《地獄極楽図》18幅
江戸時代後期(19世紀)
金沢市・照円寺
照円寺HPによると、JR金沢駅から徒歩8分にあるという照円寺にて、年2回、春分の日近くの土日2日間と、秋分の日近くの金土日の3日間に特別公開されているらしい《地獄極楽図》。
縦170cm前後と人と同じくらいの高さで、強い色彩の掛軸装18幅、壁面ガラスケース1面に並ぶ様は、前期の展示風景を知るがゆえに一層、威圧的に感じる。
《源信和尚》
《天道》
《人道》
《人道2》
《阿修羅道》
《畜生道》
《餓鬼道》
《地獄道》
《等活地獄》
《黒縄地獄》
《衆合地獄》
《叫喚地獄&大叫喚地獄》
《焦熱地獄&大焦熱地獄》
《阿鼻地獄》
《聖衆来迎楽》
《聖衆倶会楽&引接結縁楽&快楽無退楽》
《五妙境界楽&身相神通楽&蓮華初開楽》
《増進仏道楽&随心供会楽&見仏聞法楽》
特に強烈なのは、八大地獄を描いた6幅。
色彩に加え、罪人への責苦描写。
地獄行きの罪8つのうち、1つの罪を犯すと等活地獄、2つの罪を犯すと黒縄地獄、3つの罪を犯すと(中略)、8つの罪を犯すと阿鼻地獄に堕ちる、とのことだが、1つランクが上がると10倍苦しくなるという。
地震の規模を表すマグネチュードを想起する。マグネチュードは、よく聞く範囲で大体1〜8とランクの数は似ているが、ランクが1つあがると約32倍、2つあがると1000倍の規模となるという。ただ、発生頻度はランクが1つ下がると10分の1になるらしいので、地獄の数値と近似する。
1ランク違いで10倍の苦しさ、阿鼻地獄は等活地獄の10の7乗倍の苦しさ、その差を《地獄極楽図》が表現できているかというと、等活地獄から残酷度MAX。人間が知覚=表現できる苦しさの上限値を最初から超えている、ということなのだろう。
見世物小屋の世界、あるいは、血みどろ絵を想起する。
本作は、照円寺に伝わっている話によると、15代住職(明治34年没)の代に、画家が同寺に滞在して描いたが、作者も制作年も分からないとのこと。
江戸時代の終わり頃の制作てはないか、との本展企画者。その構図や細部は、嘉永年間(1848-54年)に出版された『平かな絵入往生要集』(本展に展示あり)と同じものが見出せるのとこと。
他にも注目すべき後期出品作品は多数あろうが、私的には《地獄極楽図》にほぼ持っていかれた状況。
それでも、次に長く見た作品を挙げると。
曽我蕭白《雪山童子図》松阪市・継松寺
と
《八相涅槃図》名古屋市・西来寺
の2点。
特に《八相涅槃図》は、「江戸時代の数多くの涅槃図のなかでも、とても洗練された素晴らしい仕上がりで、仏や人々、そして動物たちも色鮮やかで美しい」との説明。
サンゴを加える鯨など、水の生き物も登場しているのは、数例が知られているだけの非常に珍しい図柄とのこと。
展示会場を出たところで、京都市・二尊院の《二十五菩薩来迎図》、金沢市・照円寺の《地獄極楽図》、名古屋市・西来寺の《八相涅槃図》の解説映像が用意されている。
いずれも見ておきたい内容であるが、3つ全部を見るには30分超を要するので、時間配分に留意。
前期・後期ともに、凄い作品と出会った2024年の「春の江戸絵画まつり」となる。