世界と出会った江戸美術
2020年11月25日〜21年1月11日
東京国立博物館 平成館企画展示室
(担当研究員の一言:東博HPより)
この春以降、移動が制限される情勢が続いていますが、このような状況におかれてみて初めて、江戸時代のいわゆる「鎖国」が少し身近に感じられるような気がしました。外国への渡航がかなわなかった当時、それでも異国の文物から何かを学ぼうとした人々のエネルギーを感じていただけたら幸いです。
2021年1〜3月に平成館で予定されていながら、新型コロナウイルスの影響で開催中止となった「ジパング - 世界と出会った日本の美」展の東博所蔵品によるミニサイズ版というところなのだろうか。
構成(出品点数36点)
1 西洋との出会い
2 ヨーロッパで愛された伊万里焼
3 輸出漆器
4 蘭学と洋風画
5 開成所画学局と高橋由一
【西洋との出会い】より
重文《悲しみの聖母(親指のマリア)》
イタリア、17世紀後期
1708年に屋久島に潜入したパレルモ出身の宣教師ジョヴァンニ・バッティスタ・シドッチ(1668〜1714)が携行していたマリア像。フィレンツェの画家カルロ・ドルチ(1616〜87)風。
捕らえられたシドッチがその死まで幽閉された文京区の「切支丹屋敷」跡地から、2014年に人骨が出土、シドッチのものと判明し、それに基づき復元した顔の像が2016年に国立科学博物館にて公開されている。
《桔梗蝶楓鹿蒔絵螺鈿聖龕》
安土桃山〜江戸時代・16~17世紀
安土桃山時代にカトリック諸国からの注文によって制作された輸出漆器。
聖龕に収められた聖画は、聖ステファノが石打ちに遭い殉教する場面。同画はメキシコの先住民の伝統技法である「羽根モザイク」の技法で作られているのこと。日本の漆器+西洋の図像+メキシコ先住民の装飾技法のコラボ、何故?
重文《エラスムス立像》
ネーデルランド連邦共和国、1598年
栃木・龍江院蔵(東博へ寄託)
撮影不可なので本展パンフレットの写真を借用。オランダの人文学者エラスムス(1466〜1536)の木彫り像。
1598年にロッテルダムを出港し、1600年に豊後に漂着したデ・リーフデ号の船尾に付けられていた。
乗船していたイギリス人航海士ウィリアム・アダムズ(1564〜1620)は、徳川家康の外交顧問となり、三浦按針を名乗ることとなる。
《南洋鍼路図》
コルネリス・ドッツゾーン作
オランダ・エダム、1598年
北は日本、朝鮮、中国から、南はニューギニア島や、未知の地であった南方大陸までを収めたオランダ製の航海図で、デ・リーフデ号の請来と伝えられる。
日本列島は、東北が南側に屈折した「ドゥラード型」で描かれる。
【輸出漆器】より
《フリーメイソン螺鈿箱》
江戸時代・19世紀
薄貝螺鈿によりフリーメイソンに関する意匠が施される。リボンを掛けた八角形の窓を開き、神の目、コンパスと定規、蠟燭に囲まれて横たわる人物。
《トレビの泉図蒔絵プラーク》
江戸時代・18世紀
オランダ人の注文により制作された、西洋の銅版画を写した蒔絵のプラーク(飾り額)。
ローマのトレビの泉の光景。
トレビの泉が、本品にあるようにバロック様式の巨大な彫刻を施された現在の姿となったのは、1762年のこと。
【蘭学と洋風画】より
重文《浅間山図屛風》
亜欧堂田善筆
江戸時代・19世紀
浅間山の雄大でシュールな景観。江戸時代最大級の油絵。師の谷文晁が描いた『名山図譜』の浅間山図をもとに、画面構成を練って本図を作成した。近年発見の下絵には、斧で木を割る人と炭焼き窯の番人がみられたが、本絵では転がる木材と炭焼きの煙だけが残り、実にシュールな景となった。(本展解説、過去の常設展示時の解説をミックス)
《草花図扇面》
安田雷洲筆、江戸時代・19世紀
安田雷洲は御家人身分の洋風画家。現在確認されている肉筆画は20点にも満たないらしい。
雷洲の名前を初めて認識したのは、2017年の府中市美術館「歌川国芳展」に出品された本間美術館(山形県酒田市)所蔵の《赤穂義士報讐図》による。
討ち取った吉良上野介の首を大石内蔵助が抱えている場面を、オランダの画家アルノルド・ハウプラーケン(1660-1719)による聖書の挿絵「羊飼いの礼拝」をもとに描く。
雷洲は、原画をほぼそのまま活かしたうえで、原画の羊飼いたちを赤穂浪士に、原画の聖母マリアを大石内蔵助に、原画の幼児キリストを吉良上野介の首に替える。そのため、赤穂浪士たちは皆、愛でるものを見る目をして、吉良の首を見ている。実に異様。
その異様な作品に比べると、本作の洋花は、西洋銅版画のエッチングの影響が見られる細い線で、青一色で描かれていて、落ち着いてその洋風表現を鑑賞できる。
【開成所画学局と高橋由一】より
《洋人捕象図》
高橋由一筆、1874年
明治7年に湯島聖堂で開催された「聖堂書画大展観」 出品作。
象の描写に目がいくが、陰影によって立体感が与えられた「雲」の描写も見どころであるとのこと。
当初予定の展覧会の姿を想像しつつ、楽しく見させてもらう。
参照:本展パンフレット