東京でカラヴァッジョ 日記

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グリューネヴァルト《イーゼンハイム祭壇画》

2017年09月09日 | 西洋美術・各国美術

中野京子『「怖い絵」で人間を読む』

 ある日、道連れが増えはじめたことに気づく。みんな同じような姿の巡礼者たちで、同じ方向を目指して歩いている。

 傍らの人に声をかけると、あそこに屋根の十字架が見えるでしょう、と言われた。あなたには見えないが、それも道理で、両足はすでに腐り、しばらく前から使える左腕だけを頼りに、あぶら汗を流すほどの痛みに耐えながら、膝でいざりつつ進んでいたのだ。

 教会だ。戸口にいた修道士があなたのひどい様子に気づき、駆け寄ってくる。薄暗く、ひんやりした堂の中へ入れてもらった。祭壇の前に連れてゆかれると、ロウソクの炎にゆらめく中に浮かび上がったのが-この絵だ。
 長い辛い旅路の果てに、あなたは今この絵を前にしている。

 これでは仲間の死に際と同じではないか。いや、自分の今の姿そのものではないか!イエス様は自分と同じように、苦しんで苦しんで、みんなのために死んでくださったのだ。


グリューネヴァルト(1470頃-1528)
《イーゼンハイム祭壇画》中央パネル
1515年頃
ウンターリンデン美術館





 実物を観たい作品。

   本作品は、フランス・アルザス地方の街コルマール中心部にあるウンターリンデン美術館が所蔵する。13世紀に建てられたドミニコ派修道院を改装して1853年に開館した美術館である。近年改装増築工事が行われ、2015年12月にリニューアル・オープンした。

   本作品は、もともとはコルマールの南方20kmほどに位置するイーゼンハイムの聖アントニウス会修道院付属の施療院の礼拝堂のために製作された。

   当時のヨーロッパでは、麦角菌に汚染された食物(ライ麦パン)を口にすることで手足が侵される奇病「麦角中毒」が恐れられていた。この施療院は「聖アントニウスの火」とも呼ばれた麦角中毒の患者の治療で有名であった。



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