府中市美術館 開館20周年記念
動物の絵 日本とヨーロッパ
ふしぎ・かわいい・へそまがり
2021年9月18日〜11月28日
(前期:〜10月24日、後期:10月26日〜)
府中市美術館
ここ10数年ほどの府中市美術館「春の江戸絵画まつり」の総集編。動物をテーマに、江戸時代を中心とした、ふしぎ・かわいい・へそまがりの日本美術を、ヨーロッパ美術も交えながら楽しむ展覧会。
昨年2020年秋の開催を予定していた本展は、1年延期となったが、無事に開幕されて嬉しい。
通常の「春の江戸絵画まつり」より展示点数が多く、常設展エリアも利用している。
【出品点数】183点
通期52点
前期62点
後期72点 → 71点
〜11/14 1点
11/16〜 1点
10/26〜11/14 0点 → 1点
✳︎重文《春日鹿曼荼羅図》奈良国立博物館蔵の出品が、「後期」から「10/26〜11/14」に変更。
【本展の構成】
第1章 動物の命と心
・同じ仲間に心を寄せる
・動物の命と心 ヨーロッパの人々の悩ましさ
・鳥獣戯画の国、日本
・擬人化した動物で人間を描く
第2章 いろいろな動物、いろいろな絵画
・動きと姿
・珍しい動物が描きたい
・本物みたいに描きたい
第3章 動物から広がるイメージ
・縁起物
・なぜヨーロッパには動物の絵が少ないのか?
・ファンタスティック
第4章 愛おしいもの
・一緒に暮らす
・健気なもの、おかしなもの
・聖ヒエロニムスのライオン
・徳川家光の動物画
・子犬の絵画
観覧券を購入すると「2度目は半額!」券を利用して、後期鑑賞。
以下、後期からの展示作品を主に記載する。
第1章 動物の命と心
1章1。
最初のコーナー。前期の目玉作品であった 伊藤若冲《象と鯨図屏風》MIHO MUSEUM蔵、に代わって、通常サイズ内の掛軸4幅が展示。《涅槃図》2点、《放生図》、小川芋銭「イモリ」。若冲の大きな屏風絵を満喫できるだけの鑑賞ヤードが後期もそのまま残り、続く1章の他の作品の展示スペースが密であるのとの対比で、後期だけを考えると妙に見えるスペース配置。
狩野永泰《放生図》個人蔵 は、「合掌する一人の僧を中心に、鳥は空へ、魚は水へ、獣は陸へ、生き物が本来生きるべき空間へ放たれる」場面を描く、放生の普及に尽力した僧・純称を讃える作品。
続いて日本美術が後期6点。長沢蘆雪《牧童図》、葛飾北斎《雪中鷲図》、松本泰時《蛙図》など。
1章2。ダーウィン進化論の西洋美術への影響。一部展示替えがあるが、総じて前期と同じ。
ガブリエル・フォン・マックス《骸骨の前の猿》ドイツ個人蔵 (通期)は、画家の猿に対する尋常じゃない関心の強さに引き込まれる。
1章3。日本美術に脈々と流れる鳥獣戯画の影響。後期9点(後期から展示4点)。
伊藤若冲《河豚と蛙の相撲図》京博 は、何度見てもその構図の面白さに見惚れる。
春木南溟《虫合戦図》摘水軒記念文化振興財団 は、大砲の車輪が青い朝顔、砲身が芋虫など、ちょっとしたアクセントが微笑ましい、しかし幕末明治の戦争を背景とした戯画。
1章4。西洋の版画が通期5点。
第2章 いろいろな動物、いろいろな絵画
2章1。20世紀の西洋美術(マリノ・マリーニ、ポール・ジューヴ)の動物を前座に、日本美術の動物の絵の造形を味わうコーナー。後期10点(後期から展示6点)。
俵屋宗達《巣父図》個人蔵、長沢蘆雪《牧童図》個人蔵、伊藤若冲《鶏図》個人蔵、松井慶仲《虎図》個人蔵 など。
2章2。珍しい動物を描いた日本美術のコーナー。後期11点(後期から展示7点)。
ヤン・ヨンストンの版画による書籍「動物図譜」を原画とする石川孟高《犀図》摘水軒記念文化振興財団 は、原画の真横姿の犀の向きを少しだけ回転させ、横幅を短縮し、でも原画に忠実に犀を描いている。
同じく「動物図譜」を原画とする司馬江漢《ライオン図》摘水軒記念文化振興財団。ライオンの表情は、原画自体も妙な表情であるが、江漢はさらに妙というか戯画っぽい表情で描いていて面白い。
続いて、雄雌2頭のヒトコブラクダを描いた3点の《駱駝図》。1821年にオランダ船により長崎にもたらされたが、当初目的の将軍への献上は叶わず、興行者の手に渡り、同年に大坂と京都で、翌22年には江戸・両国で見世物となったヒトコブラクダを、大坂の絵師(上田公長、個人蔵)、京都の絵師(窪田雪鷹、個人蔵)、江戸の絵師(谷文晁、摘水軒記念文化振興財団)が描く。2頭は、おとなしく、人に従順で、仲睦まじい、で人気だったとのことで、その後も10年以上かけて全国30カ所以上をまわったという。
2章3。写実的に動物を描いた日本美術のコーナー。後期6点(後期から展示5点)。
森狙仙《群獣図巻》(通期)や、円谷応挙《百兎図》個人蔵 と《猛虎図》摘水軒記念文化振興財団、吊り下げられた食材として描かれた葛飾北斎《河豚と大根図》個人蔵 など。
第3章 動物から広がるイメージ
3章1。縁起物として動物を描いた日本美術のコーナー。後期5点(後期から展示4点)。
「雪舟に学ぶ、あるいは雪舟風の絵を描く」と記された生没年不詳で安土桃山時代末から江戸初期の人と推定されている筑陽《寿星図》個人蔵 は、白い鹿のつけまつげ?のパッチリと見開いた目が印象的。
原在照《三猿図》は、1頭の猿が目と耳と口を両手両足で塞いでいる姿。尻尾でお尻の穴を隠しているのが可愛い。
3章2は。「なぜヨーロッパには動物の絵が少ないのか?」コーナー。
全て通期の3点。
3章3。ファンタスティックな日本とヨーロッパの動物の絵のコーナー。後期9点(後期から展示4点)。
モロー《一角獣》モロー美術館蔵(通期)と重文《春日鹿曼荼羅図》奈良国立博物館蔵 と《鹿図屏風》春日大社蔵 の聖なる動物たちの競演。六曲一双の金箔を貼った画面に多数の鹿が戯れる《鹿図屏風》は、以前たぶん東博の特別展で観たような記憶がある。
第4章 愛おしいもの
ここから常設展エリアを利用した展示となる。
4章1。日本とヨーロッパのペットとしての動物の絵のコーナー。後期は19点(後期から展示6点)。
母親、女の子、飼犬の行進が実に微笑ましい 小倉遊亀《径》東京藝術大学蔵 が前期限りで後期はいないのが寂しい。
4章2。後期3点(全て後期から展示)。
長沢蘆雪《獅子の子落とし図》個人蔵、伊年印《虎図》個人蔵 に、アマチュア画家・夏目漱石《柿烏図》個人蔵。
4章3。聖ヒエロニムスのライオンのコーナー。全て通期の4点。
4章4。徳川家光の動物絵の部屋。
後期は6点(後期から展示5点)。
《木兎図》養源寺(通期)、「ぴよぴよ鳳凰」《鳳凰図》徳川記念財団 など。家綱の絵も1点。
最後の4章5。子犬の絵の部屋。
後期は全点展示替えで13点。
仙厓、上田公長、狩野探信、養花翁、吉村周圭、伊藤若冲、応挙4、蘆雪3。
仙厓《双狗図》福岡市美術館 は、白黒2頭の「きゃんきゃん」が雑な筆致で、でも可愛い。
若冲《子犬図》2幅、個人蔵 は、箒のところに1匹、ちりとりの中に丸まって3匹の犬。犬の描写よりも、箒とちりとりの堂々とした描写が印象的であるが、犬がいるが故に、箒とちりとりが堂々と見えるのだろう。
2022年「春の江戸絵画まつり」は、2020年に会期途中で閉幕となった「ふつうの系譜」展(敦賀市博物館コレクション展)の再開催。
個人的には2020年に前期を見たが、前後期ごとの出品構成は変わるのか変わらないのか、気になるところ。