東京でカラヴァッジョ 日記

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秋山聰著『天才と凡才の時代-ルネサンス芸術家奇譚』を読む

2018年08月16日 | 書籍
秋山聰著
『天才と凡才の時代-ルネサンス芸術家奇譚』
芸術新聞社
2018年1月初版
 
 
   イタリア・ルネサンスおよび北方ルネサンスの芸術家80人の逸話を紹介する本書。
 
   西洋美術史上の大巨匠の逸話もあれば、ルネサンスを語る際に頻繁に触れられる有名な逸話もあれば、初めて名前を聞く超マイナーな芸術家の逸話というほどのものでもない逸話もあるが、80人という分量は圧巻。
 
 
   イタリア・ルネサンスの芸術家から印象に残る逸話3選。
 
 
1  コズメ・トゥーラ(1433頃-1495)
 
   コズメ・トゥーラは、フェラーラ宮廷に仕えたフェラーラ派の巨匠。
   私的に偏愛している画家なので、一番最初に読む。
 
   画家は、1469年、フェラーラ公に派遣され、ブレーシャへ研修の旅に出る。目的の一つは、当時ブレーシャの教会礼拝堂にあったジェンティーレ・ダ・ファブリアーノによる《聖ゲオルギウスの龍退治》の壁画を研究すること。
   画家は、フェラーラ大聖堂のオルガン扉絵のために《聖ゲオルギウスの龍退治》と《受胎告知》を制作している。研修旅行は、作品制作準備のためかと思うと、オルガン扉絵は研修旅行の直前に完成済み。完成したばかりの自作とかつての巨匠による著名な同主題作品を比較しようということらしい。
   そもそも既に時代遅れであったかつての巨匠の作品が研究対象になるというところにフェラーラ派の特異性の一端が現れているといえる。
 
   以上、逸話らしくない逸話で、肩透かしを食らう。トゥーラはどうやら地味だが堅実・真っ当な生活を送ったらしい。
 
   フェラーラからブレーシアまで、現代は、車で175km、2時間ほど。電車でボローニャ・ヴェローナ経由で最速3時間ほどである。 
   なお、ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノによる壁画は17世紀に破壊されたようで、現存しない。
 
 
 
2  ドメニコ・ギルランダイオ(1449-1494)
 
   ドメニコ・ギルランダイオは、ボッティチェリやレオナルド・ダ・ヴィンチと同世代の、主に大規模壁画制作で活躍したフィレンツェ・ルネサンスの巨匠。肖像画家としても人気があった。
 
ドメニコ・ギルランダイオ
《老人と孫》
1490年頃、62×46cm
ルーヴル美術館

   「年老いた男の善良さと穏やかさに満ちた微笑と、子供の信頼のこもった視線およびその優しさに溢れたしぐさは、二人を結びつけている愛情を物語っている」。心温まる肖像画。

    実見したことはない(ルーヴル美術館展2018での来日を密かに期待していた)ものの、図版を目にする機会は多い。ただ、画面上に傷があるなあ程度の認識で、これまできちんと向き合ったことはなかった。
 
   本書を読んで、改めて図版を見る。画面上に傷は確かにあるようだが、老人の額の箇所。それに続く大きな変形した鼻は、画面上の傷ではなく、吹出物が描かれていたのだ。
 
   本作は、老人が亡くなった直後に描かれた素描に基づいて制作されたと考えられている。
    その素描では、鼻の上の吹出物は「むごたらしいほどに肥大している」。一方、本作では「不快感を与えない程度に抑えめに表現されている」。
 
《老人の頭部》
28.1×21.5cm
ストックホルム国立美術館
 
 
 

3   ジョヴァンニ・フランチェスコ・カロート(1480-1555or1558)

    ジョヴァンニ・フランチェスコ・カロートは、主に地元ヴェローナで活動した画家。
   画家の最も有名な作品は、微笑みが印象的な少年の肖像画である。子どもの落書きを描いた最古の肖像画とされる。
 
《素描を持つ少年》
1515年頃、37×29cm
ヴェローナ、カステルヴェッキオ美術館
 
   その画家の名前を初めて知ったのは、2015年11月に起こったカステルヴェッキオ美術館の絵画盗難事件。盗まれた絵画は17点、そのなかに本作品が含まれていた。
   翌2016年3月に犯人逮捕、5月にウクライナにて作品発見・回収。現在は元どおり美術館にて公開されているようだ。
 
   画家は、一人息子の誕生と引き換えに妻を失った。
   絵のモデルは、その一人息子。
   当時10歳頃の息子は、「父親の眼を盗んでその工房に入り込み、父が習作として描きかけた紙葉に落書きをし、それを得々として示している」。父親に対して、そして我々に対して。
 
 
 
   本書は半分くらい読んだところ。      
   イタリアの芸術家については大抵名前は聞いたことがあるが、北方の芸術家については半分は名前すら聞いたことがなく難航必至、長期戦覚悟。


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