デイヴィッド・ホックニー展
2023年7月15日〜11月5日
東京都現代美術館
1937年イギリス生まれの現役作家デイヴィッド・ホックニーの回顧展。
日本では26年ぶりになるという。
現代美術に疎い私だが、ホックニーの名前は聞いたことはある。
ただ、その作品で思い浮かぶのは、1960年代制作の、2015年東京都美術館「大英博物館展 - 100のモノが語る世界の歴史」や2018年横浜美術館「ヌード」展に出品された版画のみ、という状態であった。
その版画は、キャリア初期の作品であるらしい。悪名は無名に勝る戦略なのか、社会変化の動きに対して美術家として一役買おうとしたのか。イギリス的には、最も重視される作品群かもしれない。
本展出品作は、現役作家なので、近年制作した作品の割合が点数的にも面積的にも高くなる。
好きに自由にやっている。
その作品が最も高額で取引される現役作家の一人なので、どうしても版画作品が多くなる。
そんななか、点数的・面積的には限られるものの、1960〜70年代のキャンバス作品を見ることができたのは収穫である。
まずは、《三番目のラブ・ペインティング》1960年、118.7×118.7cm、テート。4点制作したなかの3番目の作品らしい。地下鉄のトイレの落書きやアメリカの詩人ウォルト・ホイットマンの詩が引用されているとのことだが、現代美術(英語圏)って、英語を画面に描き込むのが好きだなあ、単なる装飾だったらいいけどそうでもないらしいのだなあ、英語力のない私には、表面的な意味はともかく本当のところは分かりかねる、というか、日本語に変換しながら見る気力がない。細かい字だし。
次に、1960年代制作の「アメリカ西海岸の広い芝生とプールのある邸宅で描きました」シリーズ。
代表的/典型的な作品とは言えないと思うが、東京都現代美術館とテート美術館が所蔵するキャンバス画各1点が出品されている。
最大の収穫が、1960年代末から制作を始めたという、ふたりの人物で画面を構成した「ダブル・ポートレート」シリーズ。
テート美術館から、代表作らしい作品を含む1970年代制作の3点!が出品されている。
《クラーク夫妻とパーシー》
1970-71年、213.3×304.8cm、テート
代表作の一つであるらしい。
ほぼ等身大。画家のほうを見てポーズをとる夫妻と、画家に背を向ける猫のパーシー。場所は夫妻が住むロンドンのノッティング・ヒル・ゲイトのアパート。
ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵するヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻の肖像》を下敷きにしているようだ。
よって、小道具も数は少ないが洗練。床に置かれた白いダイアル式の電話機は、当時おしゃれで人気の電話であった。カーペットの毛深さも印象的。
会場配布の鑑賞ガイドには、「ユリは純潔や母性などを表し、猫は気まぐれや奔放さを象徴すると言われているが、ふたりのどのような物語が想像できますか」とある。
《ジョージ・ローソンとウェイン・スリープ》1972-75年、212.5×300.8cm、テート
古書商の男とバレーダンサーの男。
本作は未完成で終わったらしい。
《両親》
1977年、182.9×182.9cm、テート
作家の両親がモデル。母親は鑑賞者をまっすぐ見つめるが、父親はモデルを務めることに落ち着かないのか、本を眺める。
気になるのは、棚に横置きされた書籍、背表紙から「CHARDIN」(シャルダン)画集のようだ。
また、鏡に映っている絵画2点。《アルノルフィーニ夫妻の肖像》の凸面鏡のオマージュ。上の絵はロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵するピエロ・デッラ・フランチェスカ《キリストの洗礼》だが、緑のカーテンが描かれた下の絵は何だろう?
撮影可能エリア(1階展示室)より。近年制作の大型インスタレーション(?)が展示。
上・中:《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》(四方展示のうち二方)
下:長さ90メートルの《ノルマンディの12ヶ月》。「バイユーのタペストリー」が制作のヒントとなったという(確かに。実物を見たことないけど)。
本展は、テート美術館の協力大。
国立新美術館「テート美術館展 光」も開催中で、この夏の西洋美術展は「テート」一色とも言えそうな感じ。
一方、多数出品されている版画作品は、きちんと確認していないが、そのほとんどが東京都現代美術館所蔵のようである。
東京都現代美術館がこれほどのホックニー・コレクションを所蔵しているとは知らなかった。
キャンバス画は1点のみのようだが、版画作品は150点の規模であるようだ。
現代美術に特化した美術館として、コレクションの目玉狙いで購入したのだろう。しかし作品を見ていると、軍団にうまく吸い上げられてしまったかなあ、という気がしないでもない。