ボイマンス美術館所蔵
ブリューゲル「バベルの塔」展
16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-
2017年4月18日~7月2日
東京都美術館
ボス油彩画真筆が2点並んで展示される。
順路に従い、《放浪者(行商人)》の次に、《聖クリストフォロス》を観る。
《聖クリストフォロス》
1500年頃
113×71.5cm
図版からは画面が相当傷んでいるのではないかと想像していたが、意外とそうでもない。
何より風景表現が魅力的であるし、一見平凡な宗教画だが、ボスらしい奇怪なモチーフも何気に織り込まれている。
描かれる男は、聖クリストフォロス。背にいる少年はイエス・キリスト。
巨人レプロブスは、向こう岸に渡ろうとして多くの人たちが命を落としてきたある川のほとりに小さな小屋を建て、その川を渡ろうとする者に、無償で手助けをしていた。
ある日、小柄な少年を向こう岸に連れて行くこととなる。
歩むほどに川の水嵩は増し、少年の身体は重くなる。やっとのことで川を渡りきると、少年に言う。本当に危ないところであった、なぜそれほど重いのか。少年は答える。あなたは世界はもとより、この世界の創造者をも背負ったからです。イエスは祝福し、今後は「キリストを背負ったもの」という意味の「クリストフォロス」と名乗るよう命じる。
聖クリストフォロスは、旅人の守護聖人となる。中世後期、聖人の画像を見た者は、その日に限り急死するおそれはないと保証されたという。
会場内の詳細部分解説パネルを参考に、何が描かれているか見ていく。
1)聖クリストフォロスの持つ杖
枯れた杖から控えめながら新芽が出ているのは、背負う子供がキリストであることを示している。
「あなたの杖を小屋のそばの地面に植えなさい。朝になったら、花を咲かせ、実をつけているでしょう。」
杖に吊るされた血を流す魚は、磔刑に処せられるキリストを暗示している。
2)隠者
木の上の破損した巨大な水差し。家として使われている。梯子がかけられ、中では火が焚かれている。
水差しの口の部分には、小男がランタンを枝にかけている。洗濯物も干されている。
木の天辺では、もう一人の小男が何かに近づこうとしている。蜂の巣であるらしい。
その間、水差しの上には日除け・雨除け用の屋根のような覆い。何かの皮?
その上の三角形の立体は何、蜂の巣関連?
さらにもう一人、岸辺にも小男(と犬)がいる。
彼らは隠者(隠修士)。
キリストに仕えたいと願うクリストフォロスに対し、旅人の渡河の手伝いを勧めたのが彼ら隠者である。
断食は大の苦手、お祈りは知らないと拒否するクリストフォロスに対する第三の提案としてであった。
3)熊と狐
画面中景、猟師に射殺され、木に吊るされる熊。
唐突感があるが、「迫り来る危機」が去ったことを表していると考えられるという。
また、隠者の住む木の根元近くに繋がれた狐の死骸。これも同様に「迫り来る危機」が去ったことを表しているという。
4)遠景に展開されるもの
風景表現。実に大河だなあ、クリストフォロスが立つ場所は、ちょっとした水溜りのようにしか見えないけど。
裸で逃げる人物。
廃墟の怪物。
遠景の火事。
遠景に小さく描かれているこれらが「迫り来る危機」を表しているらしい。
前景左の、羽を持つ魚。ボス的モティーフだが、これは「迫り来る危機」を表しているのか、「迫り来る危機」が去ったことを表しているのか、単なる顧客サービスなのか?