2020.06.28(日)
『ヴィンセントが教えてくれたこと』
(St. Vincent)
http://www.vincent.jp/
監督 セオドア・メルフィ
出演 ビル・マーレイ(ヴィンセント)/ジェイデン・リーバハー(オリヴァー)/
メリッサ・マッカーシー(マギー)・ナオミ・ワッツ(ダカ)/
クリス・オダウド(ブラザー・ディラティ)
こんなオヤジが身近にいたらどんなにややこしいことか。
ひと言発するたびにいくつかの皮肉や憎まれ口を潜り込ませなければいられない性分。画面で見れば笑えたり「うまいこと言うなあ」と無邪気に感心できるけど、目の前で年がら年中やられたら、たまったもんじゃない。
おまけにこのオヤジは枯れることを知らずに、なんだか不必要にギラギラしていて、それもよけいに厄介。
ビル・マーレイはそんないけ好かない男を思いっきり私の眼前にちらつかせて、物語をスタートさせた。「こんなんでも実はいい人」パターンのストーリーにはいい加減飽き飽きしている現実。
それでも、ビル・マーレイのヴィンセントの現実が少しずつ明らかになると、自然にその行き先に静かな関心を寄せたくなる。
夫のこともわからなくなった、美しい認知症の妻のもとに洗濯物を持参しながら定期的に通う姿。主治医を演じつつも、妻が「ヴィン」と無意識に呼ぶと、あのいつもの表情の下に現実のヴィンの思いが見え隠れする。
ストリッパーで妊婦のダカとは割り切った関係かと思いきや、新生児のための買い物に付き合ったり、胎児の造影画像の診察のための費用を出したり、最後は不思議な同居に至る。
そして何より、物語の主流は、危なっかしいほどに華奢で、その反面、妙に大人びた賢い小学生オリヴァーとその母とのいきさつ。
ヴィンセントは面倒を背負い込んだはずなのに、彼の暮らしの中で自然に並走し始めたオリヴァーは、「人生」のほんの入り口付近で、「身近な聖人」に出会っていたことに気づく。
妻の死で自暴自棄になったヴィンセントが乱暴に捨て去ろうとした過去の思い出の品々をオリヴァーが拾い上げ、そこから幼い彼なりの追跡で「聖人」のこれまでが再現される。
ここはもう、お決まりの「滂沱の涙」です。
(聖人とはなんぞや・・・を語り子どもたちを導く小学校の担当教師の存在もステキなスパイス)
夫の浮気から逃れて息子ともども必死で暮らしながらやりきれなさも半分のオリヴァーの母親。こちらは勝手に味方になって感情移入するけれど、母を大事に思うオリヴァーの中に父を冷静に慕う面もあることを、映画のほんの小さな画面が伝えてくれたりする。
リハビリの末にどうにか生き延びたヴィンセントは新しい「家族」とどんな時間を生きていくのか。
そりゃもちろん、平穏にはいかないでしょ、と思いつつ、何かが変わって、何も変わらない部分も含めて、それぞれの人生が寄り添ったり離れたりするんだろうと、想像する。
コロナ関連で「新しい暮らし方」をきれいな言葉で提言されて、「変わらなくちゃ生きていけない」と思い込まされる前に、この映画に出会えてよかった。
私もどこかで「聖人」に出会って、気づかないうちに何かを「教えて」もらっていたかもしれない。
こんな時代だからこそ、来し方を振り返って、私の「人生」の入り口に思いを馳せてみる。
音楽がいい!
ラストシーンでヴィンセントがウォークマンを聴きながら鼻歌で歌うボブ・ディランの「Shelter from the Storm」もいいけど。
それよりも、オリヴァーが初めて闘うシーンのバックに流れる「I Fought the Law」(映画ではGreen Dayらしいけど、私が知っているのはThe Clashのカバー)、どこの場面だったか、Jefferson Airplaneの「Somebody to Love」。
サウンドトラックはコチラ。
https://tower.jp/item/3724301/St--Vincent
母の施設はまだ家族の面会を許可していないが、オンラインによる面会が実施されることになった。
母とは手紙で連絡をとりあっていて様子はわかっているが、それができないケースでは、家族の不安は大きくなるばかりだろう。
母にも私たちにも残された時間はどのくらいあるのか、それは誰にもわからないからよけいに、コロナのもたらす説明不能の不安や見通しの難しさが続く。
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