途方に暮れるほど暑い……
この日の取材、夕方からで良かった。
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秦荘紬の単に、諸紙布の八寸で。
秦荘は少し透け感があるけれど、後ろにはしっかり居敷当もついていて、
盛夏にも単にも着られるおりこうさん。
帯は米沢の花織。柿渋染めだ。
秋めいてきたころに重宝する。今年も東北への想いを込めて……。
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帯留めは赤の琥珀。これも秋色。
長襦袢は相変わらず海島綿の絽だけれど、
半衿は薄地の袷用を重ねた。軽い花柄の友禅が施されている。
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午後5時の渋谷。
気候のせいなのか人いきれなのかわからない熱気が
駅の外にまでこもっている。
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初対面で、取材先からこのような言葉をかけていただいたことは
そうそう記憶にない。
その方は60前後の女性医師。ずっと第一線で活躍している、
私にとっては人生の先輩だ。
なのにとても腰が低く、丁寧で優しい受け答え。
こういう方に、ある意味頼りにされるのだから、がんばらないと、と
身が引き締まる。
さて、
和やかにインタビューが進み、本題が終わった後に、
なぜか認知症の話になった。
まあ、よく言われていることではあるが、
会社一筋で生きてきた男性が退職後、これといった趣味もないと……、
気を付けた方がいいという話。
特に、
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……あと、体育会系の人がなりやすいという研究報告もあるの」
えっ、そうなんですか。
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あぶないの。要はね、ときめきがないとぼけてきちゃうんだって」
はー、そうなんですか。
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別に深い関係でなくていいの。一緒に散歩しようとか、カラオケ行こうとか、
そういうのに誘えるガールフレンドがいれば」
……。
ちょっと、気がかりになってきた。
近いうち、父に探りを入れてみようか。