神奈川絵美の「えみごのみ」

権力の象徴

もう20年近く前のこと、私がまだ会社員だったとき。

1つ上の、何かと太っ腹で面倒見の良い先輩が、
「ねーぇ、絵美ちゃん、これってどう思う?」と、昼休みに。

旅行好きな彼女は、少し前に中央アジア~トルコの一人旅から
帰ってきたばかりだった。

「私、実は現地でプロポーズされたの」 えっ!?
その言葉がねぇ……

君は羊10頭分ほど素晴らしい。
もしお嫁にきてくれたら喜んで差し出すよ」


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先日訪れたサントリー美術館での紅型展。

最初に目に飛び込んできたのが、鮮やかな黄色地に
鳳凰の描かれた着物だった。


黄色も、鳳凰も、琉球王朝における権力の象徴の一つ。
身分の高い王族だけが、身に着けることを許されたそう。


そこでふと考えた。世界の「権力の象徴」って何だろう?

家に帰ってからざーっとネットで調べてみると……

   韓国 … 孔雀
   ドイツ … 鷲
   フランス … 蜂、バラ
   インドネシア … 馬
   イランの遊牧民 … ライオン などなど。


(諸説あり、この限りではないと思います)

鳳凰も含めると、鳥というのは「飛ぶ」という人間にはない能力を持っているから
象徴にされやすいのだろうか。
確かに、それらを冠する意味が伝わらないと、
(羊10頭! と藪から棒に言われても、「?」となってしまうように)
象徴の役割は果たせないから
いかにも「強そう」「すごそう」「めったに見られなさそう」なものが
選ばれるのは、わかる。



(青はおもに一般士族が身に着けた色だそう)

色については、
中世~近代ヨーロッパでは黄色は決して良いイメージを持たれていなかったが、
それは一般的に普及していた黄色がくすんでいたり、濁っていたり、
褐色がかっていたためで
鮮やかな美しい黄色はやはり、権力者しか手に入れることができなかった
という推察がある。
紅型だって、仮に黄色の発色がこんなに良くなければ、
権力をあらわす色にはなりえなかっただろう。



(紅型は庶民にも特別な場合のみ着用が許されたが、小紋柄で裏地のみ、という制約があったそう)

権力という概念そのものが、昔のような力を失った
今の日本では、
黄色も鳳凰もこうして、美術品としてショーケースに飾られ
「きれいねえ」と言われることが、最も相応しい役回りといえよう。
そしてもう二度と、
着物で権力を表す日などは訪れないとも思っている。

それは、いいことなのか、どうなのか、
平和なのか、そうでないのか、
複雑な思いがよぎった。

コメント一覧

神奈川絵美
衣舞の袖さま
こんにちは
紅型展、観に行かれたのですねー。
私も、特に「雪持ち松」は南の国の衣装としては不思議だなあと、とても印象に残りました。

紅型は舞の衣裳にもなったゆえ、能装束の影響を色濃く受けているという説が有力ですね。
また、海外への贈り物にもなっていたので、日本ならではの風物の柄が好まれた、という説もあるようですね。
衣舞の袖
http://plaza.rakuten.co.jp/tagasode/
絵美 さま

おひさしぶりです~!

紅型展、見ることができました!
会場に入るなり目に飛び込んでくる鮮やかな色・色・色に、しばし時を忘れて浸ってきました。

以前から疑問に思っていた、紅型に使われている雪や桜の四季の文様が、能装束の唐織に対する憧れではという説に納得、感心して帰りました ^^
神奈川絵美
Tomokoさんへ
こんにちは
興味深く拝読しました。紋付き袴、確かに見られませんね。明治天皇が洋装を推進して、その影響で華族が洋館を建てるようになった(天皇訪問の際にもてなす場として相応しいように)と、少し前の「美の壺」で紹介されていた記憶があります。
…と思い出しつつ、ウィキペディアを見たら「礼服」の項に参考になる内容が書かれてありました。やはり紋付羽織袴を着用することはないようですね。
神奈川絵美
オンブルパルフェさんへ
こんにちは
あの界隈は見応えある建物が多いですよね。観光ルートにも入っていたり…。
ヨーロッパの建築技術や造形、資材(大理石など)を積極的に取り入れていて、外交にも大きな役割を果たしたようです。今は当然ながら「外国においつけ、おいこせ」の時代ではないし、せいぜい小金持ちが豪邸建てて財力を見せびらかすことはあっても、権力は、どうなのかな…。
Tomoko
こんにちは。
権力としての着物はもはや不要なのでしょうね。今は意味のある役割としての着物は残っていますけども。宮中の装束や神官、寺院のお召し物やなんか。
ところで、皇后様はお着物をお召しになりますが、以前「天皇陛下もぜひお着物を着ていただきたい」という投書が新聞にのっていました。
ハタと思いました。私なりに思ったことは、今の紋付袴は武家装束からきたものだから、皇族方には下級のものですし、これからも紋付袴は決してお召しになることはないだろうなあ~、と。
でも女性の着物は、明治期にでしょうか、上から下まで身分に関係なく融合してしまいましたから、それはある意味、革新的なことだったろうと思います。
そう思うと、着物の移り変わりって面白いな~って思います。
オンブルパルフェ
http://ameblo.jp/herend-tarte/
コメントも含め、すごーく勉強になってしまいました。先日、日比谷界隈をタクシーにのって思ったのは、(昔の石造りのビルを見て)財閥や権力がなければ、こんな彫刻の入った建物も生まれなかっただろうなということでした。今日の絵美さんみたいに思っていました。
神奈川絵美
運動会の足袋さんへ
こんにちは
そうなんですか! よく風水?で「黄色の財布は金運を呼ぶ」なんてのがあるので、良いイメージの色かと思っていました…。
ヨーロッパでも、近代くらいまではネガティブな色なんですよね…もっとも、北欧あたりでは「太陽」を象徴するとかで、尊重されていたようですが…。
運動会の足袋
中国語のスラング♪
ちょっと《エッチ》なことを表現するのに
日本では「ピンク色」を用いますが、
中国では「黄色」がその役割を担っています♪
(数年間みっちり学習したはずなのに、
 記憶に残っているのは、こんなことばっかりデス・・・。)
神奈川絵美
Medalogさんへ
こんにちは
おっしゃる通りですね。そして一定レベルの文明を持った人間の集団には、必ず権力という概念が生まれるのも事実。

現代では権力の象徴が、核兵器だったり軍隊だったり、かたや何やっているのかわからない人たちだったり(笑)、で、ショーケースに入れられるモノは少なそうですね。
Medalog
いま私たちが見ることができる、過去の美術品や建造物のほとんど全てが「権力」がなければ生まれることのなかったものかもしれませんね。

最近、寺院やお城を見て回るたびにつくづくそう思います。
当時の庶民の汗と涙があってこそ、これほど立派なものが出来上がったんだろうなあと思いながら見学すると、呑気に「きれいねえ」なんて言いながら見て回るのが申し訳ないような気がしますね。
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