銀座で開催中の「唯一無二之会」を後にした私は
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半蔵門の国立劇場小劇場へ。
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戦前、戦中、戦後と文楽を支えた名太夫、
八代目 竹本綱太夫さんは、
現在、切場語りでご活躍の、豊竹咲太夫さんのお父様。
-(歌舞伎の)十七代目 中村勘三郎さんが、昭和54年に
お父様の三代目 中村歌六さんの五十回忌を歌舞伎座でなさったのを見て、
自分もこういうことができる太夫になりたいなあ、とずっと思っていた-
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……と、咲太夫さんは口上で述べていらっしゃいました。
(プログラムにも記載あり)
今までに私が観た襲名披露は、ゆかりの技芸員さんがズラリ並んで
賑々しく口上を述べていく形式でしたが、
今回は、追善ということもあり、
舞台には咲太夫さんと、お弟子さんの豊竹咲甫太夫 改め 六代目 竹本織太夫さんの
お二方だけ。
竹本織太夫は八代目 竹本綱太夫の前名であり、
大名跡でありながら、20年以上も途絶えていたそうで
咲太夫さんの口上は、ときおり笑いを誘う軽妙さも
持ち合わせながら、どこかしみじみと、そしてじんわりと
喜びをかみしめるような風情でした。
名前を継いだ織太夫さんは、以前にも書きましたが
とても陽性で明快な、ぽーんぽーんと天井をわたっていくような
良いお声の持ち主。
現代の若い方にも親しみを持ってもらえそうな語りが私には好印象。
織太夫のお名前は、もしかしたら、今の時点ではまだ重いのかも
知れませんが(お若い方ですしね)、
これからきっと、文楽を引っ張り盛り立てていく存在になると
信じています。
さて、そのような記念すべき場に
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席は離れていたのですが、着物友三人で。
私…脇が着崩れていてお恥ずかしい
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帯周りコレクション
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そしてお太鼓
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私に伝芸の愉しさを教えてくださった
たくさんの先輩方の一人、Yさんも梅の帯で、
梅シスターズ。
もうお一方のYさんも、大人の落ち着きあるコーデで
帯周りとともに、品の好さが際立ちます。
演目の方は……
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摂州合邦辻 合邦住家の段。
中、切、後、とあるのですが、
この演目は切場は静かで、後の方が盛り上がります。
でも切場は、娘を案ずる父母の、それぞれの思いや心理的な駆け引きが
絶妙で、なるほど上手な太夫さんでないと表現が難しいのだろうなあ、と
感じ入りました。
後の場は今回
織太夫さんに燕三さん、そして中心人物である玉手御前を勘十郎さんが遣い、
これ以上の眼福、耳福はない、というほど素晴らしかったです。
特に玉手御前は、
気がふれたように義理の息子に恋こがれ→開き直ってふてぶてしくなり
→父に刺された後、実は…と、母としての慈愛に満ち溢れ
と、まったく別々の立ち居振る舞いを、勘十郎さんが見事に演じ分け、
それに織太夫さんの語りがきれいにのって、ぐいぐいと惹きこまれていきました。
義理の息子である俊徳丸には、浅香姫という許嫁がいて
こちらの遣い手さんも一所懸命であることはよくわかるのですが、
どうも、勘十郎さんの玉手御前の前では、影が薄くなってしまったような…
(素人の感想です。すみません)
まあこの場は、玉手御前の独壇場といっていいのでしょう。
私の好きな豊竹呂勢太夫さんは、今回の公演では第三部、
有名な「女殺油地獄」にご出演。
でも、2月の夜は寒い上に、この演目はどうも私、救いのなさがつらくて……。
ぜひ次回、拝見したいと思っています。