神奈川絵美の「えみごのみ」

150年前のイリュージョン

さて、裄の短い椿の小紋を着てお出かけした先は、
日本橋の三井記念美術館。

つい先日TV放映もあった、漆絵の巨匠、柴田是真(ぜしん)展だ。
着物割引で1200円→800円に。


蒔絵、日本画、そして漆絵とマルチな才能で、
江戸から明治にかけて活躍し、日本のみならず
ヨーロッパにもその名を知らしめた漆芸家・画家である。
職人気質で仕事は繊細、でも構図は大胆。
卓越した技であっと言わせる「だまし」の名人でもある。


例えばいかにも重そうな金属の皿も、
実は紙に変わり塗りを施したもの。
持ったとたん、あまりの軽さに客がびっくり、という仕掛け。
陶器のように見える茶入も、
近年X線により、竹であることが判明したそう。

重そうな板に描かれた梅…? と思いきや、
これも紙に何重にも漆が塗られ、細かく彫られ、
あたかも木(紫檀)のように見せかけたもの。
本物の紫檀なら3kgはあるが、この作品はたった450gしかない。


私は少し前まで日本美術にはあまり興味が持てなかった。
ひどい話だがどれも同じように見えたりしたものだ。
でも、時代はさまざまなれど円山応挙や富本憲吉、
そしてこの柴田是真を知って、がぜん日本美術・工芸が
魅力的に感じられるようになった。


日本画も実に洒脱。


是真が名声をほぼ確立した1860年代は
西洋美術史では印象派が台頭し始めた時期にあたる。
印象派も当時は革新的な芸術運動だったろうが、
どうだろう、是真ほどのモダニズムがあったかどうか。
(これはあくまで主観です)
何しろすでにこのころ、屏風絵を描くのに、
別の紙に描いた蝶を切り取って貼りつけるという
コラージュみたいな技法を取り入れていたのだから。



これは正統派の、宝尽くしの箱。
オーソドックスな要素とはいえ、
一つひとつのフォルムや色、マチエールが
西洋の近代絵画を連想させる(ミロとか、晩年のカンディンスキーとか。
これも主観です)。
実は今、とあるモチーフを、将来帯にできたらなあと心の隅に
描いているのだが、
なかなかイメージが固まらなかった。
それが、この箱を見たとたん、「あっ、この感じ」と
ひらめくものを得たのだ。


150年前のイリュージョンに、今を生きる私がインスパイアされてしまった。




(同展示の詳細はコチラ。2月7日まで)

コメント一覧

神奈川絵美
光の違い?
ルリ子さん、こんにちは
おっしゃる通り、日本画ってディテールがすごいですよね。観察力にすぐれ、再現性が高くかつ想像力も豊か、みたいな…。

もちろん西洋絵画にも、ミレーとかターナーとかクールベとか、これでもかっていうほど描写にすぐれた作家、作品はたくさんありますが、やっぱり違いが出るのは日本と西欧での太陽の明るさや気候によるのでしょうかねぇ。
ルリ子
日本の美とウィット
http://linaruli.weblogs.jp/blog/
私も日本画や日本の美術がとても好きです。学校では西洋絵画や西洋の美術から入っていきましたが大人になり日本画を知り、その繊細さや意外なウィットがあり今ではそちらの方が興味がわきます。 昔の人の感性、観察力、色彩の自由さ、など今でもとても新鮮ですよね。
神奈川絵美
りらさんへ♪
こんにちは
お江戸気質とでもいうのでしょうかね、絵の方は風景画が多かったのですが、庶民的な趣がたくさん表現されていたように思いました。

帯のモチーフは、実は音楽関係なのですが、私には絵心がないのでまだイメージがぼんやりしたままです もし形になりそうでしたら、またブログにアップしますね
神奈川絵美
衣舞の袖さま★
こんにちは
なかなか見応えのある展示でしたので、お時間あればぜひ…!
確かに、是真には明治維新後、朝廷から仕事の依頼があっても「自分は今まで幕府のために創作していたから」と断った、というエピソードがあるので、反骨精神みたいなものはあったかも知れませんね。

文様の美っていいですよねー。この展示に限らず、見入ってしまうことがよくあります
りら
日本人のセンス
長い鎖国の時代を経ているというのに、一体何処からヒントが?というような面白い発想が色々ありますよねぇ。
日本人のセンスというのは、本当にすごいと思わされることが多いです。

ご自分のイメージを帯にって、良いですねぇ。
着物のお楽しみの上級編ですものねぇ。
出来上がりを見せていただくのを楽しみにしています!
衣舞の袖
・・・だったら
絵美 さま

こんばんは。
三井美術館、お出でになったのですね。興味大有りですが、未だ機会に恵まれずにいます。
柴田是真の自由奔放な発想、幕末の混乱期という時代背景も後押ししたのではないでしょうか。
和の文様を目にするとつい、帯だったら、きものだったらと、思い巡らせてしまいますね。特に宝尽くしのような・・・

神奈川絵美
ほがらかですよね
ゆかりーなさん、こんにちは
>漆を気が遠くなるほど塗り重ねて
梅の大作もかえるちゃんも、是真75歳の作品だそうです。体力も気力も、頭の柔らかさもすごい! と思いました。

このかえるちゃん、得意満面で可愛いですよね~。撥代わりの銀杏の葉っぱが何ともいえません。帯にしたら話題になりそうですね。
ゆかりーな
かえるちゃんがかわいい
「柴田是真」という名前すら知らなかい私ですが、絵美さんの驚きと感動はすごく伝わってきました。

漆を気が遠くなるほど塗り重ねていくうちに、なにか表現したいものが是真のなかに生まれてくるのでしょうかね?

わたしは、かえるちゃんに惹きつけられました。ちいさな蛙たちをまえに、得意げに琵琶をかき鳴らす蛙ちゃん

かわいい~~。そして、私も帯にしたら楽しいなぁ、と想像が膨らみました
神奈川絵美
粋ですよね
misalynさん、こんにちは
是真は徳川幕府の要請も受けていろいろつくっていたようですので、ひいてはお上も遊び心とか、粋というものがわかっていたのだろうな、と思ったりします。想像にすぎませんが、おおらかな時代の心意気が、芸術を育て後世に伝えたともいえるかも知れませんね
それに比べると、今の日本のメンタリティは…と思わなくもないですが、でもイグ・ノーベル賞の常連だったりもするので、遊びのスピリットはあるところにはあるのかも

帯はまだアイデアレベルで、形になるかどうかわからないのですが…しばらく温めてみたいと思います。

misalyn
昔の人の知恵とか遊び心には感心させられますね
まったく… 漆の「だまし」などは日本人のセンスとは思えません
(こちらも主観ではありますが、日本人にはこういったユーモアを感じないので)

ちょっと興味のそそられる展示です
来週行かれるかなぁ(笑)

150年前のイリュージョンにインスパされた帯
完成が楽しみです

神奈川絵美
sognoさんへ♪
こんにちは 是真っていかにも頑固一徹の職人って風貌なのですが(TVで写真が紹介されていました)、発想は実に茶目っ気があり、豊かだなあと思いました。
可愛い動物や鳥の日本画も、たくさんありましたよ。この展示、オススメです

新ブログ拝読しました~ 今後ともよろしくお願いいたします
sogno
http://riposo77.exblog.jp/
凡人の先入観をあざ笑うかの様な見事な
作品ですよね。私なんか絵美さんの説明読みながらじーーっと写真に見入ってしまいましたよ。
是真さん、遊び心をもっている方なんですね。
蛙の絵、帯にしたら面白いだろうなあ、
なんて想像してしまいました!
(桜子)
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