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 ♪♪♪ H.Tokuda

僕のギター 2

2017-03-09 20:21:08 | エッセイ(音楽)


 先日のFacebookでの会話。
 某ライブカフェで一緒に演奏したS氏のマンドリンが100万円以上の高級品だということが話題になっていたとき、彼のバンド仲間であるN氏が割り込んできた。
 N氏「S君のあのマンドリンは、通称『小判』と言うんですわ」
 S氏「それなら、あんたのギターは『真珠』やな」
 N氏「いや、俺のギターは『金棒』と呼んでほしい」

 お二人の風貌を知っている僕は思わず笑ってしまった。察しの良い方はすでにお判りだろうが、上記のやり取りは「猫に小判」「豚に真珠」「鬼に金棒」の喩えである。とっさにこういう会話で笑いを取れるのは、さすがに関西人。また息の合ったバンド仲間ならではのことだろう。

 さて、写真のこのギターは、僕が持っている中では最も高価なマーチンD42、通称「おつやさん」と言う。何年か前に、ある方のお通夜に行ったことがきっかけで買ったことから、そう呼んでいるのだ。
 お通夜は草津駅前のセレモニーホールで行われたのだが、駐車場がいっぱいで、僕は仕方なく近くの商業施設に車を停めた。せっかくだからギターの弦でも買おうと思って楽器店に入り、そこでこのギターに出会ってしまったのだった。
 表板の木目が細かくて、とてもきれいだ。スノーフレイクとキャッツアイのインレイ細工も素敵。D42の実物を見たのは初めてだった。隣に置いてあった上位機種のD45よりも、僕はこちらのほうに目を引かれた。
「よろしければ、試奏されますか?」と店員が声を掛けてきたが、そのとき僕はダブルの略礼服に真っ黒のネクタイ、どう考えてもギターを弾くような恰好ではない。丁重に断って弦だけ買って店を出た。
 しかし、寝るような時間になっても、どうもあのギターのことが気になって仕方がない。ああ、どんな音なのか弾いてみたい。このままでは夢にまで出てきそうな勢いだ。どうやら僕は、あのギターに一目惚れしてしまったようだ。

 翌日、僕は再び楽器店を訪れた。店員は待ってましたとばかりにガラスの陳列棚からD42を取り出した。
 気持ちよく伸びる低音の響き。中高音は倍音が豊富で、シャラシャラときらびやかな音。弦高も低くて、とても弾きやすい。ああ、なんという心地よさ。僕はすっかりこのギターに魅了されてしまった。考えてみれば、一目惚れなんて初めての経験だった。僕は女性に恋するのにもけっこう時間がかかるのだ。
 その後何度か店へ足を運び、値切りに値切り倒した後に、清水の舞台からダイビングするつもりでこのギターを買うことに決めた。手持ちのヘソクリをすべて注ぎ込み、足りない分は毎月1万円のローンを組んだ。それを支払うために、大好きなタバコを一定期間やめることにした。その頃は人前で演奏する機会なんてなかったのだが、一生の宝として、このギターを手元に置いておきたいと考えたのだった。

 こうして僕の部屋へやってきた「おつやさん」だが、その後、このギターをきっかけとして僕の生活に大きな転機が訪れることになる。
 長いあいだ会ってなかった旧友のZENさんへの年賀状に「マーチンのギターを買ったよ」と書いたところ、彼から電話が掛かってきて、ギターを見せて欲しいと言う。数日後、彼が僕の家へやってきて、何十年ぶりかに一緒にギターを弾き、その勢いで僕は彼のバンドHITOMAZzに参加することになった。その延長で「おとぎ猫」の活動を始め、今では月に2~3回、どこかのライブカフェなどで演奏するようになった
 おつやさんが僕の部屋に来なかったら、ZENさんと再会する機会もなかっただろうし、人前で演奏しようなんて思いもしなかっただろう。元はと言えば、たまたま上司のお母さんのお通夜に参列したことで出会ったギター、まさに一期一会のめぐり逢いといったところか。

 ZENさんはこのギターにピックアップを取り付けてライブで使うことを勧めるが、僕はどうもその美しいボディーに手を加える気になれず、ほぼ家庭での練習専用となっている。まあ僕の演奏レベルからすれば、豚に小判、いや猫に真珠?と言ったところだが、「宝の持ち腐れ」ということにならないよう、たまにはライブに持ち出し、マイク録りで生音を楽しんでいきたいと思っている。





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