若手のM.C.教授はなかなか面白い手術をしている。
*** debranch and TEVAR for TAA ***
他の施設でも始まっているが、胸部大動脈瘤のステントグラフト手術だ。
通常、弓部大動脈瘤の手術(人工血管置換術)は、開胸して人工心肺を取り付け、全身を25度以下の低体温にして行う。高度な技術が必要とされ、6時間を超える侵襲的な手術となる。最近の成績は改善したとはいえ、脳梗塞などの重篤な合併症が数%程度生じる可能性がある。デブランチ手術は、低侵襲化により合併症の軽減を目指し、この問題を解決する一つの方法かもしれないと思う。
デブランチ手術とは:
弓部大動脈瘤をステントグラフトで治療できるようにする処理がデブランチ手術。簡単にいうと従来の大手術を比較的低侵襲の2つの手術に小分けする感じ。
デブランチ手術の方法:
まずは皮切上縁は左へ伸ばし、上部胸骨部分切開とする。第二肋間までで十分な視野が得られる。左頸動脈と鎖骨下動脈を腕頭動脈に移植する。人工心肺は不要なので比較的簡単な手術だ。この手術でステングラフトを留置する十分なアンカー部分を設けられる。
後日(もしくはその場で)、ステントグラフトを大腿動脈から挿入して、弓部に移植する。
ステントグラフト手術は人工心肺を使用せず、開胸も必要ない。一緒に手術に参加して本当に低侵襲だと思った。通常の方法だと吻合後に出血すれば結構大変で、輸血準備は必要不可欠であるが、それと比較すると大違いである。もちろんこの方法が万能というわけではないが、体力の衰えたご高齢の方にはよい方法だと思う。
おそらく日本では信頼性の高い第二世代のステントグラフト(TEVAR)がまだ認可されていないのかもしれない。EU版の取説を読んだ。多数の言語で説明されているが、中国語はあっても日本語がないからそう思えた。日本では規制緩和や許認可がまだ進んでいないのかもしれない。
日本は世界的に見ても、弓部大動脈瘤の手術成績が良好な国である。さらにこの技術が加わればと思う。
低侵襲であり、合併症の軽減により社会負担の削減になるかもしれない。
【追記】2014年現在:日本でも相当数のデブランチ手術が施行されています。
日本でのデブランチ手術の主流は上記方法とはやや異なり、非解剖学的な血行再建(弓部の分枝移植)を用います。
ステントグラフト挿入に先立ち、たとえば腋窩動脈-腋窩動脈バイパスを施行したり、またはそれに左総頸動脈バイパスを追加します。それにより弓部分枝2本(左鎖骨下動脈、左総頸動脈)を実質的に移植したことになります。
ウィーンでの方法(縦隔内の解剖学的再建)と比べて、日本で主流方法(非解剖学的血行再建)の利点は胸骨切開(いわるゆ開胸)が不要なことです。専門医的には乳糜漏や反回神経障害のリスクがないこと、つまり、より低侵襲であることです。
欠点を挙げるならば小口径の人工血管が必要なこと、人工血管によるバイパス長が比較的長く、従い閉塞予防のため抗血小板薬の内服が必要なことかと思います。専門医的には胸骨前面の皮下に切除できないグラフトが横断する将来的なリスクも考慮するべきかもしれません。
いずれの方法でも、従来の手術が困難な方にはデブランチ手術が解決策になる可能性があります。
ウィーンでお世話になった先生方(毎朝のカンファレンス風景)
*** debranch and TEVAR for TAA ***
他の施設でも始まっているが、胸部大動脈瘤のステントグラフト手術だ。
通常、弓部大動脈瘤の手術(人工血管置換術)は、開胸して人工心肺を取り付け、全身を25度以下の低体温にして行う。高度な技術が必要とされ、6時間を超える侵襲的な手術となる。最近の成績は改善したとはいえ、脳梗塞などの重篤な合併症が数%程度生じる可能性がある。デブランチ手術は、低侵襲化により合併症の軽減を目指し、この問題を解決する一つの方法かもしれないと思う。
デブランチ手術とは:
弓部大動脈瘤をステントグラフトで治療できるようにする処理がデブランチ手術。簡単にいうと従来の大手術を比較的低侵襲の2つの手術に小分けする感じ。
デブランチ手術の方法:
まずは皮切上縁は左へ伸ばし、上部胸骨部分切開とする。第二肋間までで十分な視野が得られる。左頸動脈と鎖骨下動脈を腕頭動脈に移植する。人工心肺は不要なので比較的簡単な手術だ。この手術でステングラフトを留置する十分なアンカー部分を設けられる。
後日(もしくはその場で)、ステントグラフトを大腿動脈から挿入して、弓部に移植する。
ステントグラフト手術は人工心肺を使用せず、開胸も必要ない。一緒に手術に参加して本当に低侵襲だと思った。通常の方法だと吻合後に出血すれば結構大変で、輸血準備は必要不可欠であるが、それと比較すると大違いである。もちろんこの方法が万能というわけではないが、体力の衰えたご高齢の方にはよい方法だと思う。
おそらく日本では信頼性の高い第二世代のステントグラフト(TEVAR)がまだ認可されていないのかもしれない。EU版の取説を読んだ。多数の言語で説明されているが、中国語はあっても日本語がないからそう思えた。日本では規制緩和や許認可がまだ進んでいないのかもしれない。
日本は世界的に見ても、弓部大動脈瘤の手術成績が良好な国である。さらにこの技術が加わればと思う。
低侵襲であり、合併症の軽減により社会負担の削減になるかもしれない。
【追記】2014年現在:日本でも相当数のデブランチ手術が施行されています。
日本でのデブランチ手術の主流は上記方法とはやや異なり、非解剖学的な血行再建(弓部の分枝移植)を用います。
ステントグラフト挿入に先立ち、たとえば腋窩動脈-腋窩動脈バイパスを施行したり、またはそれに左総頸動脈バイパスを追加します。それにより弓部分枝2本(左鎖骨下動脈、左総頸動脈)を実質的に移植したことになります。
ウィーンでの方法(縦隔内の解剖学的再建)と比べて、日本で主流方法(非解剖学的血行再建)の利点は胸骨切開(いわるゆ開胸)が不要なことです。専門医的には乳糜漏や反回神経障害のリスクがないこと、つまり、より低侵襲であることです。
欠点を挙げるならば小口径の人工血管が必要なこと、人工血管によるバイパス長が比較的長く、従い閉塞予防のため抗血小板薬の内服が必要なことかと思います。専門医的には胸骨前面の皮下に切除できないグラフトが横断する将来的なリスクも考慮するべきかもしれません。
いずれの方法でも、従来の手術が困難な方にはデブランチ手術が解決策になる可能性があります。
ウィーンでお世話になった先生方(毎朝のカンファレンス風景)