「菊」
つぶやいて、月を見る。
その周りに過去。
それを取り巻いて、未来。
そして、翔伯が立つ、現在。
高くそびえたつ一枚岩をくりぬいて「懐郷の塔」は造られていた。
そこから、見える風景は。
月。その周りに月の残影のように過去があり、それをまた取り巻く未来があり。それらは、夜半に見る夢のようにひどくあいまいで、それなのに真実めいていて。
「菊、」
月を呼ぶ。
もとより返事があるはずもなく。
月に口はない。月に心は無い。
あれは残影。
祈りの残影。
翔伯は、そうして、窓外の月を背にして塔を降りていく。
つぶやいて、月を見る。
その周りに過去。
それを取り巻いて、未来。
そして、翔伯が立つ、現在。
高くそびえたつ一枚岩をくりぬいて「懐郷の塔」は造られていた。
そこから、見える風景は。
月。その周りに月の残影のように過去があり、それをまた取り巻く未来があり。それらは、夜半に見る夢のようにひどくあいまいで、それなのに真実めいていて。
「菊、」
月を呼ぶ。
もとより返事があるはずもなく。
月に口はない。月に心は無い。
あれは残影。
祈りの残影。
翔伯は、そうして、窓外の月を背にして塔を降りていく。