「あの、こんにちは。私、道に迷ってしまって。……ここはどこですか?」
最初に会った人に聞いた。
針葉樹の森の中。静けさが音になって耳に届くような。
黒髪を頭の後ろで結い上げた中年の女は、やせた頬を微笑ませて、答えてくれた。薪に使う、木の枝を拾う手を止めて。
「……こんにちは。どこからいらしたの?」
私は、後ろを指差す。
深い緑の闇の、森の奥を。
「あっちの方からなのですけど」
「そう。森の奥からいらしたのね? ここは、懐郷の街」
「カイキョウノマチ?」
「ええ」
中年の女は、集めた薪を、右の手首に巻いていた麻ひもで結わえて、一抱えの束にした。
「街にご用なら、連れて行きましょうか? ……あら、それを、」
そっと静かに笑って、女は手を差し出した。
「持ちましょうか? 重そうだわ?」
私は、
赤ん坊の石像を抱えていた。
最初に会った人に聞いた。
針葉樹の森の中。静けさが音になって耳に届くような。
黒髪を頭の後ろで結い上げた中年の女は、やせた頬を微笑ませて、答えてくれた。薪に使う、木の枝を拾う手を止めて。
「……こんにちは。どこからいらしたの?」
私は、後ろを指差す。
深い緑の闇の、森の奥を。
「あっちの方からなのですけど」
「そう。森の奥からいらしたのね? ここは、懐郷の街」
「カイキョウノマチ?」
「ええ」
中年の女は、集めた薪を、右の手首に巻いていた麻ひもで結わえて、一抱えの束にした。
「街にご用なら、連れて行きましょうか? ……あら、それを、」
そっと静かに笑って、女は手を差し出した。
「持ちましょうか? 重そうだわ?」
私は、
赤ん坊の石像を抱えていた。