すぎな之助の工作室

すぎな之助(旧:歌帖楓月)が作品の更新お知らせやその他もろもろを書きます。

時に浮かぶ、月の残影2

2005-07-10 11:19:54 | こばなし。。
「あの、こんにちは。私、道に迷ってしまって。……ここはどこですか?」
 最初に会った人に聞いた。
 針葉樹の森の中。静けさが音になって耳に届くような。
 黒髪を頭の後ろで結い上げた中年の女は、やせた頬を微笑ませて、答えてくれた。薪に使う、木の枝を拾う手を止めて。
「……こんにちは。どこからいらしたの?」
 私は、後ろを指差す。
 深い緑の闇の、森の奥を。
「あっちの方からなのですけど」
「そう。森の奥からいらしたのね? ここは、懐郷の街」
「カイキョウノマチ?」
「ええ」
 中年の女は、集めた薪を、右の手首に巻いていた麻ひもで結わえて、一抱えの束にした。
「街にご用なら、連れて行きましょうか? ……あら、それを、」
 そっと静かに笑って、女は手を差し出した。
「持ちましょうか? 重そうだわ?」

 私は、
 赤ん坊の石像を抱えていた。 


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