昔、男ありけり。恨み言を言い合って、
鶏の卵を百個重ねても
想ってくれないオマエ想えぬ
と詠んだら、
朝霞消えずに残っていたとても
誰がアナタなんかのことを
また、男、
吹く風に去年の桜が散らずとも
信じ切れないオマエの心
また、女、返し、
行く水に数書くよりもはかなきは
想ってくれない人想うこと
また、男、
行く水と過ぎる齢と散る花と
待ってはくれぬオマエの心
あだくらべをしていた男と女の、忍び歩きしていた頃の話か。
伊勢物語 おもしろい訳 現代語訳 口語訳
鳥の子を十づつ十は重ぬとも思はぬひとをおもふものかは
朝露は消えのこりてもありぬべし誰かこの世を頼みはつべき
吹く風にこぞの桜は散らずともあな頼みがた人の心は
ゆく水に数かくよりもはかなきは思はぬ人を思ふなりけり
ゆく水と過ぐるよはひと散る花といづれ待ててふことを聞くらむ