晩春という映画では曾宮周吉56歳、曾宮紀子27歳となっている。曾宮教授役の笠智衆は当時44歳、紀子役の原節子は28歳だった。曾宮の妹役の杉村春子は当時40歳だが、こちらも一回り老けた年齢を好演していた。
映画の終盤で父娘の会話が印象的だ。
『お父さんも56だ。
お父さんの人生はもう終わりに近いんだよ。
それが人間生活の歴史の順序というものなんだよ。』
その56歳をとっくに過ぎてしまった現代人は、退職年齢でさえ65歳を超えようとしている。『人生はもう終わりに近いんだよ』という台詞は、今に直せば後期高齢者の75歳前後ではないだろうか。
小津映画の真骨頂は、大根役者とプロの役者の織り成す人間模様だと思う。つまり、不器用な生き様と上手な生き様をあっさりと描いているところに、観る者の警戒心を解きほぐしていつの間にか引き込まれてしまうのだ。