木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

《ローラ》

2013-10-27 12:55:22 | 日記


『ローラ』(1981年西ドイツ)

ファスビンダー監督によるメロドラマ。
メ、、、メロ、ドラマ?

これがまた、想像以上にメローなドラマかつメロドラマ。
中盤、眠気に襲われるし。
やたら長ったらしいシーンもあるし。
こりゃあ失敗作か?と思いきや。
あまりにも鮮やかな終結。
パタパタと一気に決着。
パラパラ漫画かよ?的にそれぞれの人生が動きだすさま。

そして、何もかも皮肉。
ヨーロッパ映画の描く皮肉、恐るべし。
立場や状況、人生がことごとく反転、逆転するっつー。
見渡す限りの皮肉、容赦なく転がる人生。
これを見せる為の映画だったのかぁ~。
すげえ。
やっぱ凄いわ、ファスビンダー。
とはいえ、眠いもんは眠いけどさ。


汚職や堕落を許さない堅物の男。
とある役所に着任したところ、新たな建築案が進行中。
超なーなーで、隙あらば欲を満たそうと蠢く連中。
もはや大人の事情どころじゃなく、虚偽申請、着服、賄賂と、、、
一部の上層部、豊かな者達がせっせと私腹を肥やす状態。
そんな彼等に、NOと言った生真面目な男が。
美しく清楚な女性と恋に落ちるが…


画面がピンク色がかってるのが、妙に楽しい。
ローラ役のバルバラ・スコヴァが抜群。
というかバルバラ・スコヴァを堪能する映画といっても過言ではないって。
フワフワの金髪がピンクな画面に映えること。
くっきり二子山な唇が、時にローズレッドだったりローズピンクだったり。
夜の女のセクシーな衣装と、昼間のお嬢様スタイル。
ドイツ版マリリン・モンローか?と見まがう着こなしっぷり。
しかも歌も上手い。
したたかさと、すねた感じ、浅薄さが見事なバランス。
ヒドい女なのに、あまりにも嫌味が無いため。
観客もついつい受け入れちゃう堕天使ぶり。


ラストでローラの娘に同じポーズをさせるあたり。
次の小悪魔の誕生かよ?
思わず背筋に、なにかが走ったわぃ。

信念、生き方。
自らのアイデンティティに関わることすらも、投げ打っちゃう。
ローラに夢中なオっさんの、シミジミとした幸せ宣言に──
個人的に敗北。

幸せってなに?


『ローラ』(1981年西ドイツ)
監督・脚本:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、脚本:ペア・フレーリッヒ、ペーター・メルテシャイマー
出演:バルバラ・スコヴァ、アルミン・ミューラー・スタール、マリオ・アドルフ

『冷血』『犯罪』『ブラッド・メリディアン』

2013-10-24 20:30:03 | 日記


「冷血」カポーティ、
「犯罪」フェルディナント・フォン・シーラッハ、
「ブラッド・メリディアン」コーマック・マッカーシー

モ~ン。
この三冊で、何か見出せるかと期待。

う~ん。
見出すとか甘かったわ。
むしろ陥った。。。
混乱と当惑に。
まんまとルツボに嵌った。

凶暴なのと、残虐なのは別もの。
残虐性とだらしなさは最悪の相性。
気まぐれに繰出される暴力的な残虐さは。。。
もう、ダメ。
耐えられんて。

「冷血」
1959年にアメリカの農村で起こった一家四人惨殺事件を描くノンフィクション・ノベル。

「犯罪」
弁護士である作者が実際に遭遇した事件の数々をヒントとして執筆したフィクション。

「ブラッド・メリディアン」
十九世紀半ば、アメリカ南西部とメキシコで行われたインディアン虐殺を、部分的に史実に基づき描く。


「冷血」
殺人罪で絞首刑となった二人の犯人、犠牲者、村の人々などの生活、性格などが丹念に描かれる。
情景描写や心理描写など、文学的に完成度の高い作品。
なので、暗雲たれこめる内容にも関わらず読み進めやすく読み応えあり。

一家が選ばれた経緯に愕然。
事件の成り行きにボーぜん。

最後の一歩を超えた理由が、相棒になめられないようにって?
この取り返しのつかない愚かしさ。
殺人を計画する事と、実行する事の間には確かにラインが。
でも、この場合なんか違うぞ。
縛られて抵抗出来ない人を撃つという行為の卑劣さが置いてきぼり。
殺すか殺さないかだけを問題にする若者ふたり。
お互いに後に引けなくなるお粗末さ。

だらしなさと悪知恵、無関心と弱さ、見栄と傲慢さと自意識過剰。
それぞれふたり分、悪い方向にミックスされ助長され辿り着いた先は絞首台。

暴力に日常的に接していると、暴力行為を自分と切り離し、俯瞰してみるようになる──。
実際に手を下したペリーは、育った環境に恵まれず、
劣等感と妬みに苛まれ、世界を憎みつつも自分を理解してもらいたいと渇望する日々。
たいていの若者は、思春期に似たような感覚に陥ると思うんだけど。。。
まるで処刑のような殺害方法が、
世間に対する復讐のようで、
暴力そのものの恐ろしさよりも、殺意の強さが恐ろしい。



「犯罪」
いつ犯罪に巻き込まれるかなんて分からない。
加害者なのか、被害者なのか?
─それが問題だ。
けどぉ~、それこそ誰にも分からない訳で…

短編のミステリーとなると、やはりネタ勝負になる為。
どーも、作家の性格の悪さが前面に押し出される気がする。
たいてい読んでて、そんなぁ~という思いをする事が多い。
その点、本書はバランスが良いので偏った印象は受けず。

で~も~。
文章が簡潔なせいもあると思うが、
登場人物に対する距離感が感じられるのが、どうも、、、
どの話もギュッと凝縮されてるのは分かるが。
(というか逆に長編にもなりそう。)
あまりにも無駄が無さ過ぎて、居心地が悪い。
ま、優等生的な息苦しさだけども。



「ブラッド・メリディアン」
んむ。
ページをめくれどもめくれども暗い。
充満する陰気な雰囲気に、読み進む気が失せ、いったん挫折。
ひたすら体温が、人肌が、恋しくなるも。
気を取り直して、再チャレンジ。
作者の落ち着いた筆の進め方が─
作家の冷静さが、恐ろしさを倍増させてるとしか思えん。。

そして。
判事と呼ばれる巨漢の男が、悪魔にしか見えん。
『D.N.A』でのマーロン・ブランド(ドクター・モロー役)の姿がちらつく。
さらにジャバ・ザ・ハットがサブリミナル効果で邪魔してくる。

‘頭皮狩り隊’が名前そのものズバリの凄惨さ。
徐々に、相手構わずの血みどろヴァイオレンスに。
行き当たりばったりの残虐行為、
敵も味方もあったもんじゃない野蛮さに
げんなり、げっそり。
読み終わったあとに、自分はやつれたんじゃないかという錯覚に陥る。
酷いけど、スゴい本。

あとがきには、ニーチェだの『白鯨』『闇の奥』だのが引き合いに出されてますが。
個人的にはエドガー・アラン・ポーとか『ファウスト』をピカレスク仕立てにした感じに思える。

自らの命を賭け、命をもてあそぶという究極の魔にとりつかれ、
他人を信用しない人物が、生き残ろうとすると、こうなるんか?

必要無い殺しはしない主義の主人公には、優しさよりも、生命に対する憐れみを感じる。

確かに戦争において、誰が死に誰が生き残るかなんて誰にも予想も約束も出来ない。
戦争は究極の賭けであり、勝ち負け、生き死には運命によって導かれる。
故に、戦争は神である─。
命を奪うか生き残るかの道を与えることになるのだから、、、
身も蓋も無いがな~。

繰り返される戦争に対して、人類に疑問を持つ必要もないってか。
学ばないんじゃなくて、学べないって?
だって、賭けだもの。
相手を出し抜く方法は学べても、回避する道なんて無い?
んな、殺生な~。

運命という大きなうねりの中で、魔が導く小さなうねりを目撃する羽目になる一冊。

『ロリータ』

2013-10-16 14:23:42 | 日記


「ロリータ」ナボコフ


あらゆる意味で騒がしいロリータ・カルチャー。
定着してたり、定着させちゃいけなかったり。
ま、色々ですけど。
とりあえず諸々は置いといて~。と。

けっこう分厚い書物。
いったい中で何が行われとるんか?
色々と想像。
一瞬、サド侯爵の姿(というかジェフリー・ラッシュ)が脳裏をかすめる。

しかして。
フツーに楽しめる逃亡劇。
ロードムービー的な部分と、復讐譚。
で、中年オヤジの熱烈愛。
たまたま相手が少女だったのが、運のツキ。
人はそれを、変態とよぶ─。

ヘンタイには違いないが、むしろ滑稽さが強い。
ロリータを愛でて、悶々とするさま。
恋におちたオヤジの心高ぶる姿。
白いソックスに興奮し過ぎやろ。
こまごまとしたロリータ賛歌が、可笑しい。
そこかよ!と思わずツッコミいれつつ。

ひとりで勝手に盛り上がってる中年オヤジ。
不器用なはずのオッさんの、悪巧みが激しいのな。
偶然が重なり、もはや止めるものがなくなったため。
オヤジ暴走。
で、犯罪の領域に突入。
やってることは、卑猥ですけど。
描写に猥褻さはなし。
ちなみに、ロリータもそこそこのバッド・ガール。

そんなこんなで、ふたりの逃亡劇が始まるわけですけど。
結局、オヤジの逃避行であって、ロリータに選択肢がない。
保護するはずの人が、略奪してる現実。
その後、“ロリータの可能性を奪った”とオッさん自ら反省してますけど。
もの凄い的確な反省ぶりにも関わらず、今さら遅いっすよぉ。

始めから終わりまで事件。
ミステリ分野に片脚つっこんでる偏愛小説。
編集者に、“こんな変態の告白文読めるか!”とさんざんつき返されたという本書。
たしかに。
中年オヤジの熱烈モンモンぶりにうんざりする人は多かろう。

しかし。
もはや少女ではなくなったロリータとの再会。
それでも、“わたしのロリータ”であり。
愛情ほとばしるオッさんの様子が、泣ける。
むしろ恋愛小説か?

ナボコフの文章力と、詩人魂によって紡がれる。
一方的な愛の物語。


全ての変態よ、詩人たれ!
変態→ポエマー化計画を推奨したくなる一冊。

「ロリータ」ナボコフ

『妻を帽子とまちがえた男』

2013-10-04 12:47:12 | 日記


「妻を帽子とまちがえた男」オリヴァー・サックス


脳神経科医のサックス博士が綴る、
不思議な症状、それぞれの人生。
患者に穏やかに寄り添う博士の実録もの。


あららぁ。

感想&結論はひとつ──
“何でも起こりうる”
ある意味、ため息もの。


妻と帽子は間違えないよね、ふつう。
状況が見えん、想像できん。。。

眼で見る→見たものを判断するという一連の反応が上手くいかなくなり。
人の顔が把握できなかったり、靴と自分の足の区別がつかなかったり。
べつに視力に問題がある訳ではないという不思議。
見ているものを認識するには、記憶が大事なんやね。
部屋中見回して、いかに多くのものを一度に判断してることか。
一瞬で記憶に照らし合わせて、理解する機能。
おお、人間てスゴいな。


そのほかには。
自分の身体を認識できない症状。
ベッドで寝てたら、知らない人の足がぁ~!って
もはやホラー映画以外の何ものでもないがな。
その足を放り投げたら、自分もベッドから落ちた。。。
え?自分の足だったの?
って、衝撃の事実。
やっぱり、ホラーやないか。


記憶が止まってしまい、新しいことは覚えられない悲劇。
兄に会っても。
こんな歳とった奴知らない、兄は若いはずだ!
悲痛なエピソードの数々。

記憶喪失。
記憶は数秒も続かない。
──が、しゃべりまくる陽気な男。
個を持たない、よりどころがないという底なし状態。


頭の中から音楽が聴こえてくる。
ってもしかして、楽しかったりするんか?
→うっとうしいだけです。
本人曰く、「(その歌が)大嫌いになりました」

脳のある箇所を刺激すると、曲が聴こえてくる。
って何かの冗談かと思いきや、事実だとは。
しかも別に好きだった曲でもないときた。
脳みそって、どんだけ記憶しとんじゃー。
ご苦労さま、お世話さま。
脳みそ、さまさま。


突然、犬並みの臭覚に目覚めた男。
臭いをかぎながらだと、ニューヨークの街を迷わずに歩ける。
って、それ、なに自慢~?


IQは六十、計算は出来ない。
けど──。
落ちたマッチの数(3桁)は瞬時に分かるし、因数分解も得意。
なんせ、数字が見えるもんで。
二十桁の素数をやりとりする双子。

『レインマン』(1988年)にもマッチのシーンあったよーな。
最近では、『メランコリア』(2011年)のキルステン・ダンスト。
一瞬で数が分かるというよなシーンがあった気が。


説明のつかない様々な症状。
たとえ脳や、神経に障害があろうとも。
大切なのは心の質である──。

驚くべき人生の数々と、
博士の人柄が伝わってくる。
人間が人間について書いた本。


「妻を帽子とまちがえた男」オリヴァー・サックス