木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

《天使の分け前》

2013-07-11 20:09:10 | 日記


『天使の分け前』 (2012年)

キルト野郎が地味~に完全犯罪に挑む!
『エリックを探して』 (2009年)がA面だとしたら、
本作はB面といったところ。
ってiTunes世代には通じんな、この表現。

冒頭の駅のホームでのシーン。
まさか、こいつが主要キャラ?
ごっつイケてないんすけど?

続く裁判所でのシーン。
余りにもリアルなショボさに、まさか主役級の人達だと思わず。
危うく見過ごすとこ。

さすがケン・ローチ監督。
超自然体な庶民(この場合は‘恵み多からず派なひとびと’)の姿に愕然。


軽犯罪で社会奉仕を命じられた、なんとも垢抜けない面々。
指導員のおっさんの趣味がウイスキーだったもんで。
蒸溜所ツアーに連れて行ってもらう。
なんと、メンバーの一人、ロビーのテイスティングの才能が開花。
人生の決断を迫られていたロビーは俄然やる気を出し始め─

家族ぐるみの暴力の連鎖から逃れるため。
未来の無い地元から彼女と子供を守るため。
一発逆転の大勝負…とゆーか大泥棒を企てる。
超頼りない仲間を引き連れ、はるばる樽を目指す。
えぇ、キルトはいて!徒歩!と、バスで!


どこまでもひそかに、ジミに、実行される犯罪。
華麗にぶら下がったり、カッチョいいメカも無し。
ハリウッド作品と違うからな。
ワザワザ誰も盛り上げてくれんのさ。

とは言え、それなりにハラハラする事態に。
これがまた、上手いこと最後の逆転に結びつくという無駄の無さ。


目的意識の無い生き方を責めるでもなく。
世の中が悪い(決して良いとは言えたもんじゃないけども)と断罪するでもなく。
学べる人と学べない人、時間がかかる人、それぞれ。
ぬけてるからって、自分を理解してない訳じゃないってこと。
パブで飲んじゃおうぜ!の一言に、
こいつらなんも学んどらんな!と思いつつ、なんとなく嬉しくなる今日このごろ。
それぞれ、生きろ。
それなりに生きろ。
って、結局応援しちまってるしな。


被害者と加害者が面会するシーンは秀逸。
ロビー役のポール・ブラニガンの瞳の美しさと併せて、
胸に迫るものあり。
相当辛いが、意義深い。
なんかこのシーンだけでも、観た甲斐があったような気がする。
気のせいか?

あ、そうそう。
一箇所、気持ちわる~い吐き気をもよおすシーンあり。
これ、カンベンな。
ご免こうむる。


やっと冷めかかった‘プロクレイマーズ・500マイルズ熱’が、思いっきしぶり返しました。
スコットランドが舞台だし、挿入歌に使われるのは驚かんが。
映画館でガンガンかかってた為、落ち着きを失う。
帰宅後、さっそくリピート再生。。。


『天使の分け前』 (2012年)
監督:ケン・ローチ、脚本:ポール・ラヴァーティ
出演:ポール・ブラニガン、ジョン・ヘンショウ、ガリー・メイトランド、ウィリアム・ルアン、ジャスミン・リギンズ、
ロジャー・アラム、シヴォーン・ライリー、チャーリー・マクリーン

『私が、生きる肌』(蜘蛛の微笑)

2013-07-10 12:45:46 | 日記


「私が、生きる肌」(蜘蛛の微笑)ティエリー・ジョンケ

映画は公開当時に鑑賞済み。
だもんで、ネタバレ状態で読む事に。
この本の薄さ!でネタバレ後に読むのもどーかと思ったが。

なんと面白い。
最大の謎を知っているにも関わらずエキサイト!
読ませるわ~。
過去と現在が入り乱れ、文体が変わるっちゅーワザ。
映画とは違う、復讐譚、クライムサスペンス。

映画では、バンデラスがモヤモヤしっぱなしだったのに対し。
原作の形成外科医は復讐は復讐として貫徹。
笑いっぱなしの悪魔状態。
故に、与えた罰に笑えなくなったとき─
もはや愛情が隠せなくなった時の様子が物を言う。

確かに映画では、どこまでが復讐じゃ?
顔をそっくりに整形する理由も謎。
そりゃ同じ顔してたら、可笑しな事になるだろ。
(復讐と実益(願望)を兼ねてみました~って事か?)
という訳で、バンデラスのモヤモヤには納得するものの。
なんだか判然としない部分も。

その点、原作は完璧。
犯罪があり、独特の復讐(というか犯罪)が行われ、複雑な愛情が描かれる。
ラストの大団円は、映画よりもスリリングに思えましたな。
映画版はチグハグなれど、ヴィジュアルとしてかなり楽しめますが。
アルモドバル監督作が苦手~って人には、お勧めできんな、やっぱり。
『オール・アバウト・マイ・マザー』(1998)か、『ボルベール<帰郷>』(2006)ぐらいにしとこ。

俄然、興味が出てきたティエリー・ジョンケ。
他に翻訳が無いって?
がっかりにもほどがあるわぃ。

『白鯨』

2013-07-01 13:28:52 | 日記


「白鯨」メルヴィル

しょっぱなの鯨に関する抜粋で、すでに発狂寸前に追い込まれる読書体験。
読もうとする努力を、モーレツに必要とする本。

発売当時、売れなかったというのも納得。
鯨に関する知識を総動員するも、
勘違いだったり、古い知識だったり、こじつけ解釈だったりが混入。
なんのこっちゃ?な本文と訳注を併せて読み進むと、何が何やら。
カオ~ス!!

そもそも、船に関する基本的な用語に馴染みがないという致命的なハンデ。
言葉から映像を想像するのが苦しい。
船ったって、ブラックパール号ぐらいしか思いだせんぞ。
お粗末さまな知識で浮かび上がったボンヤリとした船の姿に、
メルヴィルの繰出す有り余る詳細説明。

更に神話やら宗教的、哲学的な記述の多さ。
もちろん、ついていけません。
柱の上で1年ぐらいは考えにふけらないとダメでしょうねぇ。
瞑想者メルヴィルには、追いつけません。

物語部分(宿やら乗組員の話)はさすがに面白いが、
気が付いたら、また説明やら解説に戻っているという─
ああ、無常。。。

メルヴィルの飴とムチぶりに翻弄されるがまま。
鯨=自然に振り回される乗組員状態。

詩的な散文にポエマーぶりを発揮するかと思いきや、
独白やらがチラホラと現れ。
ん?お芝居?戯曲かよ?

メルヴィル氏の知識と思索とテクニックを詰め込んだ船?本?
やっぱ船か?に、船酔い必至。

そして。
エイハブ船長、なかなか出てこないのな。
文学史上に燦然と輝く登場人物。
上手いこと小出しにされ、じらされるなぁ。。。
白鯨に片脚をもがれて、復讐心に燃えるのは分かる。
ただ、片脚を失ったからなのか、化け物のような白い鯨だったからなのか、
鯨に悪意を感じたからなのか、迷うところ。
ま、結局全部ひっくるめてなんでしょーけど。
憎しみを助長するのは、あっという間ですけども、
何が発端というか、一番の原因は何かは興味あるところ。

クライマックスの対決も引っ張るだけ引っ張られ─。
というか。
残り少ないページ数に、
どう盛り上げるつもりじゃ?と、か~な~り不安になりつつ読む。
って終わっちゃったよ。
さんざ説明しておいて、あれだけ色々つき合わせておいて…
手早い終わらせぶり、手短な文章に愕然。
飴とムチの行き着く先は、酢昆布でしたかぁ~。
不思議な甘みと酸っぱさで読了。。。

つーか、ストーリー部分だけ残したら、
確実に中篇小説になる本作。
心底腹立たしい説明部分を削りたい誘惑にかられるも。
明らかに、このクドクド説明文が無いと、成り立たない。
これだけは理解出来ました。

鯨に魅せられ、執着し、果てる。
愛と憎しみはひとつ、というギリシャ悲劇そのまま。
復讐というか、征服欲だな。これって。。。