木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

『マクナイーマ つかみどころのない英雄』

2014-02-15 15:42:28 | 日記


「マクナイーマ つかみどころのない英雄」マリオ・ヂ・アンドラーヂ


映画は訳わからなんだが。
この原作…
予想を遥かに超える飛ばしっぷり。

奔放な想像力、とどまるところ知らず。
そして、マネしたくなるごっつ楽しい訳文。

ラテンアメリカ文学の威力、恐るべし。


ジャングルの奥地で生まれた醜い英雄マクナイーマ。
口癖は「あぁ!めんどくさ!……」
超ものぐさ、ひたすら女好き、トラブルメーカー。
せめて、イケメンにしてくれ。と願わずにいられない設定ですが。
英雄を甘くみちゃいけません。
占い師から、‘賢い’というお墨付きをもらっとります。
が、性格が悪いとしか思えない思考回路。
そんでもって、行動が褒められたもんじゃないんすけど?
それでも何故か英雄扱い。


大まかな展開としては、
いたずら好きな英雄が、魔法でいきなり大人になり。
森の母神さまシーを超強引に妻にするも。
息子と妻を失い、絶望しながら森をさまよう。
蛇女との騒動で、妻の形見‘ムイラキタン(お守り)’を失くしてしまう。
巡り巡って、サンパウロの商人がお守りを持っていることが判明。
ムイラキタン奪還の為、英雄は兄弟三人で都会へと向かう。
都市生活でのハチャメチャぶり、商人との対決。
そして、懐かしい故郷へと帰ってゆく。


土着の生き物達や、植物の名前がふんだんに盛り込まれ。
蟻やらノミに名前がある上に、会話出来るというフレンドリーさ。
星座や月の物語に行き着くファンタジックさ。
人食い巨人や、悪魔のエシューが登場するダークさ。
暇さえあれば、じゃれあう奔放なエロさ。
不条理観漂う、予想出来ない展開に驚きの連続。



“マクナイーマの泣き叫ぶ声があまりにも大きかったので、
長い夜は短くなり、びっくりした鳥たちは地面に落ちて石になってしまいました。”


森の守り神クルピーラに足の肉をわけてもらう。
え?アンパンマン?な自己犠牲的な親切。
でも、気が付いたら、追いかけられてたり。

“「おれの足の肉!おれの足の肉!」
英雄のおなかのなかで肉は答えます。
「どうした?」”

って、肉が答えるなよ。
う~ん。なかなかマネ出来ん作戦やなぁ。


偶然出くわしたおばあさんに、悪行(いたずら)を告白。
その自慢げな悪童ぶりが眼にあまり、
毒汁(魔法)をかけられて大人になる。

“でも、濡れなかったあたまは永遠におろかなまま、
顔はみにくい坊やの顔のままになったのです。”

デビュー名、アグリー・ベイビーフェイスね。



生まれた息子に、マクナイーマが毎日言い聞かせる言葉。
「息子よ、さっさと大きくなってサンパウロに金をたくさん稼ぎに行くんだぞ」

……。
英雄~。その願望、リアル過ぎー。



サンパウロ目指して出発する際に。
な~ぜ~か、マラパター島のハシラサボテンの上に良識を置いていく英雄。
…っつうか、良識持ってた事実が衝撃的。

道中、魔法がかかった水で全身を洗ったマクナイーマ。
肌は白く、髪は金髪に、瞳は青くなる。
こらこら、変身しすぎ!


持参したカカオの粒!をお金に換え、都市生活を始める三兄弟。
近代化(機械化)された大都会。
そして、都会生活初日に、女を買う英雄に驚愕…
しかも、病気とかうつされてるし。。。
とほほ。。。

このまま都会に飲み込まれるのか?と思いきや。
ほどほどに堕落。
もともと、怠惰なもんで、人間的な成長とか期待せんといて。


サンパウロの大金持ちであるペルーの商人が、人食い巨人って…
非常事態にも、ほどがあるわぃ。


マクナイーマがうっかり死亡してしまう度に、
まじない師の兄が、再生?したり。
女装して巨人を騙したり、悪魔に仕返しを頼んだり。
太陽の女神ヴェイに女遊びを禁止されたり。
アマゾンの淑女がたに、金の無心ならぬカカオの無心の手紙をしたためたり。
(この美文調で綴られた手紙が、文明に対する皮肉たっぷりで笑える。)
昔々、自動車はピューマだった説を披露したり。
汚いことについて、大ミミズと小一時間話し込んだり。
がっかりしたせいで、兄さん達の背が五メートルになってしまったり。


都会で初めて機械という存在を知った英雄。

“キカイは人間を殺しますが、そのキカイを操っているのは人間なのです……。
神秘もなければ意志もなく、疲れもしないキカイは、
それ自体では不幸の原因を説明することのできないもので、
その主は神秘も力もないマンヂオッカの子どもたちだということを確かめて、
びっくりしました。”

キカイなるものに対して真剣に検討した結果。
‘キカイは人間で、人間はキカイなんだ’という閃きを得た英雄。
兄を電話機に変えたり、なんでもかんでもキカイ扱い。


う~ん。驚異的な変身率の高さ。
そして、追いかけられる確率がハンパない。
原因も逃げ方も、とてつもない。

登場キャラのほとんどが、いじわる。
が、英雄自身が意地悪で嘘つきという…根性の悪さ。
全編に散りばめられた、滑稽でさえある残酷さ。

原始的と言うべきか、神秘的と言うべきか?

自然に対する郷愁に満ちた一冊。
滅びゆくものに捧げられた物語。

「マクナイーマ つかみどころのない英雄」マリオ・ヂ・アンドラーヂ

《アメリカン・ハッスル》

2014-02-10 00:20:12 | 日記


『アメリカン・ハッスル』(2013年アメリカ)

成り上がり人生を賭けて、熱戦が繰り広げられる騙し合い。
諸事情により、あっちでもこっちでも醜い争いが勃発。
スピーディな展開でおくるノンストップ人生ゲーム


Wワークで詐欺稼業を営むアーヴィング。
運命的な出会いをしたシドニーとグルになり業績もラヴライフも絶好調。
しかし、FBIにしてやられた二人は、仕方なく捜査に協力するはめに。
詐欺師を逮捕する為に始めた囮捜査は、政治家やマフィアを巻き込む大嵐に。
ヤバいことに、なりました──


妻に振り回され、愛人には詰め寄られ懊悩。
愛する息子と離れたくない為、決断できないアーヴィング。
更にFBIからのプレッシャーが追い討ちをかける。
挙句にマフィア登場で、絶体絶命。
自分が蒔いた種とはいえ、非常事態。


家庭に帰っていく彼に、毎度寂しい思いをさせられ。
嫉妬と悔しさで悶々とするシドニー。
天性の演技力で、相手構わずカモる逞しさ。
その計算高さから、ちゃっかり保険はかけておくが。
本当に欲しいものが手に入るかどうか、怪しい雲行き。


悪い奴らには問答無用、ついでに邪魔する奴(上司)にも問答無用。
ってそれ、逆パワハラ?な熱血捜査官リッチー。
しかも、人の話聞かない症候群。ってタチ悪いがな。
超強引に押しまくる作戦(捜査)に、周り中うんざりさせつつ。
なにか大事な事を見落としてる感漂わせながら、大暴走。


引きこもりがちな、ぐーたら妻ロザリン。
夫の弱みを上手く利用しつつも、限界を感じる今日このごろ。
うっかり屋なのか、ただの家電オンチなのか不明。
危険感知能力、ほぼゼロ。
予想不可能な行動力で荒れまくる台風の眼。


地元の活性化に尽くそうと張り切り、危ない橋を渡る市長。
部下の無謀さに歯止めをかけようとするリッチーのボス。
囮捜査にノリノリな、目立ちたがり屋の、リッチーのボスのボス。


こいつら、大丈夫なのか?
って、やっぱり大丈夫じゃなかった諸々が丁寧に描かれてます。


進行形の捜査+犯罪もさることながら。
何よりも、特筆すべきは、
女優陣の衣装の犯罪的な薄さ。
ここは、クレタ島か?
胸元も太ももも、脚線美もあらわ。
そして。
70年代センス炸裂してる男優陣の髪型に。
直視していいのでしょうか?状態。
髪は有っても、無くても威力を発揮するらしい。
更に、役作りでブヨったお腹にも視線が泳ぐ~。
ホント、目のやり場に困る。
撮影現場でも、お互いに目のやり場に困ってたはず。


素晴らしき脚本の充実ぶり。
とにかく人物を描こうとする姿勢に共感。
その上、笑いまで盛り込む徹底ぶり。
監督が持つ独特のユーモア感覚。
ちょびっと過激で、ひねくれた真剣さ。

で、それを役者達が見事に表現。
真っ向から笑いをとろうとするような、
コメディアンが求められがちな大げさな演じ方ではなく。
面白いことを言ってるつもりじゃない感じ。
その人物が本気で言ってます感が、可笑しい。
笑っていいのか?なセリフも、おおいに笑うべし。
登場人物達の図太さ故に、笑うべし。


基本的には、熱演ですが。
ただの賞獲り演技合戦になりそーな所を、バランス良く演出。
絶妙の編集と、楽しいサントラ、大迫力のカツラ?が加わり。
無敵な出来ばえ。

キャットファイトシーンに、思わず。
取り合っている男のハゲでデブな事実を忘れそうに。
って、だから散々どこが魅力なのか描いてたやん。
思い出してー!
余裕のあるとこだっけ?包容力ってやつ?

その腹ボタモチなる禿頭男を取り合う美女ふたり図。
って確か日本画にもあった気が──
─無いです。


白でも、黒でもなく──グレー!宣言してますけど。
黒く塗りつぶしたくない部分があるって印象。

頭脳戦と心理戦が同時に楽しめる大人の映画。


『アメリカン・ハッスル』(2013年アメリカ)
監督・脚本:デヴィッド・O・ラッセル、脚本:エリック・ウォーレン・シンガー、撮影:リヌス・サンドグレン、
衣装デザイン:マイケル・ウィルキンソン、編集:アラン・ボームガーテン、ジェイ・キャシディ、クリスピン・ストラザーズ、
出演:クリスチャン・ベイル、ブラッドリー・クーパー、ジェレミー・レナー、エイミー・アダムス、ジェニファー・ローレンス、
ルイス・C・K、マイケル・ペーニャ、アレッサンドロ・ニヴォラ、エリザベス・ローム、ロバート・デ・ニーロ(クレジットなし)