木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

《ホーリー・モーターズ》

2014-01-25 23:23:05 | 日記


『ホーリー・モーターズ』 (2012年仏・独)

気ぃ抜いて観てたら、
冒頭から何が起こってんのか把握しそびれる。

で、気合を入れて姿勢を正すも。
思考も気持ちも右往左往。。。


夢の中で、秘密の扉を開けると。
そこでは、不思議な映画が上映されていた─。
変装道具でいっぱいのリムジン。
そこに乗り込んだ男は、依頼書通りのメイクと衣装で降り立つと。
与えられた役柄を演じ始めるのだった。
誰が何の為に依頼をしているのか─?


リムジンで移動する裕福な男の職業が‘演じること’なのか?
いわゆる観客に対してではなく、
その風景を完璧なものにする為に雇われて、その場に存在する。
現実の世界に更なるリアルさを与える役目を果たしてるんか?
となんとなく把握したところで。

特撮の現場。
って、これは商業としてのプロの仕事な訳だからぁ…
現実と媒体の境目なく働く役者?

で、メルド氏、登場─。
これがまたややこしさ倍増。
かつて一度演じた役を再び演じさせる…
『TOKYO!』(2008年仏・日・韓)でドニ・ラヴァンが演じたメルド氏。
『ホーリー・モーターズ』のドニ・ラヴァン演じる登場人物が、メルド氏を演じる。
パ~ニ~ック。
なに?なんなの?
知恵熱出るって。
これはきっと深~い理由や意味が有るはず!
って、
メルド氏の格好のまま重箱弁当つついとるやないですか!
その横に置いてあるのん、間違いなくみそ汁ですなぁ。
遊び心あり過ぎやろ。
前回、東京で大暴れした草食系メルド氏が、
日本食の弁当食べてる姿(さすがに鬘は外してるけど)とか、お茶目すぎるってば。


で、次々と演じられる死。
殺人。
演じる仕事をしている同業者たち。

世間に刺激を与える為に雇われているのでは?と勘ぐりだすも。
加害者も被害者もドニ・ラヴァンが演じてる人物なので、現実には不可能だし。
シナリオを逸脱したハプニングによって、流れが変わるのか?と思わず身構えたり。
どこからどこまでが、‘演じること’なのか解からなくなったり。
やたらとリアルな状況の為、本来の人格、私生活なのか?と戸惑ったり。

解かったよーな気がしかけたら、スルリと逃げる展開。
時々あるよね、こういう‘どじょう掬いムービー’
って無いから!そのカテゴリー!
まんべんなく困惑の波が押し寄せるサーフムービー!
ってそれ、使い方違うから!


確かなのは、登場人物たちが‘何重にも演じている’ことだけ。


まー、そりゃ、現実生活でも何かしらの役割を演じて生きてるもんですけど。
しかも、相手にこう思われたいから演じるという、相手が居るから演じる事が発生するのか。
自分はこうなりたいという思いから、演じるという状況がうまれるのか。
心理的、社会的に掘り下げるべき問題で、根は深い?
その事実を監督に突きつけられたんか─?

“演じること、それ自体の美しさの為にやっている─”

この、たった一行のセリフによって、
監督が何かを突きつけるつもりなんて無いらしい、と悟る。



そんでもって、この作品の特筆すべき点。
映画として、素晴らしいシーンがあるっつーこと。

まず、映画史を彷彿させるシーンの数々。

愉快なチンパン?猿の惑星のパロディか?
車+しゃべる=カーズ!ま、まさかのピクサーネタか?
エイリアンの濃厚ラブシーンにアバターも真っ青!あ、もともと青いわ。ごめん。ごめん。

と、茶化してんのか?疑惑が頭をもたげるも。
ゴダール哲学とフェリーニ趣味、監督自身の作品へのオマージュ。
子供の時に観た映画だったり、教科書に載ってた絵画だったり、ニュースで見た映像だったり。
何かしらの記憶によって導かれる新たなるイマジネーション。

CG撮影シーンの強烈さ。どうしていいか分からなくなる凄さ。
間奏曲のシーンの興奮。なんか知らんが、血流が良くなる充実の幕間。
ミュージカル・シーンでのゾクゾクする感じ。
カイリー・ミノーグがハンパなく素敵+歌が良い+カメラワークとの相乗効果で信じられないくらいすんばらしい場面。

映画に対する憧憬と愛情なくしては、無理なシーンたち。

インタビューでは、必ず誰かが‘映画についての映画ですか?’って聞いてたみたいですが。
それも頷けるし、聞きたくなるのもトーゼン。
質問される度に、監督が‘違います’って答えてるのも、よく解かりますけど。
認めちゃったら、その時点でこの映画が死んじゃうもんなぁ。
ムービーマジックが消えちゃうのよーん。
不思議な事に、映画を理解しようとした結果、映画の可能性を奪っちゃうという─。
観客泣かせの身悶え映画。

文化、技術が遺産であり、呪縛でもあるという人類独自の課題。
芸術の呪縛と解放、そして不安を描いてるのかもしらんが。


何よりも嫉妬すべきは、監督と役者の関係でしょうー。
監督からまる投げ?された脚本を見事に膨らませて人物に命を吹き込むドニ・ラヴァン。
監督から役者へのラブレターですな。
解明するのではなく、嫉妬するのが、この映画への賛辞にふさわしいように思える今日このごろ。

映画に身を任せたくなった時に観たい一本。


『ホーリー・モーターズ』 (2012年仏・独)
監督・脚本・出演:レオス・カラックス、撮影:カロリーヌ・シャンプティエ、イヴ・カペ、
セットデザイン:フロリアン・サンソン、編集:ネリー・ケティエ、
出演:ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス、カイリー・ミノーグ、
エリーズ・ロモー、ミシェル・ピッコリ

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。