『ホーリー・モーターズ』 (2012年仏・独)
気ぃ抜いて観てたら、
冒頭から何が起こってんのか把握しそびれる。
で、気合を入れて姿勢を正すも。
思考も気持ちも右往左往。。。
夢の中で、秘密の扉を開けると。
そこでは、不思議な映画が上映されていた─。
変装道具でいっぱいのリムジン。
そこに乗り込んだ男は、依頼書通りのメイクと衣装で降り立つと。
与えられた役柄を演じ始めるのだった。
誰が何の為に依頼をしているのか─?
リムジンで移動する裕福な男の職業が‘演じること’なのか?
いわゆる観客に対してではなく、
その風景を完璧なものにする為に雇われて、その場に存在する。
現実の世界に更なるリアルさを与える役目を果たしてるんか?
となんとなく把握したところで。
特撮の現場。
って、これは商業としてのプロの仕事な訳だからぁ…
現実と媒体の境目なく働く役者?
で、メルド氏、登場─。
これがまたややこしさ倍増。
かつて一度演じた役を再び演じさせる…
『TOKYO!』(2008年仏・日・韓)でドニ・ラヴァンが演じたメルド氏。
『ホーリー・モーターズ』のドニ・ラヴァン演じる登場人物が、メルド氏を演じる。
パ~ニ~ック。
なに?なんなの?
知恵熱出るって。
これはきっと深~い理由や意味が有るはず!
って、
メルド氏の格好のまま重箱弁当つついとるやないですか!
その横に置いてあるのん、間違いなくみそ汁ですなぁ。
遊び心あり過ぎやろ。
前回、東京で大暴れした草食系メルド氏が、
日本食の弁当食べてる姿(さすがに鬘は外してるけど)とか、お茶目すぎるってば。
で、次々と演じられる死。
殺人。
演じる仕事をしている同業者たち。
世間に刺激を与える為に雇われているのでは?と勘ぐりだすも。
加害者も被害者もドニ・ラヴァンが演じてる人物なので、現実には不可能だし。
シナリオを逸脱したハプニングによって、流れが変わるのか?と思わず身構えたり。
どこからどこまでが、‘演じること’なのか解からなくなったり。
やたらとリアルな状況の為、本来の人格、私生活なのか?と戸惑ったり。
解かったよーな気がしかけたら、スルリと逃げる展開。
時々あるよね、こういう‘どじょう掬いムービー’
って無いから!そのカテゴリー!
まんべんなく困惑の波が押し寄せるサーフムービー!
ってそれ、使い方違うから!
確かなのは、登場人物たちが‘何重にも演じている’ことだけ。
まー、そりゃ、現実生活でも何かしらの役割を演じて生きてるもんですけど。
しかも、相手にこう思われたいから演じるという、相手が居るから演じる事が発生するのか。
自分はこうなりたいという思いから、演じるという状況がうまれるのか。
心理的、社会的に掘り下げるべき問題で、根は深い?
その事実を監督に突きつけられたんか─?
“演じること、それ自体の美しさの為にやっている─”
この、たった一行のセリフによって、
監督が何かを突きつけるつもりなんて無いらしい、と悟る。
そんでもって、この作品の特筆すべき点。
映画として、素晴らしいシーンがあるっつーこと。
まず、映画史を彷彿させるシーンの数々。
愉快なチンパン?猿の惑星のパロディか?
車+しゃべる=カーズ!ま、まさかのピクサーネタか?
エイリアンの濃厚ラブシーンにアバターも真っ青!あ、もともと青いわ。ごめん。ごめん。
と、茶化してんのか?疑惑が頭をもたげるも。
ゴダール哲学とフェリーニ趣味、監督自身の作品へのオマージュ。
子供の時に観た映画だったり、教科書に載ってた絵画だったり、ニュースで見た映像だったり。
何かしらの記憶によって導かれる新たなるイマジネーション。
CG撮影シーンの強烈さ。どうしていいか分からなくなる凄さ。
間奏曲のシーンの興奮。なんか知らんが、血流が良くなる充実の幕間。
ミュージカル・シーンでのゾクゾクする感じ。
カイリー・ミノーグがハンパなく素敵+歌が良い+カメラワークとの相乗効果で信じられないくらいすんばらしい場面。
映画に対する憧憬と愛情なくしては、無理なシーンたち。
インタビューでは、必ず誰かが‘映画についての映画ですか?’って聞いてたみたいですが。
それも頷けるし、聞きたくなるのもトーゼン。
質問される度に、監督が‘違います’って答えてるのも、よく解かりますけど。
認めちゃったら、その時点でこの映画が死んじゃうもんなぁ。
ムービーマジックが消えちゃうのよーん。
不思議な事に、映画を理解しようとした結果、映画の可能性を奪っちゃうという─。
観客泣かせの身悶え映画。
文化、技術が遺産であり、呪縛でもあるという人類独自の課題。
芸術の呪縛と解放、そして不安を描いてるのかもしらんが。
何よりも嫉妬すべきは、監督と役者の関係でしょうー。
監督からまる投げ?された脚本を見事に膨らませて人物に命を吹き込むドニ・ラヴァン。
監督から役者へのラブレターですな。
解明するのではなく、嫉妬するのが、この映画への賛辞にふさわしいように思える今日このごろ。
映画に身を任せたくなった時に観たい一本。
『ホーリー・モーターズ』 (2012年仏・独)
監督・脚本・出演:レオス・カラックス、撮影:カロリーヌ・シャンプティエ、イヴ・カペ、
セットデザイン:フロリアン・サンソン、編集:ネリー・ケティエ、
出演:ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス、カイリー・ミノーグ、
エリーズ・ロモー、ミシェル・ピッコリ