「僕はカンジュンサンなんです。あなたが忘れられないと言っていたカンジュンサンなんです。」
二人はそのまま固まってしばらくの間見つめあっていた。背後の外壁シートが風にあおられてバタバタいう音だけがあたりに響いていた。やがてユジンはふっと我に返っていった。
「ミニョンさん、からかわないでください。もうやめて。」
表情は怒りと不信でいっぱいで、目には涙が浮かんでいた。ミニョンはユジンに話を聞いてもらいたくて腕をつかんでしまい、二人はもみ合いになっていた。ユジンにだけは、自分がカンジュンサンだと信じてもらいたい、その一心だったのだ。
そこにユジンを迎えに来たサンヒョクが冷酷な一言を浴びせた。
「ミニョンさんがカンジュンサンだって言ってるのか?ユジンが好きなのはあなたじゃなくてカンジュンサンだってやっと気が付いたのか。」
ミニョンはそ知らぬふりをしてそんなことを言うサンヒョクを、信じられないという目で見つめた。サンヒョクは氷のように冷たい目をして自分を見つめていた。
「サンヒョクさん、、、」
「あんた、人の名を語ってうそをつくほどユジンに執着しているんだな。見苦しいだろ。正気か?」
これにはミニョンもたまらず、思わずサンヒョクの右ほほを殴ってしまった。それでも勢いを弱めずにサンヒョクを揺すり続けるミニョン。彼に対して怒ったのは、ほかならぬユジンだった。サンヒョクに駆け寄ると
「大丈夫?」と言いながらミニョンに言った。
「こんなことをするなんて、、、どうしてこんなことをするのかわからないけど、本当に見損ないました。がっかりしました。サンヒョク、行こう」
ユジンはサンヒョクの腕をしっかりととって、ミニョンの前から去っていった。こんなに怒ったユジンを見るのは初めてだった。あんな軽蔑した目で見られたのも初めてだった。ユジンがどんどん遠くなっていく。ミニョンの視界が涙で滲んだ。
一方でレストランに残されたチェリンとチンスク、ヨングクは途方に暮れていた。ユジンは来ないし、迎えに行ったサンヒョクまで戻ってこない。ついにヨングクが口を開いた。
「今までミニョンさんのこと、顔以外はチュンサンに似てると思わなかったけど、今日は初めて似てるところがあるって思ったな」
するとチェリンが鋭いまなざしで聞いた。
「どこが?」
「うーん、どこっていうか、、、」
すると今度はチンスクが口を開いた。
「雰囲気よ。あの冷たい感じ。人を寄せ付けない表情がカンジュンサンそのものだったわ」
「違う違う。そうじゃない。それよりもなんていうか、、、直感!直感がそう言ってる。ありえない話だけどさ、もしあの人がチュンサンだったら、、、、ユジンはいったいどうなるんだ?サンヒョクと結婚することになってるけど、それでいいのかな?」
チェリンは一瞬びくっと震えて、おびえた表情になった。しかし、会話に集中している二人は全く気付かない。チンスクは真剣な面持ちで言った。
「もしも、もしも彼がチュンサンだったら、ユジンとミニョンさんは運命の相手なのよ。2度も出会って、違う名前なのにまた恋に落ちるなんて。もしそうならサンヒョクも諦めるべきよ。もちろんチェリンもね。」
するとついにチェリンが口を開いた。
「ふざけないでよ!ミニョンさんはアメリカ生まれのアメリカ育ちなのよ。チュンサンのはずがない!わたし帰る」
そういうとチェリンはそそくさと席を立って行ってしまった。チェリンは動揺を隠せなかった。ついにほかの友人たちまで彼がチュンサンなのではと疑い始めている。ユジンにばれないようにしなければ、ミニョンは2度と自分のもとに戻っては来ないのだ、、、。そしてある決意を持って、相談するために足を早めた。チェリンは古びたビルの一室に足を踏み入れた。そこには、『コ探偵事務所』という看板がかかっていた。チェリンはそこで思い出せる限りの『カンジュンサン』と『イミニョン』の個人情報を提出した。そして二人の素性を徹底的に調べてもらうように依頼したのだった。
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