二人は朝食を食べ終わると車に乗り込んだ。ミニョンがサイドミラーを見ると、外で携帯を覗きこんでいるユジンが見えた。きっと山のような着信履歴が残っているのだろう。その表情は険しい。ユジンの気持ちを思うと、心がいたんでしかたがなかった。
そのときユジンは同僚のチョンアに電話していた。
「チョンアさん。ごめんなさい。」
「ああ、ユジン」
チョンアの声も浮かない。サンヒョクたちから一部始終を聞いて、内心の不安を隠せなかったのだ。
「お母さんはいる?」
「何言ってるの?お母さんならソウルに行ったけど、会ってないの?」
いぶかしげなチョンアの言葉を聞いて、ユジンは慌てた。サンヒョクは皆に自分がミニョンと逃げたことを伝えていないのだ。急いで電話を切り、車に乗り込む。
ミニョンはそんなユジンを見て心配そうに尋ねた。
「どこに行きます?」
ユジンは辛そうな顔で答えた。
「ソウルに行きます、、、サンヒョクが何も話してないみたい」
それを聞くと、ミニョンも辛そうな顔になり、でも無理矢理笑顔を作って言った。
「準備はいいですか?」
ユジンが不思議そうな顔で見つめる。
「何の準備?」
「傷つかない準備です。」
ユジンはああというように話し始めた。
「傷つかない準備、、、むしろ私がみんなを傷つけたんですけど。」
それを聞いてミニョンはまた辛そうな顔をしたが、明るく言った。
「さあユジンさん、出発しましょう。シートベルトを締めて。」
こうして二人はソウルに向けて走り始めた。抱えきれない不安を乗せながら。
一方サンヒョクはソウルに帰る両親を車まで見送った。両親とも気落ちしてしまい、全く喋らない。父親のジヌは腑に落ちない顔でサンヒョクに尋ねた。どうしてもイミニョンとカンジュンサンの事が気になって仕方ないのだ。
「サンヒョク、あのイミニョンて人だけど、、、」
しかしサンヒョクは怒ってそれを遮った。
「父さん、あの人は全く関係ない人だから」
ジヌは納得出来なかったが、サンヒョクの剣幕に押されてしまい、不承不承車に乗り込んだ。こうしてもう一台の車がソウルに向けて出発したのだった。
一方キム次長とチョンアはスキー場に降りしきる雪を眺めていた。
「ああ、よく降るなぁ。雪雪雪だな。皆んな帰ったのか?それにしても、昨日はいろいろ災難だったなあ。なあ、ユジンさんから電話があったか?」
チョンアは少しためらいながら
「来たわよ。」
と答えた。
「ふうん、きたのか。どうせ愛の逃避行だろ。理事には昨日から連絡がつかないし、今日は二人とも休みときてる。今頃ラブラブかなあ。」
するとチョンアが慌てて
「次長、縁起でもないこと言わないでくださいよ。だってさっきユジンが、、、」
と話しているうちに、キム次長は
「さあ仕事だ仕事」
ときびすを返して行ってしまった。そんなキム次長のあとをチョンアは慌てて追って行くのだった。
その頃、もう一台の車がソウルに向かっていた。車にはサンヒョクとヨングクとチンスクが乗っていた。サンヒョクは真っ直ぐに前を見て無表情で運転している。3人とも寝不足すぎて、疲れ果てていた。
チンスクは重い空気を振り払うように、サンヒョクに恐る恐る聞いた。
「ねぇ、サンヒョク。昨日の夜、みんなに言ったことって本当なの?本当にユジンを帰さなかったの?」
すると、ヨングクがサンヒョクの肩を持っていった。
「ガキじゃないんだから、別に寝たっていいだろ?もうすぐ結婚するんだからさ。」
「違うの。わたし、むしろ2人が進展してほしいと思ってたから。ねぇ、サンヒョク、本当にユジンはソウルにいるんだよね?ねっ?」
チンスクは必死だった。ユジンがミニョンと夜を共にしたか、サンヒョクと結ばれたかを選ぶなら、サンヒョクとの方が断然良かった、そうであってほしいと祈るような思いだった。しかしサンヒョクはただただ黙って前を見つめているだけだった。
こうして、それぞれの想いを胸に車はソウルに到着した。