ミニョンの車は長いドライブを終えて、ユジンのアパートに到着した。こんな形にはなってしまったけれども、それでも初めて来るユジンの家に、ミニョンの心は弾んだ。
「ユジンさんの部屋はどこですか?」
「三階です」
「あー、あそこか。」
ミニョンは感慨深げに上を眺めている。
そんなミニョンを見つめてユジンは言った。
「行ってきます」
ミニョンはユジンを見つめ返して少し不安そうな様子を見せた。
「すぐ戻りますよね?」
「はい、戻ります」
ユジンは今度ははっきりと力強く言った。
そんなユジンをミニョンは目に焼き付けるようにじっと見つめた後、しっかりと抱き寄せた。どうか帰ってきますように、これ以上ユジンが傷つかない様に、という思いを込めて抱き締めた。
ユジンは緊張と不安でいっぱいだったけれど、ミニョンに抱きしめられてほっとした。ミニョンの吐息や鼓動を感じて、いつでも彼がいるのだ、ここからは自分で全てを説明して終わらせるのだ、という決心がついた。
二人は後ろ髪を引かれるような気持ちで身体を離した。ユジンはほっと息を吐いてアパートに入って行った。途中で後ろをクルリと振り返ってミニョンを見ると、まだミニョンはそこにいて、大丈夫というようにうなづいた。ユジンがアパートに消えてからもミニョンはしばらくそこにただずんでいた。最後に振り返ったユジンの泣き出しそうな顔が胸に焼きついて離れなかった、、、。
ユジンが自室に入ると、ダイニングのイスに母親のギョンヒが座っていた。ギョンヒはとても怖い顔をしてユジンをヒタと睨みつけた。
「オンマ、、、」
ユジンは静かにイスに座ったが、凍りついたように言葉が出て来なかった。こんなに怒っている母親は生まれて初めてだったからだ。重苦しい空気がただよう中、ギョンヒが目を逸らしながら重い口を開いた。
「ユジン、どういうことなの?サンヒョクをどれだけ傷つけたか分かってるの?」
ギョンヒはユジンを睨みつけて言った。その目からは涙が溢れ出した。ユジンがサンヒョクを捨ててミニョンとか言う男性と一夜を過ごしたことが、どうしても許せなかった。
「あんないい子を傷つけるなんて、どうしてなの?サンヒョクがあなたに何をしたって言うの?!ユジン、きちんと説明しなさい‼️」
ギョンヒの目から涙があとからあとから溢れてテーブルが濡れていく。そんな母親を見ても、もう気持ちを誤魔化すことは出来なかった。例え母親がミニョンとの仲を誤解していても、嫌われてもどうでもよい。
「オンマ、、、ごめんなさい。サンヒョクは何も悪くないの。」
「じゃあどうして?まさか、あのイミニョンとか言う男のせいなの?!そうなの?どうして?あんな男のどこがいいの?婚約者を捨てて、母親を困らせてもいいほど好きなの?ねぇ、何とか言いなさい!あなたに起こってることを説明しなさい!お願いだから」
するとついにユジンが重い口を開いた。それは許されることを、ミニョン以外の全てを諦めた口調だった。
「オンマ、、、わたしサンヒョクを愛してないの、、、」
そう言うとハラハラと泣き出した。声もなく泣き続ける娘を見て、ギョンヒは絶望のあまり何も言えなくなってしまった。ユジンの事が許せないギョンヒは、そのままコートと荷物を掴んでアパートを飛び出した。ユジンは慌てて追いかけたが、もはやギョンヒは聞く耳を持たなかった。
「オンマ、ちゃんと説明するから聞いて」
「こんな娘に育てた覚えはありません」
すがるユジンを振り切ってギョンヒは去って行った。ユジンは自分のした事で母親を傷つけた事実に、涙を流すしかなかった。
小さくなった母親の後ろ姿を見送るしかなかった。