実はサンヒョクの母親のチヨンが訪ねてくる少し前に、ユジンはヨングクから電話をもらっていた。
その日、ユジンはミニョンとデートするために待ち合わせをしていた。胸元にはポラリスのネックレスが揺れている。しかしヨングクの声は切迫詰まっていた。
「おい、ユジン!サンヒョクのこと知ってるのか?」
「な、何が?彼がどうしたの?」
「どうしたのじゃないぞ。ボロボロなんだよ。まるで抜け殻で食事も摂らないんだ。会社も辞めたらしくて。」
「本当?」
「ほんとだよっ。なぁユジン、おまえさえ戻れば、サンヒョクも元気になるんだよ。このままじゃあいつ、死んじゃうよ。ユジン、頼む。戻ってくれないか。なっ。」
ヨングクはサンヒョクの入院している病室まえから必死で電話していた。
ユジンは心配でたまらなかったが、ぐっと堪えた。サンヒョクを支えるのは、もう自分の役目ではないのだ。
「ヨングク。それは出来ないの。」
「おいっ。チョンユジン。お前冷たいな。出来ないってなんだ。」
「ごめんね。ヨングク、私に出来ることは何もないわ、、、」
ユジンはそう言って、そっと電話を切った。
切ってはみたものの、サンヒョクに申し訳なくて涙が出てきた。そんなユジンを目にして、近づいて来たミニョンの表情も曇ってしまった。ユジンはミニョンに気がつくと、慌てて涙を拭って笑顔を作った。
「すみません。」
「サンヒョクさんですか?」
「はい、彼、体調を崩したみたいで、、、。昔から一途な性格だったんです。わたし、分かってたのに、、、。」
そう言って罪悪感いっぱいの顔で微笑んだ。
「でも、きっと時がたてば立ち直れますよね?」
ユジンは寂しげな笑顔でミニョンを見つめた。ミニョンはそうですね、という言葉がどうしても言えずに、ユジンを見つめるしかなかった。
その日のデートは、ユジンがずっと上の空だったために、すぐに終わってしまった。ミニョンは、悲しみにくれて迷っているユジンを目の前にして、胸が塞がるようだった。
次の日、ユジンが仕事をしていると、チョンアが客が来ていると言いに来た。チョンアの視線の先には、サンヒョクの母親のチヨンの姿が見えた。急いで駆けていくユジンを、チョンアとキム次長はじっと見つめていた。
「サンヒョクさんが具合が悪いらしいの。」
「ユジンさん、大変だな。なかなか解放してもえないなぁ。」
二人はため息をつくしかなかった。
チヨンとユジンはホテル内の喫茶店で沈黙したまま座っていた。サンヒョクと結婚出来ない宣言をしたきりだったため、非常に気まずかった。チヨンはため息をついて話し始めた。
「サンヒョクがね、入院したの。」
ユジンはびっくりしてチヨンを見つめた。
「破局の理由が私のせいなら謝るわ。本当に申し訳なかったわ。ごめんなさい。だからユジン、あの子を助けてあげて。あの子と結婚してくれたら、仕事も続けていいし、同居だってしなくていいの。だから、あの子をこれ以上苦しめないでちょうだい。ねぇ、戻ってきて。ユジン、お願いよ。」
ユジンはゆっくりと口を開いた。
「お義母さん、本当に申し訳ありません。」
「ユジン、あなたはあの子を見てないから言えるのよ。今のサンヒョクを見たらそんな事、言えないから、絶対に。」
チヨンは必死の形相でユジンに迫った。プライドの高いチヨンにとって、何時間もかけてドラゴンバレーに来て、大嫌いなユジンに頭を下げるなんて、本当に辛いことだろう。ユジンは申し訳なくてたまらなかった。しかし、婚約者でない自分にできることはもうないのだ。
「お義母さん、本当に申し訳ありません。」
ユジンは繰り返し謝るしかなかった。
「わたしが頼んでいるのに?!」
ユジンが俯いたまま固まっているのを見ると、チヨンは信じられないという表情をした。
憎々しげな顔で、涙を流しながら
「10年も付き合ったのに、、、あなたがこんなに冷たい人間だと思わなかった、、、」
チヨンは捨て台詞を吐くと、ユジンを残して去って行った。後に残されたユジンは悲しみと罪悪感で、涙を流すしかなかった。