
ユジンは一人ダイニングの椅子に座ってうなだれていた。最愛の母にまで心労をかけてしまい、申し訳なさでいっぱいだった。かと言ってこれ以上偽りの生活を続けるわけにもいかず、心は乱れるばかりだった。

そこにチンスクとヨングクが帰ってきた。二人とも本当にユジンがソウルに帰っているか半信半疑のまま、祈るような気持ちでドアを開けた。チンスクは安堵のあまりユジンを抱きしめた。
「ユジン、やっぱりソウルに戻っていたのね。良かった。信じてたわ。」
ヨングクは思わず天を仰いだ。
そして、最後にそっと入ってきたのはサンヒョクだった。三人の中で本当のことを知っていたのはサンヒョクだけだった。彼は冷ややかにユジンを見つめた。

サンヒョクとユジンはユジンの部屋に移った。サンヒョクは何も言わずに窓際に立って外を眺めている。その目は虚ろだった。ユジンが昨夜、ミニョンとどんな夜を過ごしたのか想像すると、狂いそうなほど苦しくなった。一方でユジンはベッド近くの椅子に座り込んだまま、みじろぎもせず、悲痛な表情を浮かべていた。
部屋の外では居ても立っても居られないヨングクとチンスクが、ドアの前でオロオロしている。

「どうしてなんだ。僕に何か不満でもあるのか。君を苦しめたのか?」
サンヒョクの心の中はユジンの心変わりへの失望と悲しみと怒りでごちゃ混ぜになっていた。どんどん口調が強くなって、つい問い詰めるような話し方になってしまう。しかし、ユジンは何も言わずに惚けたような表情で、首を横に振るばかりだった。
「じゃあなぜだ。あいつはチュンサンじゃないんだぞ。なぜ好きなんだ。」
サンヒョクは振り向いてユジンを見つめた。
そのとき、ユジンの頭の中にミニョンの声が響いた。
『本当に好きなら理由なんていりません』
ユジンはゆっくりと口を開いた。
「、、、理由なんて、、、ないの。」
心の奥底から絞りだすような声だった。
そして苦しそうにハラハラと涙を流すユジンを見て、サンヒョクは心を決めるしかなかった。これ以上ユジンを引き止めても彼女は戻らないのだ。
「別れてやろうか。」

すると今まで俯いていたユジンがサンヒョクをしっかりと見つめた。その顔は別れを懇願しているように見えた。
「僕の気が変わらないうちに返事をしろよ。」
サンヒョクも、別れを告げる言葉を言うのは、身を切られるように辛いことだった。ユジン、頼むからイエスと言わないでくれ、そんな思いでユジンを見つめる。
しかし、ユジンは涙をハラハラと流しながら言った。
「サンヒョク、ごめんね。」
サンヒョクの目には、ショックのあまり涙が浮かんだ。全てが足元からガラガラと崩れていくような気持ちだった。そしてひとつ大きくため息をつくと言った。
「許さない。絶対に許さない。絶対に、、、」
サンヒョクは吐き捨てるように言って、部屋を出て行った。残されたユジンはとめどなく流れる涙をぬぐいもしなかった。
サンヒョク、絶対に私を許さなくていいから、、、。

ヨングクはサンヒョクを慰めるために追いかけて行った。チンスクはユジンを残して自室に行ってしまった。
「ユジン、どうしてそんなひどいことするの、、、」
ユジンの耳にチンスクの微かな呟きが聴こえた、、、。
チンスクは荷支度を終えると、その足でチェリンの店に向かった。すると、ソファーでチェリンがウイスキー🥃を飲んでいるのが見えた。チェリンは泣き腫らした顔をしており、目は虚ろでぐでんぐでんに酔っ払っているのが分かった。
「そんなに酔っ払って。やめなさいよ。」チンスクは急いでかけよった。
「チンスク!あんたのせいよ!ミニョンさんにチュンサンに似てるなんて言うからこんなことになったのよっ。全部あんたのせいなんだからっ。」
そう言ってポロポロと涙を零した。
さすがのチンスクも、これには立腹して言った。
「分かったわ。こんなふうになったのは全部わたしのせいなのね。じゃあ私は出て行くから。ここから消えてやるわ。」
そう言って荷物を持って立ち上がった。
すると、チェリンはますます泣き声をあげた。
「そうよ。全部あんたのせいよ。早く消えて!早く行きなさいよ!だいたいあんた達があたしの友達だったことはあるわけ?いつもユジンユジンてみんな、、、さっさと消えなさいよ!」
そう叫んで泣き崩れた。
チンスクはそんなチェリンがかわいそうになった。いつも、強気で自信満々のチェリン。でも本当は寂しがり屋で人一倍繊細なのかもしれない。チェリンもチュンサンを好きで、ミニョンを好きなのだ。このままチェリンを置いて行くことは出来なかった。チンスクはそっとチェリンに歩み寄り、消えてしまいそうな細い肩を抱きしめた。
「ねぇチンスク、わたしミニョンさんのこと、本当に好きだったの。どうしたらいいの?」
チンスクは、繰り返し呟きながら泣きじゃくるチェリンをいつまでも抱きしめているのだった。