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友人たちがレストランで待ちぼうけを食っているとき、ユジンとサンヒョクは気が動転してしまい,
レストランには戻らずに、タクシーでユジンのアパートに向かっていた。ユジンはサンヒョクの下唇が切れているのが気になって、薬局で買った軟膏を塗りこんでいた。しかし、サンヒョクはうつろな表情のまま何も言わない。
「サンヒョク、大丈夫?」
「、、、なぁユジン。約束してくれ。2度とミニョンさんに会わないって。」
サンヒョクがあまりに真剣なまなざしで言うので、ユジンは
「わかったわ」とうなずくしかなかった。
「なんでミニョンさんはチュンサンだなんて言ったのかしら?酔ってたのかもしれないわね」
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すると突然サンヒョクが怒鳴った。
「そんなことはいいから、、、約束してくれ!もう2度と会わないって。彼の話も信じないって、頼むから約束してくれ。僕には、、、僕にはミニョンさんの気持ちがわかるんだ。僕だって君がずっと思い続けたチュンサンになりたいて思ったことがあるから。だからもう2度とチュンサンのことは考えないと約束してくれ。たとえ彼が生きていても僕と一緒にいてくれると約束してくれ。」
ユジンはサンヒョクが10年間もそんな風に思っていたなんて、とびっくりしながら、サンヒョクの勢いに気おされてしまった。
「わかった、、、約束する。約束するから。」
それでもなおもしつこく約束を迫るサンヒョク。ユジンの脳裏にはじめて本当はミニョンがチュンサンでは?という疑惑が芽生えた瞬間だった。
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ユジンはアパートの前でタクシーを降りると、先に帰宅していたチンスクが迎えた。
「チンスク、起きてたの?」
「やだ、起きてたのじゃないわよ。何で来なかったの?」
「ごめんね。きっと長く待ったでしょう?」
「それはいいんだけど、、、お母さんが春川から来てるわよ。市場帰りで疲れて寝ちゃってるけどね。」
ユジンがそのまま自室に戻ろうとすると、チンスクが気まずそうに言った。
「ユジン、今日のことなんだけど、ミニョンさんが急にきて大変だったのよ。僕がカンジュンサンだと思ったことはないのか?とか変なことばっかり言うから本当に理解できなくて。だってチュンサンそっくりの顔で言うんだもの。ほんとに信じちゃいそうになったわ。ミニョンさんもあんたをサンヒョクに取られるのがショックなのかな?」そこまで言うと、言いすぎたことに気づいてハッとした。
ユジンは困惑するとともに申し訳なく思った。
「そうなのかなぁ。わたしが何度も何度もチュンサンなのか聞いたから悪かったのかな、、、。」
「そうじゃなくて、チュンサンて名乗ればあんたが戻ると思ったんじゃ、、、ないかな。ああ、ごめん、ユジン。そんなつらそうな顔しないで。」
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ユジンは悲しそうに微笑んで自室に入っていった。ユジンのベッドには母のギョンヒが寝ていた。ユジンはそっとその横に滑り込んでギョンヒの胸に顔をうずめた。どんなに悲しいことがあっても、母親に抱かれて眠ると安心してしまい、すぐに寝入ってしまった。そんなユジンの肩や髪の毛を優しくなでるギョンヒだった。
しばらくすると突然ユジンの携帯が鳴った。
「ミニョンさん、、、。」
ミニョンはユジンたちと別れた後、一人で街を歩き回っていたらしい。その声には疲れと深い焦りが感じられた。ユジンはミニョンと話すために、そっとベッドを離れて今に移動したが、背後で母親のギョンヒが静かに目を覚まして聞き耳を立てているのに気が付かなかった。
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「ユジンさん、ユジンさん、、、今出てこられますか?僕の話を聞いてほしいんです。もう強引な真似はしません。あなたに会いたいんです。会って話さなくちゃいけないんです。」
「、、、まず私の話を聞いてください。」
「わかりました。なんでも聞きますから話してください。」
ユジンは毅然とした口調で話し始めた。
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「それではあなたとチュンサンがどんなに違うか、なぜあなたはチュンサンに離れないのかを話します」
「ユジンさん、、、」
「まず、チュンサンは私を『ユジンさん』とは呼びません。自分の気持ちも人に押し付けたりはしませんでした。人とコミュニケーションをとる方法がわからなくて、とても不器用だったけど、相手をわざと傷つけるような真似はしませんでした。私に好きだとさえ言うことができませんでした。」
ユジンはミニョンの気持ちを思うとたまらなかったが、心を鬼にして続けた。ほほには涙が伝い、声を振り絞らないといけなかった。
「まだ続けましょうか?あなたは余裕があって自信たっぷりだけど、彼はおびえたようにいつも肩をすくめていました。あなたは堂々と歩くけれど、彼は危なっかしくて頼りなくて、いつも不安そうでした。あなたは明るくいつも笑っているけれど、彼は心から笑えない人でした。まだ続けた方がよいですか?ミニョンさん、あなたはチュンサンではありません。別人なんです。」
「別人なんですか、、、。」
ミニョンはショックのあまりささやくような声でつぶやいた。ミニョンのほほにも涙が流れだした。
「それにもしもチュンサンが戻ってきたとしても、私はサンヒョクを選んだんです。サンヒョクと一緒に生きることにしたんです。あなたもわたしを彼のもとに送り出したでしょう?もう私を自由にしてください。」これが最後の電話です。」
そしてユジンが電話を切ろうとした瞬間、ミニョンの声が聞こえた。
「ユジンさん、来てください。僕待ってます。なんでも聞くからどうか会って話をして。待ってます。」
ユジンは急いで電話を切ったが、心は揺れに揺れていた。あのミニョンがこんなに懇願するなんてミニョンらしくない。何か理由があるのかもしれない。誤解しているのかもしれない。今すぐに会って顔を見て話したい。ユジンは衝動的に携帯を握りしめて外に出ようとした。そんなユジンの腕を背後から呼び止める者がいた。母親のギョンヒだった。
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「ユジン!どこへ行くの!あなたこんな夜中にどこに行くの?!まだあの人に未練があるのね!なぜ断ち切れないの!」
「オンマ、お願いだから、これで最後にするから行かせて。」
ユジンは涙を流して懇願したが、ギョンヒは鬼のような形相で腕をつかんだ。
「駄目よ!絶対行かせない!」
「お願い、顔を見るだけだから。どうしても話があるっていうのよ」二人はもみ合いになった。あまりの騒がしさにパジャマ姿のチンスクも顔を出しておろおろし始めた。その時、ギョンヒが呻きながら頭を押さえて倒れてしまった。チンスクとユジンで抱きかかえてゆすっても目を覚まさない。チンスクは放心するユジンを横目に往診の医者を呼び、サンヒョクに連絡をした。ユジンは母親を抱きかかえたままうつろな目で座っているだけだった。
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やがてサンヒョクが二人のアパートに到着すると、ベッドに横たわり、真っ白な顔で点滴を受けるギョンヒを心配そうに見つめた。
「ユジン、いったい何があったんだ?」
しかしユジンはしゃくりあげながら泣くばかりで、チンスクは気まずそうに眼をそらしてしまい、だれも答えてくれる者はいなかった。やがて診察を終えた医者が言った。
「心労がたたるようなことが起こってしまい、一時的に血圧が上がってしまったのでしょう。点滴をしているので大丈夫ですよ。」
医者は安心させようと努めていたが、3人の不穏な空気をやわらげるすべはなかった。
そのころミニョンは、ベンチに座り込んで酔っぱらいの二人組を見ていた。まだミニョンがユジンのことを疑っていた時、ユジンが酔ったふりをして自分を誘っていると信じこんでいた時、ユジンはふらつきながら言っていた。
『好きな色は何ですか?好きな色は白なんでしょ?白に決まっている。』
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今思えば、カンジュンサンとの思い出を一生懸命伝えようとしていたのだろう。でも、あの時の自分は酔っぱらいのたわごとだと思って嫌悪していた。今のユジンのように。今ならあの時のユジンの悲しみが痛いほどわかった。ミニョンはついにあきらめてホテルへの道をとぼとぼと歩いてゆくのだった。
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そのころユジンはやっと点滴が終わったギョンヒを目の前にほっと一息ついていた。そしてそっと部屋を抜け出そうと立って向きを変えると、眠っているはずのギョンヒがしっかりとスカートを握りしめているに気が付いた。ギョンヒの顔は絶対離すまいと必死の表情をしていた。ユジンはついにミニョンに会いに行くのをあきらめて、また静かに座るのだった。