裕子はマフカレードナイトという東野圭吾の単行本があると人に聞いていたけどまだ読んでいない。マスカレードとは仮面舞踏会のこと。そしてある日そんなパーティが始まった。
裕子は先日上海で購入したチャイナドレスをさっそく着ることにした。部屋で着てみて
「まんざらでもないじゃない!?」
鏡の前でクルリと回って見せた。パーティ用の小さなキラキラバッグは持ってきている。だけどもう一つあった方が華やかだ。そういえば船に乗るのが初めての裕子と違って聡美は何でもよく知っている。
「船には衣装部があるのよ。パーティのときに足りないものがあったら何でも貸してくれるの」
「へぇ」
「でもみんな借りに来るから早く行かなくちゃね」
そうだ!! 廊下を走りだす裕子。
そして一夜の仮面舞踏会。
裕子は衣装部に行ったりして遅刻してしまった。ドアを開けて驚いた。すごい人。元々この船では知っている人は少ない。その上チラッと会ったことのある人でも仮面では全くわからない。スタッフたちも仮面を付けている。
ただ一人だけ仮面を付けていなかった。ピエロの格好をしていた。顔を真っ白にして赤い丸い鼻を付けている。仮面を付けたらこの良さはわからない。そして裕子に始めて近づいたのもピエロだった。
「踊りましょう」
「私踊れないんです」
ピエロは泣きそうな顔をしていて突然向き合って裕子の両手を握った。裕子は右手にバッグ、左手にファーの真っ赤な扇子を閉じたまま持っていたが無理矢理握られた。
「私が右足を出したらあなたは左足を引く」
「えっ」
「今度はあなたが右足を出して私は左足を引く」
「ちょっと待って待って待って」
「右に2歩左に2歩 手を離してくるっと回って右手を上げてオーレ」
「何それ?」
「掛け声ですよ」
「へぇ」
「お酒取って来ますよ。ビールでいいですか?」
「えぇ」
「練習してて下さい」
仕方なく練習を始めた裕子だった。