小関順二公式ブログ

プロ野球、アマチュア野球、野球史

大会ナンバーワン遊撃手は佐藤竜一郎

2011-08-20 19:42:30 | 2011年夏の甲子園
◇8月8日(月曜日)晴れ
作新学院11-1福井商
唐津商9-4古川工
如水館3-2関商工
東大阪大柏原8-1至学館

 4試合中、最も心魅かれたのは作新学院の遊撃手・佐藤竜一郎だ。今大会、好遊撃手で注目したのは佐藤以外では次の12人。
 北條史也(光星学院2年)、門村鴻輝(健大高崎)大塚健太朗(花咲徳栄)、宮内和也(習志野)、松本剛(帝京)、清水弘毅(日大三)、高橋亮謙(横浜2年)、加藤新次(関商工)、幸田健斗(徳島商)、松本晃(唐津商)、永江恭平(海星)、稲垣翔太(明豊)
 佐藤も含めたこの中で遊撃手として最も可能性を感じたのが佐藤だ。まず守り。準決勝までの5試合で際立ったのが肩の強さ。この福井商戦では2回、山本文矢の三遊間への強いゴロを頭から突っ込んで好捕すると、すかさず立ち上がって一塁へ矢のようなスローイングで楽にアウトを取っている。この守備だけでスカウトは二重丸をつけたのではないか。
 バッティングでは思い切りのよさが最大の長所だ。第1打席は103キロのスローカーブをコンパクトなスイング軌道(それでいてフルスイング)で右翼前列に放り込んでいる。第5打席は低めいっぱいのストレートを鋭く上から叩いて中前に安打を放っているように、稲葉篤紀(日本ハム)を彷彿とさせる上から叩く形こそ真骨頂。
 大差がついた試合だが、こういう選手を見ると疲れも吹き飛ぶ。大会前はあまり注目しなかったが、好選手がずらりと揃ったいいチームだと思った。

[この日目立った好選手]
◇石井 一成(作新学院2年・三塁手・右左・177/71)5打数2安打2打点
 第4打席、134キロ真ん中ストレートをおっつけ気味に強く叩いて中越え二塁打
◇山下 勇斗(作新学院1年・捕手・右右・173/70)5打数2安打
 3回に二塁盗塁を許すが、このときのスローイングは低く伸びる2.00秒。実戦的
◇北方 悠誠(唐津商・投手・右右・180/80)9回4安打13三振3自責点
 両肩上に鉄棒を通したような固い腕振りは不満だがストレートが152キロを記録
◇松本  晃(唐津商2年・遊撃手・右右・171/65)5打数1安打
 ボテゴロに対する激しいダッシュと力強い送球ピカイチ。強い打球を放つ打も魅力
◇加藤 新次(関商工・遊撃手・右右・174/70)3打数0安打
 左足を遅く始動させる関商工スタイルを代表する。安打なくても形に魅了される
◇福山 純平(東大阪大柏原2年・投手・右右・175/70)9回4安打13三振0自責
 最速143キロのストレートはキレ味鋭く、カーブ、スライダー、チェンジアップも◎
◇小曽根圭吾(至学館2年・投手・左左・183/71)2.1回3安打1三振2自責点
 ストレートは133キロが最速だがフォームが絶品。大化けの可能性秘めている

[雑感]
 ナンバーコラム「詳説日本野球研究」で次のようなことを書いた。

 1死一、三塁の場面を迎えると、多くの野球ファンはダブルプレーを防ぐためにも、一塁走者は二塁に盗塁したほうがいいと思っている。実際、そうしているチームが多かった。しかし、今はなかなか二盗に踏み切れない。なぜなら、捕手が二塁に投げるケースが増えているのだ。捕手のスローイングと同時に三塁走者はスタートを切って本塁を陥れる――これが4、5年前の常識だったが、今はそう簡単ではない。二塁手が前に出てきて捕手の球をカットするケースがあるからだ。
 二塁ベースの1メートルくらい前でカットして本塁に投げれば、どんなに足が速い走者でも本塁前で殺すことができる。三塁走者がスタートを切らなければ二塁手はボールをカットせず(スルーして)ベースカバーに入った遊撃手に捕らせる。実際、「捕手は二塁に投げない」と早合点した一塁走者が二盗を企図して殺されるシーンを何回か見た。これらを総称して「ピックオフプレー」と言う。私はこういう騙し合いが大好きだ。
(新渡戸稲造が訴えた「野球害悪論」。現代の野球と、敵を欺くプレーの是非。より)

 これを再現したのが関商工の捕手、前沢陽一。7回、無死一、三塁の場面で、如水館の一塁走者・佐藤直哉が二盗を試みると前沢は敢然と二塁に2.18秒でスローイングし、みごと二盗を阻止する(三振ゲッツー)。2対2の膠着した場面だったことを考えると、大殊勲のスローイングである。
 こういう二塁憤死を防ぐ作戦が一方で増えている。一塁走者のディレードスチールである。一、三塁の場面での捕手の二塁送球には覚悟がいる。走らなかったことで捕手は緊張した気分が緩み、一塁走者はその緩みを見て走る。一度緩んだ気分を瞬間的に締め直すことはできないので、二盗の成功率は格段に上がる。まさに選手と選手の騙し合いである。新渡戸稲造はこういうプレーを見て、何を思うだろうか。

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