手話通訳者のブログ

田舎の登録手話通訳者のブログです。

今日は長い文章なので、忙しい人は読まないでください(笑)

2015-04-09 05:45:15 | 手話
手話とは関係ない話だしね。
手話を学び始めたきっかけは全くの偶然。運命と言えなくもないが、そんなに大袈裟なものでもなかった。

むかし昔そのまた昔の学生時代にろう者の友人ができたことがきっかけだったが、あの頃、何か漠然と「このままじゃあかん」という気持ちがモヤモヤしていた。
手話の世界の入口へと導いたきっかけは、あの初ステージだった。
後にも先にも、人様の前、しかもステージ(机をたくさんくっつけてシートをかぶせただけのものだが)で歌ったのは、あれが最初で最後だ。

当時、正直言って、自分のことしか考えていなかった。今もそうかもしれん(笑)
たまにゃ、人様の役に立たにゃいかんなー、と思いながらキャンパスを歩いていると、掲示板のポスターに目が留まった。

「病院のクリスマス会ボランティア募集!学園祭実行委員会」

クリスマス会かー。
クリスマスを一緒に過ごす彼女もいないし、力仕事ぐらい手伝ってくるか。
しかし、なんで学園祭実行委員がこんなことやってんだろ。
ま、いいか・・・ってことで、実行委員会室を訪ねた。

「ありがとうございます。落語研究会と吹奏楽クラブが30分ずつやりますので、裏方で手伝ってください。」

わかりました、ってことで、特に楽しみにするでもなく、数週間が経過したある日、突然、掲示板で呼び出された。

「経営情報学部のたいしさん、大至急、学園祭実行委員会室まで来てください。」

大至急?何か悪いことしたか?
あ!大学創立者の銅像にサングラスかけたの、俺だってバレてもうたか?
いや、それなら学生課から呼ばれるはずだ。何だろう。

ってことで、再び実行委員会室へ。

「ああ、たいしさん、実は困ったことになりまして。落語研究会にドタキャンされちゃったんですよ。」

ふーん、無責任な奴等やな。
でも俺には関係ないやんか。

「30分、空いちゃったんで、たいしさん、何か出し物をお願いします。」

は?何それ?出し物?無理!
いきなりそんなこと言われても・・・。
裏方の手伝いのはずやないか。

「そんなこと言わずに、お願いしますよ!手品でも何でもいいですから。今年はボランティアに協力するの、うちの大学だけなんですよ。病院からも頼まれてるんです。」

なんのことはない。
毎年恒例行事で、2~3の大学に依頼が来ているらしい。
で、他の大学が断って、母校だけが受けたってことや。
仕方なくやってる程度のことだから、落語研究会も最初からヤル気がなく、ドタキャンにつながったわけだ。

ボランティアである。
何の義務もない。
断ればいいのだ。
今の俺なら、120%断るが、当時は真面目な若者だったんや。

うーん・・・・・
散々悩んで、言った。
あの、趣味でフォークギターやってるんですが、弾き語りでいいすか?

「何でもいいです。ぜひお願いします!ボランティアの申し出をいただいたのは、ドタキャンした落語研究会と吹奏楽クラブ、個人ではたいしさんだけなんです。」

当時から、
「あなたしかいない!」
という言葉に弱い。
指名で手話通訳申込があると、よほどのことがない限り受けている。性格は変わっとらんらしい。

で、クリスマス会当日。
生ギター抱えて、記念すべき初ステージ・・・のはずが、どうも観客(?)の反応がおかしい。
イエスタデイ・・・切ない歌のはずなんやけど、歌ってる目の前で、
「はっ、ホッ!」
と踊ってるおじさんがいたり、奇声を発する人、むやみに走り回る人、それらの患者さんたちを追いかけ、対応に追われる病院職員・・・。
異様な雰囲気。
こんなところで歌ってる俺って・・・。

なるほど、毎年参加していた落語研究会がドタキャンするわけだ。
これじゃ落語どころじゃあるまい・・・。

しかし、30分しっかり歌った。
この根性だけは、我ながら褒めてやりたい。

はー・・・終わった・・・。
ありがとうございました。
とお辞儀して去ろうとすると、最前列でずーっと怖い顔して聞いていたお婆ちゃんが立ち上がって、すたすたと近づいてくる。

???

おばあちゃん、懐から小銭を一掴み取り出してバッと投げてきた。

うわっ!と叫ぶのと、小銭がギターにバシバシッと当たるのが同時だった。

お、俺はお地蔵様じゃないぞ・・・。

すっかり疲れ果てて舞台袖に引き上げると、若い女性がタタタッと駆けてきた。

いきなり、両手で左手をぎゅっと摑まれた。

ちょっと嬉しかったが、それもほんの一瞬。

「岸田智史さんでしょ!?」

は?

「智史さんでしょ?私、ファンなんです。」

いえ、違います・・・。
(解説:岸田智史→「君の朝」という歌がヒットして、当時は有名だった。ちなみに、俺が歌ったのはビートルズ・ナンバーばかり。なんで岸田智史に間違えられたのか、今だに謎である。)

でも彼女、納得しない。
一層手に力を込めて、
「智史さんでしょ!?智史さんでしょ!?」

違う、とは言えない雰囲気・・・。

は、はあ、いつも応援ありがとうございます・・・。

「頑張ってください!応援してますから!」

と言うと、彼女はクルリと背を向けてタタタッと走り去って行った。

ぐったり・・・。

後で知ったが、精神科の専門病院だった。
先に言ってくれよ・・・。



この直後、手話と出会い、今まで全くやらなかったボランティアにのめり込んで行った。
手話通訳ボランティア。
手話の勉強を始めたばかりで「通訳」なんかできるわけないのだが、無鉄砲で怖いもの知らずの学生時代に、たくさんの現場を踏んだのは、結果としてよかったと思っている。