台風一家

こいちゃんと一緒に、淡路島リベンジ

前回、こいちゃんが実家にいたためいっくんと伴侶の3人で旅行した淡路島に、今度は4人で行ってきた。

途中のサービスエリアで、2人とも「ミニカレー」を頼んた。
名前の割にしっかりした量なのに、これで250円。
味も「辻調理」のシェフが常にキッチンにいると言うことで美味しかった。
ご飯をこよなく愛するいっくんはおにぎりを一つ食べた後にカレーを食べた。
炭水化物の割合、多すぎである。

明石海峡大橋を渡って一番に向かったのは、「パルシェ香りの館」。
ソフトクリームの種類は、私が始めてここに来た頃とは比べ物にならないほど増えて、ローズ、ラベンダー、ブルーベリー、ストロベリー、バニラなどなど、決めるのに困るほどである。
こいちゃんはラベンダーソフトクリーム、いっくんはブルーベリーソフトクリームを頼み、溶けるソフトクリームと必死に格闘しながら頬張っていた。
服は汚れ、手はソフトクリームにまみれ…。

食べ終わったら、手を洗うのもそこそこに、また子供たちは駆け出す。
ながーい、滑り台は、こいちゃんといっくんの大のお気に入りなのだ。

最後、殆ど真下に落ちるように伸びた滑り台のスリルがたまらないらしく、落ちる瞬間の子供たちの凄まじい叫び声がこだまする。
炎天下、遠く上のほうにある滑り台のスタート地点まで、何回も何回も駆け上がっていくのだから、そのスタミナには恐れ入る。

そのあいだ、大人たちはちょっと花の観賞である。
大温室には、このシーズン、大変美しい「フクシア」と言う花が咲いていた。
温室に張り巡らされた給水パイプから、直接鉢に水が供給されるようになっているらしく、ぶら下げられた鉢には、大変大きなフクシアの株が、長い茎をたらして、その先に色とりどりの鮮やかな花を咲かせている。
美しさに思わずため息が出る。
その間も、どこか遠くから聞きなれた叫び声が聞こえてくる。
子供たちにとっては、美しい花も滑り台と比べればなんの魅力も感じないようである。

びっくりするくらい汗をかいた子供たちを連れて温泉に行った。
前回も来た「松帆の湯」。
高速代1000円になって交通量が増えた明石海峡大橋を眺めながら、ゆったりと温泉につかる。
大橋がライトアップを始める頃に、それを眺めながらの夕食となった。

いっくんはプリン目的のお子様ランチ。

こいちゃんはがっつりミックスフライ定食。
いかにおなかが空いていたか良くわかるが、勿論こんなに食べられるはずもなく、牡蠣フライやサラダなどは伴侶と私のお腹に。

食事を済ませた子供達は私たちの食事が終わるのを待てずに、すぐに外で走りはじめた。
いつまでたっても、子供たちの電池は切れそうも無い。
大人も食事をすませて、大橋の前で写真をとる。
やはりお姉ちゃんが参加した旅行は、前回とは違って、大変嬉しそうないっくんである。

今夜の寝床に向かう道々。
淡路SAの観覧車がライトアップされていた。
真っ暗な夜空に浮かび上がる大きな観覧車の明かりに誰もが歓声を上げる。
皆で「きれいだねぇ」とはしゃぎながら、こいちゃんを含めた4人で来れた事を、改めて嬉しく感じた。


次の日、鳴門海峡大橋のそばで目覚めてから、探検に向かった子供と伴侶。
昨晩車の中で眠りコケた子供達は、海が余りに近いことにおどろいていたようであった。

朝食はとっても簡単に。
インスタントラーメンや、春雨ヌードルなどを皆で食べて、いざお店に乗り込むのだ。

と、思いきや、溶けた氷の袋に松の葉を刺して遊ぶ子供達。
ジョウロのように噴出す水が楽しくて仕方ないらしく、いつまでも二人ではしゃいでいる。

買い物に行くことになり、
「うずしおレストラン」と書かれた看板を過ぎるとこいちゃんが
「え~なんかこわい…うす塩レストランって」と私の手を引いた。
しょせん小学一年生。
ちょっとの間違いが、大間違いである。

おみやげ物やさんで、味見をしてドレッシングや、お菓子を買い「ドーナツコロッケ」なるものも食べた。
いっくんは、おもちゃをオネダリし、あまりに熱意のある視線に購入することに…。
全財産をはたいても買う、と言いそうな、相当な惚れ込みようである。

次は、鳴門の渦潮を見ることが出来る、クルージングに参加である。
船着場には足湯があり、1時間の待ち時間はあっという間に過ぎるのが嬉しい。

つぼのような所に足を突っ込む変わった物もあり、子供達はうろうろしながら色々な足湯を愉しみ、飽きることがない。

船着場には、私達の1本前の出航となる船が停まっていた。
レトロで雄大なたたずまいに子供達は勿論、大人も何だか嬉しくなってしまう。

その船が出港して、私達が乗る船は700人乗れる「日本丸」という、白い大きな船である。
一番乗りに列に並んで、すぐにでも駆け出したいいつきを必死に抑える。

いよいよ船に乗り込み、最上階のテーブルに座ってわくわくしながら出航を待つ。

その間もいっくんはお土産屋で購入したおもちゃを気に入り、目を離せないようである。
転がって海にでも落ちたらどうしようもない、となだめて取り上げても、手放したくないらしくすぐに持ち出してうろうろ…。
鳴門の渦潮だけは見てほしいのだが。

エンジンの音が変わり、船が進み始めると、白い水しぶきが水面であがる。
それを見る子供達もテンションが上がって、エンジンに負けない声ではしゃぎ始めるのだ。

しばらく走って鳴門海峡大橋の下に来ると大きな船の為、橋にあたってしまいそうである。
思わず叫ぶこいちゃんといっくんに、私までどきどきしてしまった。
一緒になってハラハラワクワクである。

橋の下はものすごい暴風である。
さっきまで平気そうだった子供達が「寒い!」と叫び始め、それと共に波も荒くなってきた。
そして、水面にはいくつもの渦や白い波が無数に現われ始めたのだ。
そこかしこに現われた渦潮にこいちゃんは大興奮。
あの下は深い深いうずが続き、海の中で水の竜巻が起こっている事を教えてやると、二人は興味深そうに、その渦を見てやろう、と必死で目を凝らした。

私達が乗ったのは、この日のクルージング予定の中でも、一番渦が沢山発生すると言う、実に恵まれた時間帯の船であった。

帰り道。
壮絶な渦の大群に、しばし呆然となる私達であった。

しかし、子供達はじっとはしていない。
私に船内を紹介しながら回ってくれる。

一番下の階はたたみ部屋で、子供もお年よりもくつろげるように工夫がされている。
ちょうど私達が座っていたデッキと、その畳部屋の間にも階があり、そこは座れるようになっている部屋である。
風をよけるにはちょうどいい。
トイレや自動販売機もある、3階建ての大きな船であったのだ。

そして、まもなく悲しい事件はおきた…。
クルージングが終わった後、再び足湯に入ったいっくんと伴侶。
二人を残して、私とこいちゃんはトイレに向かったのだが…。
トイレを出てこいちゃんと手をつないで足湯に向かっている最中に伴侶から電話がかかった。
「いっくんのおもちゃ、持ってない?ないんだけど」
いや~な予感である。
持ってない…と言うか、足湯を離れる時にいっくんが嬉しそうに手に持って足をぶらぶらさせていた姿を覚えているのだ。
トイレに向かって戻るまで、ほんの5分ほど。
いっくんがとても気に入っていたおもちゃは、忽然と消えていた…。

そばに座っていたおばさんの話だと、いっくんがおもちゃを置いたまま場所を移動し、その後子供達がそのおもちゃを眺めていたところまでは見ていたと言うのだ。
今となっては、どこに行ってしまったのか、皆目見当つかない。
そばにいた伴侶はたっぷり足湯を満喫していたようで、私としては思わずため息が出てしまったが、誰かのせいにしてもしょうがないというものだ。

しかし、子供でも本当にショックなときは言葉が出ないのだということが良く判った。
いつもなら大声で泣き始めるいっくんが、さめざめと泣き、ショックのあまり息をするのも苦しそうである。
口数は少なく、ほとんど喋らず、呆然と空中を眺めているが、焦点が定まらない。
ひたすら自分の気持ちに理由を見つけて折り合いをつけようとしているらしく、ぶつぶつとつぶやいたり、おどおどと周りを見回す素振りが痛々しい…。
普段はあんなに打たれ強いいっくんの泣き所は「大好きなおもちゃ」であったのだ。
何度も私が「もっといてあげるから貸しなさい」と声をかけたこともあり、自分に落ち度があることを自覚しているいっくんは誰を攻めることもなく、ただしょげかえった。

何とか屋台の明石焼きやてんぷらなどを頼んで食欲でごまかしてみたが、ひとしきり食べ終わると思い出したように「うぅ…」と口をゆがめて泣きはじめる。
車に乗ってもしばらく「思い出がぁ…」(?)と泣き、いつまでも悲しみをぬぐえないでいるらしかった。

心優しい伴侶は「もう一度かおっか」と言って私に声をかけたが、私はそれには「うん」といえなかった。
はじめは
「もう一回、かってぇ~」と叫んでいたいっくんが、自分の気持ちに折り合いをつけ始め、必死で搾り出した
「これも、勉強だよね…」
の言葉。
潤む目で、いっくんが必死に堪えた末に出した言葉を、尊重してあげたかった。
私は冷たい親なのかもしれない…と、ちょっと思いつつではあるが、今回はいっくんが大きくなる為の試練だったと言うことで見守ってみることにした。
十分判ってから、またいつか買ってあげることにしても遅くはないのではないか…と。

帰宅する車の中で何度も思い出しては「へぐへぐ」泣いていたいっくんだったが、こいちゃんとびわを分け合って食べているときは、幸せそうであった。

SAでこの旅行で2度目のソフトクリームを食べるこいちゃんといっくん。
いっくんは大好きなミルクソフト、こいちゃんはびわのソフトクリームだ。
嬉しそうな顔を見ると少し心が晴れる気がする。
が、いつかは我慢できたご褒美に、あのおもちゃをもう一度買ってあげたい。
こうなったら、また淡路島に行かないわけにいかなくなってきた。
いざ、次回こそはリベンジのリベンジで、再び淡路島に!

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