読書とかいろいろ日記

読書日記を中心に、日々のあれこれを綴ります。

第505号 『魚は海の中で眠れるが鳥は空の中では眠れない』

2012年07月01日 | メルマガお奨め本

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週刊 お奨め本
2012年7月1発行 第505号
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『魚は海の中で眠れるが鳥は空の中では眠れない』 保坂和志
¥1,600+税 筑摩書房 2012/3/10発行
ISBN978-4-480-81512-5
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エッセイです。
タイトルに惹かれて手に取りました。
なんとも思わせぶりなタイトル。
しかしまえがきでいきなり、こう。

> 連載時の進行も単行本化にあたっての各章の表題や小見出しもすべて担当の増田健史さんにお任せだった。『魚は海の中で眠れるが鳥は空の中では眠れない』というタイトルも、このフレーズを文中に書いたのは私だが、それを見つけ出したのは増田さんだった。(10頁)

ありー。
いきなり肩透かしな感じです。
読者の期待を裏切ってくれます。
保坂にとってはこんな期待は意味が無いのかもしれないな。



保坂和志という小説家の名前だけは知っていても、実は著書を読むのはこれが初めて。
本書はエッセイだから、純文学もへったくれも無いといえば無いのだけど、それでも読み手に対する理解の手助けとなる文章かどうか、というような部分で、多少は違う。じっさい、読者への歩み寄りという点において、本書はかなり強気である。つまり、歩み寄ろうという気がない。

> エッセイと小説の違いは何かと言うと、内側から語るか外側から語るかにちかい違いで、エッセイの題材はそのエッセイに先行する知識に反しないが、小説では書かれる題材(素材)は先行する知識によってではなく、小説の進行によって確定される。(48頁)


ならばわかりにくいかといえば、まあ、わかりにくいんですけど、説明が難解でわかりにくいのではなく、そもそもわかりにくいのがいいのだ、というような。読者の予想を裏切るというか、予定調和でない結論と展開、それこそが文学というべきものであるというような。

> わかりやすい文章ほど眉つば物の文章はないのだ。(115頁)

> 読みながらどんどん踏み迷っていくような文章じゃないと私はおもしろくない。(116頁)


判断基準は「おもしろい」だったか。
好き嫌いと。
そもそもこのエッセイは、エッセイだけれども小説に近い呼吸で書いている、とご本人もまえがきで書いている。


そしてとにかく圧倒的に印象的だったのが、猫。
保坂和志、尋常でない猫好きです。
猫好きの方が読んだら、それだけですっかり保坂和志にめろめろになること請け合い。

> 私はなんだか、大変だったということばかり書いてしまったが、歓びの方がずっと大きかった。ジジもペチャもそうだったと信じる。(148頁)


本書を読んで、発行人は、保坂は実に思索の人なのだなと感じたのだけど、たぶんその結晶たるものが、最新作の『カフカ式練習帳』なのだろうなと想像する。
未読ですけど。

最後にちょっと長い引用を。

> 私は一発ベストセラーを出して、五年間ぐらいは何も仕事をせずに読みたい本だけを読んで暮らしていたいと思うことはしょっちゅうだが、読みたい本を読んでいるあいだも、いずれは次の小説を書こうと思いつづけているだろう。
小説家が小説を書くのは、小説を書くという行為を通じて何かを考えたいからだ。そして、できるなら人間の考えるという営みに関わりたい。(83頁)


小説を書くということ。
なにごとかを考えるということ。

とても興味深い。




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魚は海の中で眠れるが鳥は空の中では眠れない
保坂和志
筑摩書房

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