![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/c8/00ae7cdba93f86fcbedbb037365c8012.png)
前回の記事の続きである。
Newton編集人の高嶋さんによる「グラフィック・サイエンス・マガジンの作り方」に続き、東京大学大学院生の江口さんが「BuzzScience 最先端科学をすべての人に」というプレゼンを行なった。江口さんはBuzzScienceの代表をつとめている。
会場に理系の大学生がたくさんいたのは、BuzzScienceの関係者やこの活動に関心がある学生がいたからだと僕は気が付いた。(会場に入ったとき、科学雑誌Newtonに関心をもつような層と少し違うぞと僕は感じていたから。)理系学生たちに囲まれるのは5月に「2017年度 理系交流会」に参加して以来のことだ。
BuzzScience 最先端科学をすべての人に
BuzzScienceとは「最先端の科学を、楽しく、面白く」という趣旨で一般公開されている科学情報ポータル・サイトだ。東大大学院理工系修士課程の10人の学生によって運営されている。
BuzzScience
http://buzzscience.net/
サイトをご覧いただくとわかるように、現在24の記事が投稿されている。これらは現在研究中の、つまり最先端の研究を非専門家にもわかるように「言葉で」説明した記事である。各記事は一般の人に向けて易しく書いた「初級記事」と専門家向けの「上級記事」で構成されている。
国立大学の科学研究費は、もとを正せば国民の税金から支払われているのだから、研究者が日ごろどのような研究を行なっているかを国民に伝え、科学研究費に対する理解を得ることは大切なことだ。たとえば大栗博司先生も、同じお気持ちで科学のアウトリーチ活動の一環として、科学教養書をお書きになったり、市民向けに物理学の講座や講演会を行なっている。
この日のプレゼンの前に、BuzzScienceはNewton編集人の高嶋さんに、彼らが書いた記事のいくつかを査読してもらっていた。高嶋さんのセッションの最後で、記事に対するダメ出しや感想を高嶋さんはお話されていた。初級記事にも専門用語や一般人には理解できない言葉が使われており、易しく言い換えたり、くどいと思われても毎回説明するなど、改善のためのアドバイスもされていた。
例えば「細胞運命を自在に制御する、DNAアプタマーの可能性!」の初級記事に書かれている「分化」や「発生」、「細胞運命」などは一般の人には難しすぎること、「タンパク質」という言葉は一般の人と研究者でのイメージに大きな隔たりがあるので要注意だそうだ。一般の人は「タンパク質」という言葉で、肉などの栄養素をイメージする。
上級記事に対しては「ドメイン」や「二量化」などの用語が理解できないので、説明が必要だとおっしゃっていた。
BuzzScienceはもともとMERIT呼ばれている「東京大学物質科学リーダー養成プログラム」のプロジェクトとして始まったそうだ。
当初運営に携わっていた学生たちは、すでに博士課程に進んでおり活動する余裕がなくなったので、現在修士課程の学生たちで活動を再開したというわけである。代表の江口さんはBuzzScienceの位置づけを、次のように説明された。
図の横軸に「易⇔難」、縦軸に「信頼性十分⇔信頼性不十分」をとり4つの象限にBuzzScience、Newton、プレスリリース、科学ブログの4つを配置した。結果は次のとおりである。
BuzzScience、Newton: 易しい+信頼性十分
プレスリリース: 難しい+信頼性十分
科学ブログ: 易しい+信頼性不十分
僕は科学ブログを書いている手前、「信頼性不十分」と言われて、少しムッとしたのだが、よく考えてみると思い当るふしがある。
何が科学ブログかということを厳密に定義するのは難しいが、一般的にはブログランキング・サイトの科学カテゴリーに登録しているブログのことを言うのだろう。登録数の多い順にあげれば、次の3つがある。(このリンクをクリックすると、この記事に応援クリックすることになるのでご注意。応援クリックしたくない方は、URLをブラウザにカット&ペーストしてページを開いてほしい。)
人気ブログランキング(科学)
http://blog.with2.net/rank4057-0.html
科学ブログ 人気ランキング(にほんブログ村)
https://science.blogmura.com/ranking.html
自然科学ランキング(FC2ブログランキング)
http://blogranking.fc2.com/in.php?id=489688
ご覧になってわかるように、ほとんどのブログの執筆者は研究者ではなく一般人だ。そして内容が怪しいブログ、トンデモ系のブログ、科学と関係ないブログが多いことに気付く。
ランキングは読者による応援クリック、つまり人気投票で決まるのだが、「なぜこのブログが上位なの?」と思えるブログがあるのも事実。これは不正な手段で応援クリック・ポイント(INポイント、OUTポイント)を獲得しているブログがあるためだ。
どのブログが不正クリックブログなのか、個別に名指しするのは控えさせていただくが、ブログの内容を見ていただければすぐわかるし、ランキング上位のブログなのに読者からのコメントがほとんどないなどの判断基準で、不正だとすぐわかることが多い。(FC2での不正クリックの例)
また「にほんブログ村」は、上記の「科学ブログ 人気ランキング」と「注目記事ランキング(科学)」をくらべることで不正クリックブログがすぐわかるように作られていて、不正はこのページのいちばん下に設置されたフォームから通報できる。
不正にはいくつかの方法があり、巧妙に行われているため、ランキングサイト側では機械的な手段で判別するのが難しい。そのために一部のランキングサイトでは不正ブログが放置され続け、結果としてランキングサイトに対する信用を落とし、科学ブログというもの自体に悪い印象を与えている。
僕がみたところ、どのランキングサイトでも科学部門の上位20位のうち4分の1から2分の1のブログは、なんらかの不正を行なっていると思う。
不正クリックはスポーツで言えばドーピング問題だ。スポーツだとお金がからむから不正は厳しくチェックされるが、ブログランキングでは不正を行なってもサイトを利用する一般ユーザーには目立った不利益が生じない。そのため問題はなかなか解決しない。
このようにブログ内容に怪しいものが多いこと、ランキングアップのために不正が行われているという2つの意味で、科学ブログは信頼性が十分ではないことを僕も認めざるを得ない。
もちろん、不正を行わず、良質な記事を真面目に書いているブロガーはたくさんいる。不正を行うブログは「害」である。真面目に書いているブロガーの執筆意欲を著しく損なっていると思うからだ。
このような状況を改善するために私たちが行える方法は、次の2つしかない。
- 不正ブログだと思ったら、ランキングサイトのフォームから通報する。
- 良質なブログ、よい記事だと思ったら面倒でも応援クリックをする。
そもそもブログは、内容の専門性が高かったり、特定の分野の記事ばかりだったりするとアクセス数や応援クリック数が減るのが普通だから、ブログの価値や信頼性はランキングでは判断できないことも申し上げておこう。
BuzzScienceの紹介とは関係ないが、科学ブログの信頼性が問題にされたので、この際だから書かせていただいた。
プレゼンの最後で、この日の司会を担当された科学コミュニケーション研究会の方が「BuzzScienceの記事の信頼性」について辛口の質問をされた。
大学院で行なっている研究が意味をもつのは、そのアイデアや内容が斬新であることが必要であり、その意味では最新の研究というのは信頼性がないのが普通ではないか?
会場にいた誰もが唸った。これは手厳しい。プレゼンを行なった江口さんもタジタジである。そして「そのご質問に対する回答は、持ち帰ってよく考えてみます。」とおっしゃった。
プレゼンの後、Kavli IPMUの横山広美先生から次のようなお言葉をいただいた。
「BuzzScienceの活動というのは「言葉を使って科学を表現し、伝える」という意味で、これまでにないとてもユニークな試みだ。研究しながら活動するのは大変なことだが、ぜひ頑張って継続していただきたい。」
BuzzScienceの活動を僕も頼もしく思うし、応援させていただきたい。
質疑応答、感想
2つのプレゼンが終わり、高嶋さん、江口さんのお二人が登壇して質疑応答が行われた。よい質問がたくさん飛び出し、そのたびに丁寧にお答えになっていたのが印象に残った。
僕にとっても、この日のプレゼンはとてもためになった。高嶋さんに直接お会いしてご挨拶できたし、Kavli IPMUの横山先生にご挨拶してお話できたのもうれしかった。
また、BuzzScienceのメンバーのおひとりが、とね日記をお読みいただいていたのを知ったこと、ふだんTwitter上でしか交流していなかった方に「とねさんですよね?」と声をかけていただき、直接お話できたこともうれしかった。
会場のレイアウトをもとに戻すのも、残っていた人全員で行なった。僕を含めて残っていた何人かはニュートンプレスの関係者と本郷三丁目駅まで雑談をしながら帰ることになった。
このように楽しい夜を過ごしたのは久しぶりである。
ニュートンプレスのみなさま、BuzzScienceのみなさま、科学コミュニケーション研究会のみなさま、有益で楽しい場を提供いただき、ありがとうございました。
関連記事:
グラフィック・サイエンス・マガジン Newton の作り方(その1)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ec7f96712045560b6cf3d7b1e851e49e
グラフィック・サイエンス・マガジン Newton の作り方(その2)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06a11387485b7835d8147229d541497b
Newton(ニュートン)の0号と創刊号の思い出
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Newton(ニュートン) 2018年 01 月号: ゼロからわかる人工知能
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf3a744f940e92c0277e9e5e576604b
橋本幸士×板倉龍「Newton超ひもナイト」@ 下北沢
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/567088304d1f2dca5349826c561adb3e
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"大学院で行われるような最先端の研究は、信頼性がないのではないか?"
これを読んだ時、延髄反射的にカチンときました。この言葉には、最近の日本の科学技術政策の愚が垣間見えたからです。すぐに結果のでない研究は信頼性が無いという考え方が既にはびこっていて、日本の科学技術を危うくさせ、このままゆけば20~30年後には日本からノーベル賞研究者が出てこないでしょう。
研究の質は、進め方、考え方、波及効果など、それが進められる過程を十分に考慮すべきなのが、いったいどこまで理解されているのか、心配になってきます。市民に情報発信してそれを理解してもらう努力は、BuzzScience の役割の1つだと思うのです。
研究にはビジョンが必要で、その研究が進むことでどんな嬉しいことが待っているのか、そんな夢を語って頂きたいのです。
ブログの信頼性については、悲しいけれど仕方ないのでしょうね。不正だけでなく、内容の信憑性に不安を感じるブログ、伝聞情報の言い換え、言い換える段階で内容が曲げられ正確さが失われる例、そもそも日本語があやしいブログ、揚げれば切りが無いですよね。
むしろ、ニュートンとか紙媒体の場合ハイパーリンク張れないので効率は悪いのが課題になるんでしょうね
コメントありがとうございます。
> "大学院で行われるような最先端の研究は、信頼性が> ないのではないか?"
> これを読んだ時、延髄反射的にカチンときました。
そうですか。この辛口の質問は、会場にいたときは先輩研究者(司会の方)から後輩研究者への叱咤激励のように僕には聞こえました。
> すぐに結果のでない研究は信頼性が無いという考え方が既にはびこっていて、日本の科学技術を危うくさせ
これはおっしゃるとおりだと思いますね。研究のうち実を結んで成果を出すものは、ごく一部でしょうし、どれが実を結ぶかなんて前もってわかるはずはありません。各研究者はすべて、これは実を結ぶに違いないと思って研究しているわけですから。
>ブログの信頼性については、悲しいけれど仕方ないのでしょうね。...揚げれば切りが無いですよね。
そうですよねぇ。世の中には実にさまざまな人、おかしな考えにとらわれている人がいるのだなぁと僕も思います。
コメントありがとうございます。
とね日記の信頼性について、自分から書くわけにはいきませんが、ひごろ多くの識者の方から「とねさん、ここは間違っていますよ。」のようにコメント欄から教えていただいていますから、内容の信頼性はある程度保証されているのではないかと思っています。また、とね日記は理系書籍のレビュー、感想記事がメインですから最先端ではありませんし。最先端と言える記事にしても、ニュースで取り上げられてから書く記事ばかりです。リンクはなるべく正しく書かれていると思ったのを紹介しています。
> ニュートンとか紙媒体の場合ハイパーリンク張れないので効率は悪いのが課題になるんでしょうね
紙媒体だと仕方がありませんよね。URLを印刷で書いたとしても、文字列が長いとパソコンで打ち込む気にはなれませんから。先日紹介した「あたらしい人工知能の教科書」には長いURLがたくさん載せられていました。
ひゃまのそう捕らえたら、鋭い指摘だなあとあえて、コメントしなかったんですけど
BuzzScience 的な科学コミュニティは、そういう信頼性ないとこに間違っても信頼瀬なくてもいいからチャレンジしてる夢を語ってほしいですよね。
一方的に信頼性なんていわれると、それちがうんじゃないかとおもいますよねw
最新研究の信頼性は誠実な報告であればいいので、結果が正しいかどうかは関係ないと思ってる。
そういう点では、プレスリリースはSTAP騒動などもあり信頼性があるか疑問だな。
(とね日記ではコメントを何度かいただくと、「~様」から「~さん」になります。)
> 一方的に信頼性なんていわれると、それちがうんじゃないかとおもいますよねw
そうですね。「科学ブログは信頼性がない。」と会場で感じた違和感は、まさにそれでした。
(hirotaさんもとね日記にアドバイスコメントをくださる識者のうちのおひとりです。)
hirotaさんはランキングサイトなど見る必要はないと思いますよ。ただ、ときどきユニークなブログがあらわれたりするので、ときどきご覧になるとよいかもしれません。
> 最新研究の信頼性は誠実な報告であればいいので、結果が正しいかどうかは関係ないと思ってる。
同感です。誠実さって大切ですよね。
> プレスリリースはSTAP騒動などもあり信頼性があるか疑問だな。
これについても同感です!
それはそうと、「最新の研究に信頼性がない」の回答を持ち帰った話はどうなったんだろ?
これは「専門家は現理論がいずれ更新されると思ってる」に対して「一般人は科学を絶対視してる」という違いが原因だと思うけど、認識の差を考えずに回答するとマズいね。
> 地球温暖化を否定する大統領も居るから科学も例外じゃないか。
科学も例外ではありませんね。彼は全世界にとって「不都合な大統領」です。
> 「専門家は現理論がいずれ更新されると思ってる」に対して「一般人は科学を絶対視してる」という違いが原因だと思うけど、認識の差を考えずに回答するとマズいね。
持ち帰った話に対する回答は、いまのところポータルサイトには見当たりません。無回答になってしまう可能性が大きいですね。
修士課程といえども、まだ学生で自分のことで手いっぱいだから「一般人は科学をどう考えているか。」という意識は持っていないような気がします。