とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

アインシュタイン選集(2):[A1] 光の伝播に対する重力の影響(1911年)

2008年03月09日 16時22分39秒 | 物理学、数学
一般相対性理論

[A1] 光の伝播に対する重力の影響(1911年)

この論文は比較的短いもので、この本では11ページほどである。数箇所に偏微分や積分があるものの、初等的な数式がところどころに出てくるだけなので理系の大学生ならば難なく読めると思う。

この論文が発表された1911年は、アインシュタインが光量子説(1905~6年)を発表した後で、光は電磁波だということ、そしてエネルギーとしてのひとつの形態であるということだけでなく、粒子としての性質も持っていることが予想されていた時期だ。

また、重力によって質量を持つ物体の運動が曲げられることは、彼をさかのぼること250年、アイザック・ニュートンの力学によって明らかなことだった。すなわち光に質量がないと考えられていた当時、光の進路は重力で進路が曲げられることはなく直進すると考えられていた。

また1905年に発表された特殊相対性理論のE=mc^2によって質量とエネルギーは等価であることが導かれていた。つまり、光はエネルギーのひとつの形態なのだから質量のある物質に転換可能というわけだ。アインシュタインは光でさえもエネルギーであるならば質量があると考えていた。(しかし、現在では光子の質量はゼロであることが知られている。「光の重さについての不思議」はこのページでわかりやすく説明されている。)また、彼は特殊相対性理論から静止している物体には静止質量を、運動している物体には速度によって増す慣性質量を考えた。重力によって光線が曲がるという発想はE=mc^2(エネルギーと質量が等価)ということにに起源を持っている。


1. 重力場の物理的性質に対する仮説

まずアインシュタインが思考実験の舞台として持ち出したのは2つの座標系AとBである。Aは一様な重力場の中で静止している系で、Bは重力のない空間にある系で、こちらは一様な加速度で移動している。「座標系」や「系」というとむずかしく聞こえるかもしれないが、つまり宇宙空間を区切ってその部分の空間だけをそのように呼ぶわけだ。もっと簡単に言えば宇宙空間にエレベーターの箱をAとBの2つ用意したと思えばよい。

このときAでもBでも同じように重力を感じ、2つの小世界で成り立つ物理法則はまったく同じになる。つまり重力と加速度を区別する方法はないという彼の置いた大前提が「等価原理」であり一般相対性理論の出発点だ。重力と加速度が区別できないということは何もアインシュタインが言わなくても、日ごろエレベーターの上り下りで経験していることだし、ニュートン力学でも同じようなことを言っている。アインシュタインが発見したわけではない。しかし彼がこの事実を「原理」として理論の前提に採用したことは重要だ。アインシュタインはこれら2つの系で加速度や重力だけでなく「あらゆる物理法則が区別できない」と仮定したことが「等価原理」の意味をより深いものにしているのだ。


2. エネルギーの重さ

次に彼が考えたのは「エネルギーの重さ」を重力や加速度の影響下でどのように計算できるかということである。特殊相対性理論では等速直線運動(慣性運動)しか考えなかったので、慣性質量はローレンツ変換の式からただちに計算できる。しかし見かけの重力質量もこれに応じて増加するだろうか?しかも加速度運動をしている系で考えた場合にである。詳しい説明は省略するが、アインシュタインは上記の2つの系でのエネルギーの運動を考えた。そして重力質量の増加分は慣性質量の増加分に等しいことを重力的ポテンシャル・エネルギーという概念を取り入れ、エネルギー保存の法則が成り立つことから導くことができた。


3. 重力場の中での時間および光速度

次にアインシュタインが考えたのは「重力場の中での時間と光の速度」だ。早い速度で運動すると時間の進行が遅くなることや光の速度が遅くなることは特殊相対性理論によって導かれていた。加速度系や重力場の中でどのように計算できるかという問題に拡張して考えたわけだ。詳しい計算方法は省略するが、彼は重力ポテンシャルやドップラー効果を考慮し、重力や加速度が空間のそれぞれの点の時間の進行を遅くし、光の速度を遅くすることを計算した。計算手順は難しいものではない。


4.重力場における光線の湾曲

この論文の最後で彼が説明したのは「重力場における光線の湾曲」である。重力場によって光の速度が遅くなることは導いているのだから、光線が湾曲すること自体を計算することは容易である。それは物質内を進む光線の速度に違いがあるということから光線の屈折を計算する「ハイゲンスの原理」を使えばよいだけのことだからだ。重力の影響で光線は進むにつれて少しずつ重力の方向に屈折する。それが全体として光線が湾曲しているように見えるのだ。

実際にアインシュタインはこの方法で太陽のそばを通る光線は角度にして0.83秒の湾曲を受けることを導いてみせた。しかし、彼はこの計算で大事な点を見落としていたため、実際の値の半分になってしまったが。彼は重力場の影響による時計の遅れだけを考慮し、空間の歪みも同等に起きていることを見落としてしまったからである。後に彼もこの見落としに気づき、後の論文([A3])で正しい値を計算しなおしている。

なお、重力による光線の湾曲についてはこのページで詳しく説明されている。

[A2] 一般相対性理論および重力論の草案(1914年)」に進む。

関連記事:

少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae

アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559

アインシュタイン選集(2);読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae

とね書店:

アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144


応援クリックをお願いします!
にほんブログ村 科学ブログ 物理学へ 人気ブログランキングへ 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« gooブログの4周年記念キャン... | トップ | 東京大空襲の日 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

物理学、数学」カテゴリの最新記事