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「だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋」
内容紹介
原子を見ることすらできない時代になぜその存在を理解できるようになったかを科学史的に記述した本。単なる歴史的な解説ではなく、それぞれの時代の科学者の探求のなかに、物理的に思考するとはどういうことかを織り込みながら解説する。ときに自分たちで実験しながら仮説と事実との関係を深く考える教育の本としても魅力がある。
原子の存否をめぐる永い永い論争の歴史。単なる歴史的な解説ではなく、ガリレイからアインシュタインまで、それぞれの時代の科学者の探求を自ら実験で再現しながら、だれが原子の決定的な証拠をみたかを追っていく。物理的に思考するとはどういうことかを考える上で、おおいに示唆を与えられる本。
2013年1月刊行
著者略歴
江沢/洋
1932年、東京に生れる。東京大学理学部物理学科卒。東京大学理学部助手、米国メリーランド大学、イリノイ大学、ドイツのハンブルク大学を経て学習院大学教授。その間、米国のベル研究所研究員
理数系書籍のレビュー記事は本書で219冊目。
人類はいつ頃どのように原子の存在を確信するに至ったか、あなたは答えられますか?
原子や分子という言葉は日頃からよく耳にするが、この世界の物質がこのように小さい粒子でできていることを知ったのは何才のころだっただろうか?僕の場合、小学生のときに鉄腕アトムのアニメで原子や原子力という言葉を初めて耳にしたが、当時は原子が集まって物質ができているということに結びついていなかった。
学校の授業ではいつ習ったのかは覚えていない。あらためて次のページで確認してみると中学生になってから学ぶようだ。
小学校と中学校の理科で学ぶ内容
http://www.hello-school.net/hssciense.htm
けれども学校では「この世界の物質は原子や分子でできているのだ。」と教えるだけで、どのように発見されたかということまでは教えていない。
原子論は古代ギリシアの頃にすでに考えられていたのは知っているが、あくまでそれは仮説としてのこと。実験や観察を通じて人類が原子と分子を発見できたのはいつのことだろうか?
本書を読むまで、原子や分子が存在する証拠について僕が知っていたのは次のようなことだ。
- 花粉やタバコの煙の粒子が細かくブラウン運動するように観察されるのは水中や空気中の多数の分子が絶え間なく衝突しているからだ。
- 水を電気分解すると体積比で水素が2、酸素が1という自然数の比率で発生する。これは水分子が1つの酸素と2つの水素から構成されていることを意味している。
- ボイルの法則:気体の圧力と体積は反比例することは、容器中を飛び回る分子が壁に衝突したときの力積の総合計として計算できる。
はたしてこれで十分だろうか?ブラウン運動するタバコの煙に衝突する何かがあるとしても、それは「微粒子」であるには違いないが原子や分子だという保証はない。
ボイルの法則は1661年、ドルトンの原子説は1805年、アヴォガドロの法則は1813年、ファラデーが電気分解の実験をしたのは1833年、分子運動論に基づきマックスウェル分布が導かれたのが1860年、メンデレーエフによって元素周期表が発表されたのは1869年のことだ。ブラウン運動が発見されたのは1827年のこと。1905年にブラウン運動についてアインシュタインが具体的な計算を行い、これが原子の存在を明白に証拠付ける事実となったとウィキペディアに書かれている。(参考記事:「アインシュタイン選集(1)」)そしてジャン・ペランはブラウン運動に関する精密な実験を1908年から行い、分子理論を実証し、1913年著書『原子』を出版したという。
ドルトンの原子説では主な元素について原子の質量の比はすでにわかっていた。それから100年後にアインシュタインがブラウン運動についての論文を発表するまではずっと原子や分子は「仮説」に過ぎなかったのだろうか?アインシュタインによるブラウン運動の計算が決め手となったのはどういう意味においてであろうか?
本書はそれらの実験を通じて科学者たちがどのように核心に迫っていったのを詳細に解説している。もともと1976年に出版された本で、以前から読みたいと思っていたのだが絶版になってしまい、中古本はずっと8千円以上の高値で取引されていた。ようやく今年の1月に復刊されたので読むことができた。380ページ、横書きの文庫本だ。
本書では先人たちが行なった実験を著者自ら行いながら、ひとつづつ理論を検証していく。それらの実験の中にはもともと別の目的で行われたものも含まれている。
実験で得られた結果を論理的に積み上げ、計算で確認しながらつじつま合わせをしていくことによって「反論」はひとつづつ否定され、原子や分子の存在が明らかになっていく。
本書を読んでみて「トリチェリによる真空の発見」や「パスカルの実験による大気圧の発見」が解説されていたのには驚かされた。原子や分子のことを論理的に説明するためには、そこまでさかのぼる必要があるのだ。
なるほど、大気圧が発見されて初めて大気の組成を研究するきっかけとなり、金属の酸化・還元反応の実験を通じて酸素や二酸化炭素、窒素などが発見されていくのだということに思い至った。そしてそれらが「分子」であることは後の科学者によって明らかにされる。
対象読者は高校生以上。物理学的に思考を重ねるというのはこういうことなのかと気づかせてくれる本、理論にもとづいて計算するだけでなく実験で検証することの大切さについて再認識させてくれる素晴らしい本である。
ぜひお読みいただだきたい。
関連ページ:
出版社による本書の紹介ページ
だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/6002810/top.html
だれが原子をみたか(アトムの物理ノート)
http://letsphysics.blog17.fc2.com/blog-entry-579.html
原子は実在するか
http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kori/science/ayumi/ayumi17.html
水素原子の写真
http://blogs.yahoo.co.jp/star_warker/35653219.html
原子や分子の操作
http://www.afm.eei.eng.osaka-u.ac.jp/qni/05.html
http://www.ap.eng.osaka-u.ac.jp/undergraduate/lecture/lecture1/1-a.html
関連記事:
新版 電子と原子核の発見(ちくま学芸文庫):S.ワインバーグ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d6244b03bafe78c8c2316c91342df73e
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「だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋」
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第1章:ブラウンの発見
- 花粉のなかの微粒子が動く
- 生きているモレキュール
- ブラウン運動(観察I、観察II)
- 原因をさぐる
- アトムの衝撃(生物と無生物)
第2章:原子論のはじまり
- 古代ギリシアの哲学者たち
- アトムと空虚(自然法則と意志の自由)
- 自然は真空をきらう
第3章:大気と真空
- 自然の真空ぎらいにも限度がある
- 大気圧の発見(パスカルの実験、私たちの実験)
- 力ずくで真空をつくる
第4章:気体の構造
- ボイルの法則(私たちのJ字管の実験)
- 実験の役割、帰納と演繹
- ニュートンの《プリンキピア》
- 気体の構造をめぐる2つの仮説(ニュートンの仮説、ベルヌーイの仮説)
- 気体の重さ(公式(1)の導出、運動の量の定義)
第5章:反応する分子
- 錬金術から化学へ
- ドルトンの原子論
- 単体も分子からできている(気体反応の法則をためす)
第6章:とびまわる分子
- 気体分子の速さ
- 統計的方法(サイコロによる実験)
- 気体分子のデータ
- エネルギー等分配の法則(気体の重さと高度分布)
第7章:分子の実在
- かぎりなく乱雑な運動
- ブラウン運動の理論(粘性運動の定義、デタラメ数の和に関する実験)
- ペランの実験
- 分子を数えた!
- 舞台はまわる(原子のブラウン運動、一つずつ原子をつかみ,移す)
現代文庫版の刊行にあたって
索引
内容紹介
原子を見ることすらできない時代になぜその存在を理解できるようになったかを科学史的に記述した本。単なる歴史的な解説ではなく、それぞれの時代の科学者の探求のなかに、物理的に思考するとはどういうことかを織り込みながら解説する。ときに自分たちで実験しながら仮説と事実との関係を深く考える教育の本としても魅力がある。
原子の存否をめぐる永い永い論争の歴史。単なる歴史的な解説ではなく、ガリレイからアインシュタインまで、それぞれの時代の科学者の探求を自ら実験で再現しながら、だれが原子の決定的な証拠をみたかを追っていく。物理的に思考するとはどういうことかを考える上で、おおいに示唆を与えられる本。
2013年1月刊行
著者略歴
江沢/洋
1932年、東京に生れる。東京大学理学部物理学科卒。東京大学理学部助手、米国メリーランド大学、イリノイ大学、ドイツのハンブルク大学を経て学習院大学教授。その間、米国のベル研究所研究員
理数系書籍のレビュー記事は本書で219冊目。
人類はいつ頃どのように原子の存在を確信するに至ったか、あなたは答えられますか?
原子や分子という言葉は日頃からよく耳にするが、この世界の物質がこのように小さい粒子でできていることを知ったのは何才のころだっただろうか?僕の場合、小学生のときに鉄腕アトムのアニメで原子や原子力という言葉を初めて耳にしたが、当時は原子が集まって物質ができているということに結びついていなかった。
学校の授業ではいつ習ったのかは覚えていない。あらためて次のページで確認してみると中学生になってから学ぶようだ。
小学校と中学校の理科で学ぶ内容
http://www.hello-school.net/hssciense.htm
けれども学校では「この世界の物質は原子や分子でできているのだ。」と教えるだけで、どのように発見されたかということまでは教えていない。
原子論は古代ギリシアの頃にすでに考えられていたのは知っているが、あくまでそれは仮説としてのこと。実験や観察を通じて人類が原子と分子を発見できたのはいつのことだろうか?
本書を読むまで、原子や分子が存在する証拠について僕が知っていたのは次のようなことだ。
- 花粉やタバコの煙の粒子が細かくブラウン運動するように観察されるのは水中や空気中の多数の分子が絶え間なく衝突しているからだ。
- 水を電気分解すると体積比で水素が2、酸素が1という自然数の比率で発生する。これは水分子が1つの酸素と2つの水素から構成されていることを意味している。
- ボイルの法則:気体の圧力と体積は反比例することは、容器中を飛び回る分子が壁に衝突したときの力積の総合計として計算できる。
はたしてこれで十分だろうか?ブラウン運動するタバコの煙に衝突する何かがあるとしても、それは「微粒子」であるには違いないが原子や分子だという保証はない。
ボイルの法則は1661年、ドルトンの原子説は1805年、アヴォガドロの法則は1813年、ファラデーが電気分解の実験をしたのは1833年、分子運動論に基づきマックスウェル分布が導かれたのが1860年、メンデレーエフによって元素周期表が発表されたのは1869年のことだ。ブラウン運動が発見されたのは1827年のこと。1905年にブラウン運動についてアインシュタインが具体的な計算を行い、これが原子の存在を明白に証拠付ける事実となったとウィキペディアに書かれている。(参考記事:「アインシュタイン選集(1)」)そしてジャン・ペランはブラウン運動に関する精密な実験を1908年から行い、分子理論を実証し、1913年著書『原子』を出版したという。
ドルトンの原子説では主な元素について原子の質量の比はすでにわかっていた。それから100年後にアインシュタインがブラウン運動についての論文を発表するまではずっと原子や分子は「仮説」に過ぎなかったのだろうか?アインシュタインによるブラウン運動の計算が決め手となったのはどういう意味においてであろうか?
本書はそれらの実験を通じて科学者たちがどのように核心に迫っていったのを詳細に解説している。もともと1976年に出版された本で、以前から読みたいと思っていたのだが絶版になってしまい、中古本はずっと8千円以上の高値で取引されていた。ようやく今年の1月に復刊されたので読むことができた。380ページ、横書きの文庫本だ。
本書では先人たちが行なった実験を著者自ら行いながら、ひとつづつ理論を検証していく。それらの実験の中にはもともと別の目的で行われたものも含まれている。
実験で得られた結果を論理的に積み上げ、計算で確認しながらつじつま合わせをしていくことによって「反論」はひとつづつ否定され、原子や分子の存在が明らかになっていく。
本書を読んでみて「トリチェリによる真空の発見」や「パスカルの実験による大気圧の発見」が解説されていたのには驚かされた。原子や分子のことを論理的に説明するためには、そこまでさかのぼる必要があるのだ。
なるほど、大気圧が発見されて初めて大気の組成を研究するきっかけとなり、金属の酸化・還元反応の実験を通じて酸素や二酸化炭素、窒素などが発見されていくのだということに思い至った。そしてそれらが「分子」であることは後の科学者によって明らかにされる。
対象読者は高校生以上。物理学的に思考を重ねるというのはこういうことなのかと気づかせてくれる本、理論にもとづいて計算するだけでなく実験で検証することの大切さについて再認識させてくれる素晴らしい本である。
ぜひお読みいただだきたい。
関連ページ:
出版社による本書の紹介ページ
だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/6002810/top.html
だれが原子をみたか(アトムの物理ノート)
http://letsphysics.blog17.fc2.com/blog-entry-579.html
原子は実在するか
http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kori/science/ayumi/ayumi17.html
水素原子の写真
http://blogs.yahoo.co.jp/star_warker/35653219.html
原子や分子の操作
http://www.afm.eei.eng.osaka-u.ac.jp/qni/05.html
http://www.ap.eng.osaka-u.ac.jp/undergraduate/lecture/lecture1/1-a.html
関連記事:
新版 電子と原子核の発見(ちくま学芸文庫):S.ワインバーグ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d6244b03bafe78c8c2316c91342df73e
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「だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋」
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第1章:ブラウンの発見
- 花粉のなかの微粒子が動く
- 生きているモレキュール
- ブラウン運動(観察I、観察II)
- 原因をさぐる
- アトムの衝撃(生物と無生物)
第2章:原子論のはじまり
- 古代ギリシアの哲学者たち
- アトムと空虚(自然法則と意志の自由)
- 自然は真空をきらう
第3章:大気と真空
- 自然の真空ぎらいにも限度がある
- 大気圧の発見(パスカルの実験、私たちの実験)
- 力ずくで真空をつくる
第4章:気体の構造
- ボイルの法則(私たちのJ字管の実験)
- 実験の役割、帰納と演繹
- ニュートンの《プリンキピア》
- 気体の構造をめぐる2つの仮説(ニュートンの仮説、ベルヌーイの仮説)
- 気体の重さ(公式(1)の導出、運動の量の定義)
第5章:反応する分子
- 錬金術から化学へ
- ドルトンの原子論
- 単体も分子からできている(気体反応の法則をためす)
第6章:とびまわる分子
- 気体分子の速さ
- 統計的方法(サイコロによる実験)
- 気体分子のデータ
- エネルギー等分配の法則(気体の重さと高度分布)
第7章:分子の実在
- かぎりなく乱雑な運動
- ブラウン運動の理論(粘性運動の定義、デタラメ数の和に関する実験)
- ペランの実験
- 分子を数えた!
- 舞台はまわる(原子のブラウン運動、一つずつ原子をつかみ,移す)
現代文庫版の刊行にあたって
索引
この本が古書で8000円もしていたとは驚きです。私は「岩波科学の本」で持っています。老眼には文庫本はきついです。
私もこの本に刺激されてブラウン運動を見てやろうとと思っていました。それでブラウンが使ったホソバノサンジソウ(Clarkia pulchella)の種を探しました。しかし在庫切れでした。手に入ったらとねさんにも一株分けてあげたいと思っています。
お久しぶりです。
この本すでにお持ちでしたか。文庫本の紙質でよいから、私たちのような老眼者には「大型文庫本」というジャンルが必要ですね。(笑)
そのホソバノサンジソウ(Clarkia pulchella)というのは貴重なものなのでしょうか?
オマル・ハイヤームの『ルバイヤート』はワイド版で読んでいます。岩波現代文庫もワイド化して欲しいですね。大きなタブレットで読むのも良いけれど。
ホソバナサンジソウはアカバナ科でオオマツヨイグサの仲間、北米原産でそれほどの希少種ではなさそうです。英語版のWikipediaを見るとちゃんとブラウンの事が記載されています。
ホソバナサンジソウを英語版のウィキペディアで見てみました。見たことがあるような花ですね。
ブラウン運動の観察をしてみたい気にもなります。
タバコの煙のブラウン運動も見てみたい気がします。