とね日記

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量子力学(II): 江沢 洋

2010年08月30日 21時53分19秒 | 物理学、数学
量子力学(II): 江沢 洋

小出先生の量子力学に続き「量子力学の教科書読み比べ」の第2弾。

この第2巻は第1巻にくらべて難しかった。扱うテーマ自体がより高度なのでいくらわかりやすい教科書といってもおのずと限界があるものだ。しかし江沢先生は特に第9章「角運動量」、第10章「原子の構造」を他書にくらべてとても詳しくていねいに解説しておられるので、複雑で込み入った内容にならざるを得ないこれらの箇所をきちんと理解できるよう十分な記述になっていると思った。計算の労を惜しんではならない。

シュレディンガーやハイゼンベルクの基礎方程式から、原子核を回る電子の軌道(確率分布)や原子の電子殻がどうして化学で学んだとおりに配置していくのかが明らかになっていくさまを数式による計算で導きだせてしまうのは、見事としか言いようがない。複雑さ、計算の面倒さに苦労して得ることのできる喜びは大きいと思う。

第11章「近似法」つまり摂動論と第12章「散乱問題」については、小出先生の量子力学のほうがわかりやすい気がした。

僕が特に気に入ったのは第13章「輻射と物質の相互作用」だ。光子の生成、消滅についてが詳しく解説されているだけでなく、等方調和振動子や水素様イオンについての節では光子がどの方向に放出されるかなど、光子の偏極という量子力学的性質から偏光という光学的性質を導いてくれている。さらに電磁ポテンシャルのゲージ変換、自由空間における電磁場の箇所などで量子力学を盛り込むことに計算を省略しないで開設し、量子場の理論をはっきりと意識した説明がなされているからだ。(ただし、小出先生の量子力学の第2巻のように多粒子系の量子力学や第2量子化にまで踏み込んでいるわけではない。)

第1巻と同様、問題と回答はとても充実している。独学でも十分使える教科書だ。

第2巻全体を通じて僕の理解度は85%~90%くらい。費やした時間のことを考えればまずまずだと思う。

「量子力学の教科書の読み比べ」ということではじめたのだが、教科書に優劣をつけるというのはほとんど意味がないことに気がついた。テーマごとにわかりやすさの点で違いはあるが、今のところどの教科書もいい感じだ。小出先生の教科書と江沢先生の教科書。入門者ならばどちらも学んでおいたほうがいい気がしている。


量子力学(I): 江沢 洋


量子力学(II): 江沢 洋



量子力学(II): 江沢 洋」目次


9 角運動量
 9.1 中心力の場における運動
 9.2 角運動量の交換関係
 9.3 同時固有値問題
 9.4 角運動量の大きさとz成分
 9.5 極座標系で書いた演算子
 9.6 軌道角運動量
 9.7 スピン
 9.8 角運動量の合成
 問題

10 原子の構造
 10.1 水素様イオン
 10.2 定常状態
 10.3 元素の周期律
 問題

11 近似法
 11.1 摂動論 ― 定常状態
 11.2 注目する準位に縮退がない場合
 11.3 注目する準位に縮退がある場合
 11.4 時間発展の摂動論
 11.5 変分法
 11.6 排他律の定式化
 問題

12 散乱問題
 12.1 散乱
 12.2 時間発展を追う方法
 12.3 定常状態をみる方法
 問題

13 輻射と物質の相互作用
 13.1 基本量
 13.2 自由空間の電磁場
 13.3 輻射の放出,吸収
 13.4 等方調和振動子
 13.5 水素様イオン
 問題

付録:積分の計算法
問題解答
(I),(II)巻総合索引


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