「光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田 伸夫」
「量子力学の教科書の読み比べ」も連日の猛暑で中だるみしているので、一般レベルの本で気分をリフレッシュ。
いい本だと思った。これほど充実した内容でたかだか1200円という「お買い得本」である。
物理学専攻の大学院生でさえ理解が容易ではないという超難解で美しい量子場の理論を、一般向けに解説した珍しい本である。「啓蒙書」という切り口では「相対性理論」、「量子論、量子力学」、「素粒子物理学」、「超ひも理論」のものはたくさん出版されているが、「量子場の理論」のはほとんどなかった。他の分野に比べて一般向けの解説ができるシンプルなイメージを紹介しにくい分野だからだ。
素粒子物理学と量子力学の間の橋渡しをする理論。そして量子場の理論なくして素粒子物理学はありえないことが本書を読めば、一般の読者でもよくわかるはずだ。素粒子といえば電子や陽子、中間子をはじめとする極めて小さな基本粒子であるというのが、一般の方が持っているイメージだと思うが、それは19世紀の原子論的な粒子のイメージの域を出ていない。
実際のところ、時間と空間に満ちているエネルギーの波動の在りようが量子場と呼ばれているもので、その振動状態によってさまざまな素粒子として私たちに見えているというのが本書での説明だ。それだけでなく時間と空間さえも量子場という枠組みに取り込まれてしまうのだ。量子場は素粒子の種類によりそれぞれの場が考えられている。電子場、光子場、クウォーク場、ヒッグス場などがその例。
日ごろ断片的に報じられる素粒子物理学上の発見は素人にはわかりにくい。「あら、またひとつ新しい素粒子が見つかったのね。」くらいにしか理解されないものだ。量子場という素粒子物理学の背景を知ることにより、このようなニュースがどうして重大なのかわかるようになる。
本文中には各所に数式が紹介されているが、一般読者には難しいとしても理工系の大学生ならば十分理解できるレベル。ただ本文が縦書きなので、数式の部分はちょっと読みにくいのが難点かもしれない。(横書き本にしてほしかった。)
本書のもうひとつの魅力は、量子力学~素粒子物理学に至る天才物理学者の個性を詳しく紹介していることだ。ひとつの結論に至る発想や研究手法は、人それぞれであり、いかに天才と言えども感情や思い込みに惑わされてしまうのだ。
読み物としても面白いので一般の方にも読んでいただきたいし、これから専門的に量子場の理論に取り組もうという方にもお勧めしたい。
難解な事柄をいかに上手に一般読者に伝えるかという観点においても成功している。僕自身にとってこの点は大いに勉強になった。
「光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田 伸夫」
目次:
はじめに
序章 原子と場――19世紀物理学の到達点
第1章 粒子としての光――アインシュタイン
第2章 原子はなぜ崩壊しないのか――ボーア
第3章 波動力学の興亡――ド・ブロイとシュレディンガー
第4章 もう1つの道――ハイゼンベルク・ボルン・ヨルダン
第5章 光の場――ディラック
第6章 電子の海――ディラックとパウリ
第7章 量子場の理論――ヨルダン・パウリ・ハイゼンベルク
第8章 くりこみの処方箋――朝永・シュウィンガー・ファインマン
終章 標準模型――20世紀物理学の到達点
もっと深く知りたい人のための注
参考文献
あとがき
キーワード解説
科学者索引
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「量子力学の教科書の読み比べ」も連日の猛暑で中だるみしているので、一般レベルの本で気分をリフレッシュ。
いい本だと思った。これほど充実した内容でたかだか1200円という「お買い得本」である。
物理学専攻の大学院生でさえ理解が容易ではないという超難解で美しい量子場の理論を、一般向けに解説した珍しい本である。「啓蒙書」という切り口では「相対性理論」、「量子論、量子力学」、「素粒子物理学」、「超ひも理論」のものはたくさん出版されているが、「量子場の理論」のはほとんどなかった。他の分野に比べて一般向けの解説ができるシンプルなイメージを紹介しにくい分野だからだ。
素粒子物理学と量子力学の間の橋渡しをする理論。そして量子場の理論なくして素粒子物理学はありえないことが本書を読めば、一般の読者でもよくわかるはずだ。素粒子といえば電子や陽子、中間子をはじめとする極めて小さな基本粒子であるというのが、一般の方が持っているイメージだと思うが、それは19世紀の原子論的な粒子のイメージの域を出ていない。
実際のところ、時間と空間に満ちているエネルギーの波動の在りようが量子場と呼ばれているもので、その振動状態によってさまざまな素粒子として私たちに見えているというのが本書での説明だ。それだけでなく時間と空間さえも量子場という枠組みに取り込まれてしまうのだ。量子場は素粒子の種類によりそれぞれの場が考えられている。電子場、光子場、クウォーク場、ヒッグス場などがその例。
日ごろ断片的に報じられる素粒子物理学上の発見は素人にはわかりにくい。「あら、またひとつ新しい素粒子が見つかったのね。」くらいにしか理解されないものだ。量子場という素粒子物理学の背景を知ることにより、このようなニュースがどうして重大なのかわかるようになる。
本文中には各所に数式が紹介されているが、一般読者には難しいとしても理工系の大学生ならば十分理解できるレベル。ただ本文が縦書きなので、数式の部分はちょっと読みにくいのが難点かもしれない。(横書き本にしてほしかった。)
本書のもうひとつの魅力は、量子力学~素粒子物理学に至る天才物理学者の個性を詳しく紹介していることだ。ひとつの結論に至る発想や研究手法は、人それぞれであり、いかに天才と言えども感情や思い込みに惑わされてしまうのだ。
読み物としても面白いので一般の方にも読んでいただきたいし、これから専門的に量子場の理論に取り組もうという方にもお勧めしたい。
難解な事柄をいかに上手に一般読者に伝えるかという観点においても成功している。僕自身にとってこの点は大いに勉強になった。
「光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田 伸夫」
目次:
はじめに
序章 原子と場――19世紀物理学の到達点
第1章 粒子としての光――アインシュタイン
第2章 原子はなぜ崩壊しないのか――ボーア
第3章 波動力学の興亡――ド・ブロイとシュレディンガー
第4章 もう1つの道――ハイゼンベルク・ボルン・ヨルダン
第5章 光の場――ディラック
第6章 電子の海――ディラックとパウリ
第7章 量子場の理論――ヨルダン・パウリ・ハイゼンベルク
第8章 くりこみの処方箋――朝永・シュウィンガー・ファインマン
終章 標準模型――20世紀物理学の到達点
もっと深く知りたい人のための注
参考文献
あとがき
キーワード解説
科学者索引
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つまり、ディラックはパウリ理論を良く把握していて、それを手本に方程式の中に(γ)行列を入れることによって、クライン-ゴルドン方程式の平方根計算を可能にしたのでした。ディラックはパウリ理論を継承しているということです。
さらに、これは後知恵ですが、シュレディンガー方程式を同じように対処しても、スピンというかスピノルが出てくるので、「相対論的」であることとスピンは直接関係が無いということです。
ここら辺は、「非相対論的にスピンを導く」http://homepage2.nifty.com/eman/quantum/linearize.html が詳しいです。
本当は新潮選書ではなく、ブルーバックスなどで出して欲しかった内容ですね。
新潮選書は科学好きの読者が手に取りにくいですから。
詳しくご説明いただきありがとうございました。僕もこの本は久々によい啓蒙書だと思いました。
「相対論的」であることとスピンは直接関係ないということにもはっと気付かされました。EMANさんのページを読むとよくわかりますね。
確かに新潮選書の本棚には科学好きの読者は寄りつきませんね。僕はこの本を科学書コーナーに1冊だけ置いてあったのを見つけました。
幅広い学識と学問に対する真摯な姿勢をいつも学んでいました。
吉田先生と面識があるとはうらやましい限りです。僕はこの本しか読んだことがありませんが、今日先生のホームページを見て他にも読ませていただきたい本がたくさんあることに気がつきました。
吉田先生のHP
http://www005.upp.so-net.ne.jp/yoshida_n/index.htm
読みたい本は増えるばかりですが、年齢を重ねるに従い、時計は早く回ることを実感しますね。
時間は本当に早く流れますなあ。相対性理論って、これだっけf(^^;。
「楽しい時間は早く流れる。」ですね。アインシュタインは「かわいい女の子と一緒に一時間座っていても、一分間ぐらいにしか感じられない。」って言っていましたね。(笑)
アインシュタイン格言集
http://kuroneko22.cool.ne.jp/einstein.htm
この中で僕が気に入っているのは以下の3つです。
- 常識とは十八歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう。
- 人間の邪悪な心を変えるより、プルトニウムの性質を変えるほうがやさしい。
- 第三次世界大戦はどう戦われるでしょうか。わたしにはわかりません。
しかし、第四次大戦ならわかります。石と棒を使って戦われることでしょう。