「シュレーディンガーのジレンマと夢―確率過程と波動力学:長澤正雄」
本書も確率過程を適用することによって量子力学の波動性と粒子性の共存の謎を解決する試みを紹介した2003年に出版された本である。ブログの読者の方から紹介いただいた。
前記事で紹介した「Excelで学ぶ量子力学―量子の世界を覗き見る確率力学入門:保江邦夫」と同様「量子力学+確率過程=確率力学」なのかな?と思いながら読み始めたのだが、どうも様子が違う。ネルソンの確率力学の紹介本ではないことが読み進めるうちにわかってきた。本書のどこにも「ネルソン」や「確率力学」という言葉はでてこない。
著者は長年にわたって確率過程論や作用素論などの数学分野を研究されてきたチューリッヒ大学の先生で、ご自身が論文として発表されてきた成果を一般向けに紹介したのが本書だったのである。
著者略歴:長澤正雄
1933年前橋市生まれ。1957年東京工業大学物理学科卒業。1959年東京工業大学数学科卒業。名古屋大学、東京工業大学、コーネル大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校、スタンフォード大学、オルフス大学、エルランゲン大学などで数学の研究と教育にあたり、1978年からチューリッヒ大学教授。現在、チューリッヒ大学名誉教授、理学博士
普段は英語でしか文章を書かない生活をしていらっしゃるそうで、周囲の強いすすめではじめて日本語で書いて出版したのが本書なのである。前半は文章と図版で占められ、ときおり先生が発見した数式が紹介されている。各章末に参考資料として掲げられているのも1990年から本書出版の2003年にかけて発表された先生ご自身の論文がほとんどだ。(英語の学術論文なので一般の方には読めない。)後半は文章がほとんどだ。
このようなわけで、本書で展開されている理論はまだ物理学界や世間に受け入れられているわけではないので、学生や一般の方がお読みになるときはそれを踏まえておいたほうがよいと思った。ネルソンの確率力学について本書が触れていないのも、先生ご自身の発見の独自性を強調するためであるのかもしれないとも僕には思えた。
本書の第1章から第3章は量子力学の発展史にあてられている。このあたりの記述はよく見かける量子力学入門書とほぼ同じだ。
第4章「新しい考え方」の章から量子の波動性と粒子性の矛盾にまつわる解説がはじまる。粒子ととらえたときの電子のジグザグ運動をノイズととらえ、確率過程という数学の理論がそれを解決するという話の流れだ。ここまではネルソンの確率力学と大差ない。
第5章で確率過程の二重構造が紹介される。つまり「(量子の運動の)道筋の集合」と「確率法則」の2つの構造のこと。「運動が二つ、数学が二つ」という節で説明されている「運動の全体的なトレンド」と「ゆらぎ(ノイズ)」のことで、運動方程式の中でそれぞれが1つずつの項に対応するという。
第6章「確率過程を作る」から長澤先生独自の理論がはじまっている。つまり「双子の運動方程式」である。式の形はネルソンのものと似ているのだが、現在を基準にして未来へ進む確率過程と現在から過去に遡る確率過程の2本の式をセットにしているところが決定的に違っている。先生は確率過程論の専門家でいらっしゃるから、数学の世界で最近は時間を逆行する確率過程というのも証明されたのかな?と僕は半信半疑状態。少なくとも「確率論:伊藤清」にあったのは時間の流れに沿った確率過程だけだった。
高校の力学で学ぶ「定常波」をイメージするとわかりやすいだろう。次のページの動画で復習してみてほしい。進行波と後退波が重ね合わさることで定常波になる。
定常波
http://phys.slge.u-tokai.ac.jp/experiment/soundwave/Flash/teizyouha.html
長澤先生の理論によると時間順方向の運動のトレンドと、時間逆方向の運動のトレンドが現在の時点での確率過程の分布を決定しているというのだそうだ。
ネルソンの確率力学では「平均前方微分」というもので現在とごくわずかだけ未来の時刻との間の変化率を考えるが、これはあくまで「微小な時間幅の中での平均値」を計算するための手法にすぎない。だからこれが時間を逆行する「何か」の存在を示しているわけではない。
本書で電子の運動については次のように考える。
(運式):電子の運動に対して、双子の運動方程式が存在する。(時間順方向と時間逆方向)
(確程):電子の運動に対して確率過程が存在する。即ち道筋の集合と確率法則が存在する。
(道式):電子の道筋方程式が存在する。それをとけば、可能性のある道筋が全てわかる。
それによって得られる結論は「ノイズのある運動(確率過程)は固有の運動指数を持って、その運動指数が『干渉のような』現象を引き起こす。」というものだ。つまり『干渉のような』であって波動力学が示している『干渉そのもの』ではないというのが長澤先生の主張。
二重スリット実験で得られる干渉縞は複数の確率過程がまとまって1つの確率過程によって決まる「統計法則」によっておこされる現象だというのだ。そうすると1つの電子が次々と飛んでくる状況で干渉縞ができるのは不思議ではないのだという。そしてシュレーディンガーの波動方程式の複素関数の解が実数関数であらわされる確率過程によって得られる解に対応しているということを主張する。ここまでが第8章の内容。
第9章以降ではこれまでの結論を使って自由電子の運動、トンネル効果、水素原子の電子雲、磁場、ボームとアハラノフの効果、ナノサイエンスなどが確率過程によるものだと説明される。
第10章で相対論的量子力学が導入される。この枠組みに先生の確率過程論を組み合わせると、電子の運動は確率法則から予測されるジグザグの軌道上を「ジャンプしながら」運動するようになるのだそうだ。数学的にもご自身で証明したという。非相対論的な場合は、このジャンプが小刻みに起きるために「連続なジグザグ運動」に見えるのだという。
第11章以降はこれまでの結果から長澤先生の持論が展開される。つまり量子力学が発展する中で考えられてきたさまざまな仮説が否定されるのだ。
- シュレーディンガーの波動関数が干渉するのではない。波動のように考えられるものの本質は確率過程である。確率過程が盛んに研究されだしたのは1950年代以降なので、シュレーディンガーが波動の干渉と考えてしまうのは仕方がないことだ。
- ベルの不等式によって量子力学の正しさを判断するモデルは論理的に誤りである。従ってアスペの実験が成功するかしないかは量子力学の正しさを判断する上で無意味である。これは確率過程とは別で、論理としての認識の誤りだという話。
- 波動関数の絶対値の2乗が確率分布を与えるというボルンの確率解釈は間違っている。なぜなら物理現象の本質は波動関数が支配するのではなく確率過程が支配しているのだから。存在確率の計算結果が同じであってもボルンの解釈自体に意味はない。
- ハイゼンベルクの不確定性原理は必要ない。なぜなら(長澤先生の)ノイズのある運動理論では、位置や運動量やエネルギーなどは全て道筋集合の上で定義された確定した値をとるのだから不確定ではない。
- ボーアの相補性についてはボルンの量子力学から生じた不合理をボーア自身がなっとくするために考えだした言い訳であり、ナンセンスである。詳細は本書138ページで解説されている。
- 多世界解釈、パラレルワールドというのは、先生の理論によれば確率過程から生じるギブスのアンサンブルのようなもので確率過程で解決される。
これだけ仮説を否定すれば十分だろう。まるでサイコロの目を決めるのは物理法則ではなく数学法則(確率論)だと言わんばかりの勢いである。数理科学的な立場からお書きになった本なのかもしれないが、あからさまに数学が勝ってしまっている。本書の後半はこのような感じなのだ。
読後の感想は次のとおり。
- ネルソンの確率力学との比較、解説をしてほしかった。特に順方向の時間だけを考えるネルソンの理論だとどうして十分ではないのかというあたり。(2012年4月11日に追記:読者の方から「ネルソンの確率力学でも逆方向の時間を考慮する、つまり「順方向+逆方向」の両方を考慮した理論になっている。」ことを教えていただきました。)
- 前半には先生の見つけた数式がスポット的に紹介してあったが、もう少し詳しく導出過程を示してほしかった。
- 伊藤先生以降に発展した確率過程論と現状を紹介してほしかった。特にどうして時間の逆行した確率過程が必要だったのかなど。
各章末に参考資料として長澤先生のお書きになった論文が多数紹介されているが、アマゾンでも先生の著作(洋書)が販売されているので、紹介しておこう。本書は一般向けに書かれたものであることと「新しい理論」なので、詳しいことは英語の論文や専門書を読まないとわからないのだ。
「Schrodinger Equations and Diffusion Theory: Masao Nagasawa」(1993)
「Stochastic Processes in Quantum Physics: Masao Nagasawa」(2000)
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「シュレーディンガーのジレンマと夢―確率過程と波動力学:長澤正雄」
はじめ
第0章:序章
- ジレンマ
- 夢
第1章:マックスウェルとシュレーディンガー
- 古典論的世界
- 新しい世界
- 波動方程式
第2章:1920年代
- 革命、激動の時代
- ふり返れば
- 作用素と量子化
第3章:マックス・ボルン
- ボルンの統計解釈
- シュレーディンガーの定理
- ボルンの量子力学
- 波動関数のボーアの解釈
- 猫のパラドックス
- 状態(波動)の収縮
第4章:新しい考え方
- 滑らかな動き
- 発想の転換
- ジグザグな運動
- 決定論、因果律
- 運動が二つ、数学が二つ
第5章:ノイズのある運動
- シュレーディンガーとコルモゴロフ
- ブラウン運動
- 確率過程
- 確率過程の二重構造
- 電子のジグザグ運動
- ノイズのある運動」と確率過程
- 真空とノイズ
第6章:確率過程を作る
- 双子の運動方程式
- 運動方程式は確率法則を定める
- 粒子の運動
- トレンドと道筋方程式
- 分布の指数と運動の指数
- 電子の運動
- まとめ
- 力学の二層構造
第7章:確率過程と干渉現象
- 波動の干渉
- 確率過程は運動の指数を持つ
- 運動の指数を混ぜ合わせる
- 二つのスリットの問題
- 重ね合わせ
第8章:夢ではない
- シュレーディンガー方程式との関係
- 波動力学を読み直す
- 夢の実現
第9章:量子的粒子の運動
- 自由運動
- トンネル効果
- 水素原子
- フックの力
- 磁場
- ボームとアハロノフの効果
- 相対論的効果
- ナノサイエンス
第10章:相対論と確率過程
- 相対論的量子的粒子
- 相対論とジャンプ
- 株価の変動とジャンプ
- 量子的粒子と光
第11章:エピソード
- 論理の復習
- 局所性
- アインシュタインの命題
- おはなし
- 認識論、哲学
第12章:幾つかの話題
- 隠れた変数
- 確率過程と作用素論
- 実験と観測
- シュレーディンガーの猫
- 不確定性原理
- 相補性原理
- アインシュタイン
- 多重世界
- 宇宙
- シュレーディンガーの雲
- ミュータント大腸菌
第13章:幾つかの話題、続き
- ファインマンとカッツの公式
- 虚数時間
- 複雑な力
- 公式の限界
- 最小作用の原理
- 一次の力学、二次の力学
- 場の理論
おわりに
索引
本書も確率過程を適用することによって量子力学の波動性と粒子性の共存の謎を解決する試みを紹介した2003年に出版された本である。ブログの読者の方から紹介いただいた。
前記事で紹介した「Excelで学ぶ量子力学―量子の世界を覗き見る確率力学入門:保江邦夫」と同様「量子力学+確率過程=確率力学」なのかな?と思いながら読み始めたのだが、どうも様子が違う。ネルソンの確率力学の紹介本ではないことが読み進めるうちにわかってきた。本書のどこにも「ネルソン」や「確率力学」という言葉はでてこない。
著者は長年にわたって確率過程論や作用素論などの数学分野を研究されてきたチューリッヒ大学の先生で、ご自身が論文として発表されてきた成果を一般向けに紹介したのが本書だったのである。
著者略歴:長澤正雄
1933年前橋市生まれ。1957年東京工業大学物理学科卒業。1959年東京工業大学数学科卒業。名古屋大学、東京工業大学、コーネル大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校、スタンフォード大学、オルフス大学、エルランゲン大学などで数学の研究と教育にあたり、1978年からチューリッヒ大学教授。現在、チューリッヒ大学名誉教授、理学博士
普段は英語でしか文章を書かない生活をしていらっしゃるそうで、周囲の強いすすめではじめて日本語で書いて出版したのが本書なのである。前半は文章と図版で占められ、ときおり先生が発見した数式が紹介されている。各章末に参考資料として掲げられているのも1990年から本書出版の2003年にかけて発表された先生ご自身の論文がほとんどだ。(英語の学術論文なので一般の方には読めない。)後半は文章がほとんどだ。
このようなわけで、本書で展開されている理論はまだ物理学界や世間に受け入れられているわけではないので、学生や一般の方がお読みになるときはそれを踏まえておいたほうがよいと思った。ネルソンの確率力学について本書が触れていないのも、先生ご自身の発見の独自性を強調するためであるのかもしれないとも僕には思えた。
本書の第1章から第3章は量子力学の発展史にあてられている。このあたりの記述はよく見かける量子力学入門書とほぼ同じだ。
第4章「新しい考え方」の章から量子の波動性と粒子性の矛盾にまつわる解説がはじまる。粒子ととらえたときの電子のジグザグ運動をノイズととらえ、確率過程という数学の理論がそれを解決するという話の流れだ。ここまではネルソンの確率力学と大差ない。
第5章で確率過程の二重構造が紹介される。つまり「(量子の運動の)道筋の集合」と「確率法則」の2つの構造のこと。「運動が二つ、数学が二つ」という節で説明されている「運動の全体的なトレンド」と「ゆらぎ(ノイズ)」のことで、運動方程式の中でそれぞれが1つずつの項に対応するという。
第6章「確率過程を作る」から長澤先生独自の理論がはじまっている。つまり「双子の運動方程式」である。式の形はネルソンのものと似ているのだが、現在を基準にして未来へ進む確率過程と現在から過去に遡る確率過程の2本の式をセットにしているところが決定的に違っている。先生は確率過程論の専門家でいらっしゃるから、数学の世界で最近は時間を逆行する確率過程というのも証明されたのかな?と僕は半信半疑状態。少なくとも「確率論:伊藤清」にあったのは時間の流れに沿った確率過程だけだった。
高校の力学で学ぶ「定常波」をイメージするとわかりやすいだろう。次のページの動画で復習してみてほしい。進行波と後退波が重ね合わさることで定常波になる。
定常波
http://phys.slge.u-tokai.ac.jp/experiment/soundwave/Flash/teizyouha.html
長澤先生の理論によると時間順方向の運動のトレンドと、時間逆方向の運動のトレンドが現在の時点での確率過程の分布を決定しているというのだそうだ。
ネルソンの確率力学では「平均前方微分」というもので現在とごくわずかだけ未来の時刻との間の変化率を考えるが、これはあくまで「微小な時間幅の中での平均値」を計算するための手法にすぎない。だからこれが時間を逆行する「何か」の存在を示しているわけではない。
本書で電子の運動については次のように考える。
(運式):電子の運動に対して、双子の運動方程式が存在する。(時間順方向と時間逆方向)
(確程):電子の運動に対して確率過程が存在する。即ち道筋の集合と確率法則が存在する。
(道式):電子の道筋方程式が存在する。それをとけば、可能性のある道筋が全てわかる。
それによって得られる結論は「ノイズのある運動(確率過程)は固有の運動指数を持って、その運動指数が『干渉のような』現象を引き起こす。」というものだ。つまり『干渉のような』であって波動力学が示している『干渉そのもの』ではないというのが長澤先生の主張。
二重スリット実験で得られる干渉縞は複数の確率過程がまとまって1つの確率過程によって決まる「統計法則」によっておこされる現象だというのだ。そうすると1つの電子が次々と飛んでくる状況で干渉縞ができるのは不思議ではないのだという。そしてシュレーディンガーの波動方程式の複素関数の解が実数関数であらわされる確率過程によって得られる解に対応しているということを主張する。ここまでが第8章の内容。
第9章以降ではこれまでの結論を使って自由電子の運動、トンネル効果、水素原子の電子雲、磁場、ボームとアハラノフの効果、ナノサイエンスなどが確率過程によるものだと説明される。
第10章で相対論的量子力学が導入される。この枠組みに先生の確率過程論を組み合わせると、電子の運動は確率法則から予測されるジグザグの軌道上を「ジャンプしながら」運動するようになるのだそうだ。数学的にもご自身で証明したという。非相対論的な場合は、このジャンプが小刻みに起きるために「連続なジグザグ運動」に見えるのだという。
第11章以降はこれまでの結果から長澤先生の持論が展開される。つまり量子力学が発展する中で考えられてきたさまざまな仮説が否定されるのだ。
- シュレーディンガーの波動関数が干渉するのではない。波動のように考えられるものの本質は確率過程である。確率過程が盛んに研究されだしたのは1950年代以降なので、シュレーディンガーが波動の干渉と考えてしまうのは仕方がないことだ。
- ベルの不等式によって量子力学の正しさを判断するモデルは論理的に誤りである。従ってアスペの実験が成功するかしないかは量子力学の正しさを判断する上で無意味である。これは確率過程とは別で、論理としての認識の誤りだという話。
- 波動関数の絶対値の2乗が確率分布を与えるというボルンの確率解釈は間違っている。なぜなら物理現象の本質は波動関数が支配するのではなく確率過程が支配しているのだから。存在確率の計算結果が同じであってもボルンの解釈自体に意味はない。
- ハイゼンベルクの不確定性原理は必要ない。なぜなら(長澤先生の)ノイズのある運動理論では、位置や運動量やエネルギーなどは全て道筋集合の上で定義された確定した値をとるのだから不確定ではない。
- ボーアの相補性についてはボルンの量子力学から生じた不合理をボーア自身がなっとくするために考えだした言い訳であり、ナンセンスである。詳細は本書138ページで解説されている。
- 多世界解釈、パラレルワールドというのは、先生の理論によれば確率過程から生じるギブスのアンサンブルのようなもので確率過程で解決される。
これだけ仮説を否定すれば十分だろう。まるでサイコロの目を決めるのは物理法則ではなく数学法則(確率論)だと言わんばかりの勢いである。数理科学的な立場からお書きになった本なのかもしれないが、あからさまに数学が勝ってしまっている。本書の後半はこのような感じなのだ。
読後の感想は次のとおり。
- ネルソンの確率力学との比較、解説をしてほしかった。特に順方向の時間だけを考えるネルソンの理論だとどうして十分ではないのかというあたり。(2012年4月11日に追記:読者の方から「ネルソンの確率力学でも逆方向の時間を考慮する、つまり「順方向+逆方向」の両方を考慮した理論になっている。」ことを教えていただきました。)
- 前半には先生の見つけた数式がスポット的に紹介してあったが、もう少し詳しく導出過程を示してほしかった。
- 伊藤先生以降に発展した確率過程論と現状を紹介してほしかった。特にどうして時間の逆行した確率過程が必要だったのかなど。
各章末に参考資料として長澤先生のお書きになった論文が多数紹介されているが、アマゾンでも先生の著作(洋書)が販売されているので、紹介しておこう。本書は一般向けに書かれたものであることと「新しい理論」なので、詳しいことは英語の論文や専門書を読まないとわからないのだ。
「Schrodinger Equations and Diffusion Theory: Masao Nagasawa」(1993)
「Stochastic Processes in Quantum Physics: Masao Nagasawa」(2000)
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「シュレーディンガーのジレンマと夢―確率過程と波動力学:長澤正雄」
はじめ
第0章:序章
- ジレンマ
- 夢
第1章:マックスウェルとシュレーディンガー
- 古典論的世界
- 新しい世界
- 波動方程式
第2章:1920年代
- 革命、激動の時代
- ふり返れば
- 作用素と量子化
第3章:マックス・ボルン
- ボルンの統計解釈
- シュレーディンガーの定理
- ボルンの量子力学
- 波動関数のボーアの解釈
- 猫のパラドックス
- 状態(波動)の収縮
第4章:新しい考え方
- 滑らかな動き
- 発想の転換
- ジグザグな運動
- 決定論、因果律
- 運動が二つ、数学が二つ
第5章:ノイズのある運動
- シュレーディンガーとコルモゴロフ
- ブラウン運動
- 確率過程
- 確率過程の二重構造
- 電子のジグザグ運動
- ノイズのある運動」と確率過程
- 真空とノイズ
第6章:確率過程を作る
- 双子の運動方程式
- 運動方程式は確率法則を定める
- 粒子の運動
- トレンドと道筋方程式
- 分布の指数と運動の指数
- 電子の運動
- まとめ
- 力学の二層構造
第7章:確率過程と干渉現象
- 波動の干渉
- 確率過程は運動の指数を持つ
- 運動の指数を混ぜ合わせる
- 二つのスリットの問題
- 重ね合わせ
第8章:夢ではない
- シュレーディンガー方程式との関係
- 波動力学を読み直す
- 夢の実現
第9章:量子的粒子の運動
- 自由運動
- トンネル効果
- 水素原子
- フックの力
- 磁場
- ボームとアハロノフの効果
- 相対論的効果
- ナノサイエンス
第10章:相対論と確率過程
- 相対論的量子的粒子
- 相対論とジャンプ
- 株価の変動とジャンプ
- 量子的粒子と光
第11章:エピソード
- 論理の復習
- 局所性
- アインシュタインの命題
- おはなし
- 認識論、哲学
第12章:幾つかの話題
- 隠れた変数
- 確率過程と作用素論
- 実験と観測
- シュレーディンガーの猫
- 不確定性原理
- 相補性原理
- アインシュタイン
- 多重世界
- 宇宙
- シュレーディンガーの雲
- ミュータント大腸菌
第13章:幾つかの話題、続き
- ファインマンとカッツの公式
- 虚数時間
- 複雑な力
- 公式の限界
- 最小作用の原理
- 一次の力学、二次の力学
- 場の理論
おわりに
索引
著者は数学者なので彼自身が主体となって行った検証実験はありません。詳細は著者がお書きになった(数学の)論文を見てくださいと書いてあるわけです。
また、本書には「外村彰氏の行った二重スリットの実験結果が私の理論の正しさを証明している。」と記述されているだけです。
観測される物理現象についてはこれまでの量子力学の枠組みで説明されるのと同じ結果が得られるわけですから、それでは新理論の正しさを証明することにはなりませんしね。
あくまでこの本はご自身の「新説」、「新解釈」を紹介している本なわけです。
「○○の実験結果が私の理論の正しさを証明している」と言うからには、その実験は既存理論で違う結果でなきゃ変ですね。
まったくhirotaさんがおっしゃるとおりです。
> 「既存と同じ結果が得られる」と書いてあるんですか?
該当箇所を本に書いてあるまま載せておきます。
「外村は旧来の量子力学の解釈に従って、これを電子の波動現象だと考えているようですが、それは違います。外村の実験は、縞模様が一個の電子の波動現象ではなくて、多数の電子の純粋に統計的な現象であることを示しています。つまり、ノイズのある運動の力学が成り立つ(正しい)ことが実験で示されたわけです。」
「証明」という言葉を僕が使ったのは長澤先生のノイズのある運動の力学を成り立たせる方程式が、先生の数学論文の中で「数学として」成り立つことが証明されているという意味です。
たまたま、Webを検索してまして辿り着きました。
Nelson理論は時間巡行の確率過程しか考えていないとの記述がありますが、実際には平均後方微分というものも定義してそれと合わせて時間反転不変な力学式を仮定して理論を展開しています。
私も長澤さん本を読みましてNelson理論との対応関係が知りたいと思っています。
時間を逆行する確率過程の意味合いがどうも未だにしっくり来ないです。イメージが湧かないというか何と言うか・・・
すいません、雑感でした。
コメントありがとうございます。Nelson理論でも時間の逆向する確率過程が考慮されていましたね。間違いを指摘していただきありがとうございました。
あらためて保江先生の「量子力学(数理物理学方法序説)」の該当箇所を調べたところ、時間についての平均前方微分と平均後方微分の両方が使われていることを確認しました。
記事本文もそれに合わせて追記しておきました。
時間の逆向についての考え方はファインマン先生の理論にも見られますが、順方向と逆方向の確率振幅の干渉によって量子力学が成り立つということになります。数学的にはイメージできますが、物理的にイメージするのは難しいですね。